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駄天使☆(サブ)
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※消失ネタ注意。ハピエンです。
「何の話してるんね…?フランス今日ちょっとおかしいよ」
イタリアから無慈悲にも放たれたその言葉が僕の心の奥深くに突き刺さった。あり得ない。何故。そんな訳がない。だって、だって僕はあいつと100年も戦争をしたんだから。
事の発端はいつも通りの世界会議。何も進展のないただの戯れに等しいその会議にて起こった。会議開始時刻になってもあいつが現れないのだ。
あいつ…と言っても分からない人も多数いるだろう。黒いシルクハットにリボンを纏わせ、堅苦しい古めのスーツに身を包み、日替わりでループタイだのネクタイだのクラバットだのを結び、年季を感じる懐中時計だのモノクルだのを愛用する、不敵な笑みを浮かべた僕の隣国。名をUnited Kingdom of Great Britain and Northern Ireland…。分かりやすく言うとイギリスである。
僕は大層驚いた。何故ならあいつは世界的にも遅刻はしないタイプだからである。僕も遅刻はあまりしないが、たまにすることもある。大体ストライキで移動手段がなかったり、食事が長引いていたりなんかの理由なのだが、あの紳士を自称する真面目野郎がそんな理由で遅れる訳がない。そもそも僕のところのストライキとあいつのところのストライキとでは規模ややり方から何から何まで違うと言っても過言ではないのだ。ストライキで移動手段が潰れることなどあり得ない。あるとするのならば電車の遅延だ。あいつの家の電車はあいつの生真面目さからは想像も付かないほど遅延や運行キャンセルが多い。色々と事情はあるようだけど。………とまぁ色々語ったが、何を言いたいかと言うとあいつが遅刻するのはとんでもなく珍しいということだ。どっちにしろあいつはマメな奴だし、遅刻するとしたら連絡が来るだろう。しかし僕に連絡は来ていないし、他のやつも話題にしない辺り連絡は無さそうだ。となるともはや事故か事件に巻き込まれた可能性すら浮上する。そのくらいあいつが遅刻するという状況は僕にとってあり得ないものなのだ。
それにしても、そんな状況だと言うのに周りの国々は全くあいつのことを話題にしない。今はまだ会議が始まっていないが、それは数分ほど遅刻するという連絡があったスペインを待ってのことだ。あいつのことは一切話題に出ていない。
「ねぇドイツ、あいつ来てないけど、なんか連絡来た?」
痺れを切らした僕はドイツに連絡の有無を聞いた。今回の会議のホストはドイツだし、そもそもドイツも生真面目な奴だ。連絡を取るとしたらこいつだろうと踏んでのことである。
「あいつ………?あぁ、スペインのことならさっきあと10分ほどで着きそうだと連絡があったから心配しなくていい」
サラリと告げられたその言葉に僕は唖然とした。………え?スペイン?どうしてそうなったのだろうか。ドイツは聡いやつである。というか誰であってもこの場合のあいつは誰のことを指すのかくらいすぐ分かるはずだ。少々癪なことだが、そのくらい僕はあいつのことを話しており、それを周りに認知されているらしい。………どう弁明したところで、事実としてあいつの話をしてしまっている以上どうしようもない。だからこそ僕はそれを逆手に取り、イギリスのことをあいつあいつと呼んでいるのだが。ドイツが何をどう考えたのか僕には知る由もないが、ドイツは僕の言ったあいつをスペインのことだと勘違いしたようだ。確かにスペインも来てないけど、何故突然スペインに飛躍したのだろう。イギリスがいない時点で分かるものではないのか?僕が抱いた少しの疑問は、後々大きなものとなって僕に襲いかかってくる。
「え?いやスペインじゃなくて…、僕が指してるのはイギリスのことね?あいつ今日いないじゃん。珍しいなと思って…」
「…イギリス?」
怪訝そうな顔で聞き返された。訳がわからないというように僕を見つめてくるが、その目をしたいのは僕の方だ。
「…は?だからイギリスだって。UK、知らないはずないでしょ?」
はて、というように深く思案し始めてしまったドイツを見て混乱がより一層深くなった。焦ったように机に乗り出し辺りを見渡す。いつもあいつが殴りたくなるような顔をして座っている場所にはアイルランドが座っていた。そしていつもアイルランドが座っていた位置には何もない。さらに携帯電話を開いた。完全に焦っている僕の行動にドイツはまた眉間の皺を深めていたが、そんなものを目にくれずあいつの連絡先を探す。隅から隅まで、電話番号からメッセージ、ほとんど動いていない作っただけのようなSNSのアカウントまで探し回ったがあいつの連絡先はそれだけ魔法にかけられたように綺麗さっぱりなくなっていた。湧き出る汗が頬を伝う。混乱の極まりにいる僕にドイツがかけているであろう声は半分も届かない。スクロールして地図アプリを開く。まさか、そんなことは。そう思いながら現在地からどんどん縮小しヨーロッパを見渡す。
フランスの隣に位置するあの島国は、そこだけが跡形もなく消え失せていた。
「ちょっとフランス、冷や汗ヤバいんね。大丈夫?」
ドイツが呼んだのか、はたまた通りかかったのか。それすらも気付けていなかったが、いつの間にか僕の前には緑、白、赤のトリコロールが広がっていた。イタリアだ。
「何かあったのか?突然焦ったようにスマートフォンを操作しては青ざめていったが…」
「………イギリス」
「それが関係しているのか?…すまないが、俺はそれを知らないぞ。国なのか?未承認国家か、旧国か…」
「イギリスって国は僕も知らないんね。どこにあるの?」
とても嘘をついているようには見えないのも僕の精神を抉った。地図上に浮かぶアイルランドの隣、ぽっかり空いた海を指す。
「ここ」
「…え?海しかないよ?」
「こんなところに何かあったという話は聞いたことないが…。」
「イギリスが、イギリスがあったんだよ。ねぇ、コモンウェルスは?アメリカは…?どうなってるの。ねぇ、あいつはどこなんだよ」
………そこからは冒頭に戻る。混乱の真っ只中にいる僕。そして別の混乱に包まれるドイツとイタリア。無い議席や地図上の土地。どちらがおかしいのかなんて、もはや明確だった。
イギリスは存在しない。
その結論に至った時、周りの喧騒が消え去ったかのように一瞬聞こえなくなった。ただその結論だけが僕の何かをつんざくように響き渡るのみである。
「…ンス、フランス!!!」
目の前で大声で叫ばれ、ようやく辺りの喧騒が戻ってくる。異変を感じ取ったのか、多くの国からの視線を感じたが、もはや今の僕にとってそんなものはどうでも良かった。
イギリスはいないのだ。地図上にないということは、過去に途絶えた、などという浅はかなものなどではなく、最初からそんなもの存在しなかったということだろう。じゃあなんで僕には記憶があるのだろうか。あいつの昔々の小さい姿も、100年戦争を続けたときの不敵な笑みも、アメリカに独立されたときのあの絶望の表情も、産業革命に入り得意げにステッキを鳴らすあの姿も、世界大戦でナチスに空爆されながらも必死に喰らいつくその歪んだ口も、ペラペラと回り皮肉を生み出すその声も、僕の料理に舌鼓を打っているのに、口から飛び出すのは「まぁまぁですね」とか「悪くはないです」のような微妙な言葉なことも、テディベアがないと眠れないことも、何もかもがなくても大丈夫なようで、実は少々寂しがりなところも、僕は全部全部覚えている。
希望に縋りたかった。アメリカに聞いた。誰だそいつと返された。
カナダに聞いた。知らないですね…すみませんっ…。と返された。そいつらが言うには、アメリカはイギリスではなく僕から独立したというし、カナダも同様だ、と言った。………まぁ最初に所有権争いをしたのは僕とあいつだし、いなかったというのなら必然的に僕がとったのだろう。
日本に聞いた。申し訳ないですが、存じ得ない方ですね…。と返された。言うに日英同盟がなくなった影響で日露協定を結び、日露戦争は起きなかったという。というか詳しく聞いてみると、イギリスがいなかった分僕は成長が著しく、第二次世界大戦はほぼドイツ対僕とソ連だったという。降伏もしなかったようだ。それだけは黒歴史が減るから嬉しいかもしれない。しかしながらライバルがいなかったというのも事実であり、その為に成長のスピードも衰え老害化していたらしい僕はロシアやアメリカがバックについていなければ負けていたのも事実なようだ。まぁ分からなくもない。
スペインに聞いた。知らないやつだなと返された。オランダや僕に少しずつ覆されつつも、無敵艦隊の恥はそこまでなかったようだ。
中国に聞いた。そんな奴知らねぇアルと返された。アヘン戦争は無かったが、それでも中国が僕たちに占領されていくのは変わらなかったらしい。まぁ…目をつけられたのだと思う。
ロシアに聞いた。知らねぇとぶっきらぼうに返された。
オーストラリアに聞いた。なんだそれ?と返された。国旗も変わっていた。
ニュージーランドに聞いた。知らないですねぇと返された。こちらも国旗が変わっていた。
インドに聞いた。あいつに、そいつに、手当たり次第に誰にでも聞いた。イギリスを知るやつは誰もいなかった。
分かりきっていたことだ。そう、分かっていても。確定してしまった。イギリスがこの世界にいないことが。僕しか知らない、妄想の中の国になってしまった。もうあいつに料理を食べさせることはおろか、軽口を叩き合い弄り合い殴り合うことも叶わない。あの声でたった一言、「フランス」と、そう呼ばれることさえもう叶わないのだ。
溢れ出た涙を隠すように僕は机に突っ伏した。もう、あいつがいなくなって清々した。なんて言い訳を言う気にもなれない。失ってから気付くなんて、素晴らしく滑稽なものだ。あいつに皮肉を言われたい。Mみたいなことと思われるかもしれないが、あいつなりの思いの伝え方と訳してしまえばただ捻くれただけの気持ちそのものなのだから。あいつに料理を食べさせたい。口ではどうこう言いがかりをつけながら、もぐもぐと一心不乱に食べ続けるところを見たい。あいつと殴り合いの喧嘩をしたい。………なんでかと言われるとなんとも言えないが、本能的なものなのかもしれない。
あぁ、あいつに会いたい。
涙が頬を伝うその感覚さえどうでもいいほど、そう強く願った。こんなもの、夢であったなら、良かったのに。目を閉じればきっと、そこには………。
「ンス、フランス」
既視感を覚えるような言葉で肩を揺さぶられ起こされる。もっとも、声もニュアンスも違ったが。
誰だよ。もういいよ。放っといてよ。起きようとも思えずに、またすぐに目を閉じた。…ん…?
「フランス、起きろって言ってるでしょう。はぁ…会議中だと言うのによくもまぁすやすやと。これは今回の議題を上げた私への挑発とみなしていいですか?」
薄く目を開けた。古臭くて、きっちりと着られたスーツ。つらつらと皮肉を紡ぐ声。
「イギリス…?」
「えぇそうですが。なんです?起こしてあげたことくらい感謝してくださいよ全く」
やれやれというように頭を振る目の前のそいつに、僕は勢い良く抱きついた。
周りから驚いたような声が上がっていることから、周りに国々がいたことに気付いたが、そんなものは一切気にせずにそいつを締め付けるが如く抱きしめる。
「はぁ…!?ちょ、何して…」
「ぃぎりすだ。いぎいすがぃる」
涙が溢れてやまないせいか、自分でも呆れるほど弱々しい声が響いた。今だけは、ずっとこいつに触れていたかった。
僕もようやく落ち着いて、流石に恥ずかしいことをしたなと思い直した頃。混乱の真っ只中のイギリスに1から10までの説明を求められ、その説明も終わった頃だ。
「あのですねぇ…、私が消える夢を見て号泣って、貴方子供ですか?」
「うるっさいな…」
それにしても煽るような、それでいて何か別の感情も思わせるような上手く形容し難い表情を浮かべながらイギリスは口の端を釣り上げていた。まぁつまりは笑っていた。屈辱的でしかないが、今回はやったことがやったことなので仕方なく耐える。………いややっぱり一発ぶん殴ってやりたくなってきた。
「うわ恥ずかしくなったら暴力ですか」
「もうなんでもいいから一発殴らせて」
「野蛮ですねぇ、そういうことしてるから夢見が悪くなるのでは?」
「関係ないだろ!!!」
「残念ながら、私はフランスが消える夢を見てもあんな風に号泣できませんね…(笑)」
「うるさい今すぐ忘れろ!!!」
「仕方ないですねぇ…貴方に同調するのは癪ですし一生覚えておいてあげましょう」
「クッソ野郎お前なんて大っ嫌いだよばぁぁか!!」
そうして、こういう物語のド定番たる夢オチというもので、この騒動は幕を閉じるのである。………やっぱりあいつなんて大嫌いだ。
「ふふ、いやぁ…面白いものが見れましたね」
思い出すだけで笑えてくる。まさかあんなことが起こるとは露にも思っていなかった。
「私が消えた夢を見て号泣…とは」
フランスが会議中に寝た。それだけ言えば特に珍しいことではない。退屈になると寝るようで、時々寝息を立てている様が私の議席からも見える。が、今日はとにかく様子がおかしかった。息は荒く、顔は歪んで挙げ句の果てには泣き出したのだ。寝ながら。流石に心配にな…。ごほん。私の発表中に寝られたのも癪だったため起こしにかかると唐突に抱きつかれたかと思えばまた泣き出した。その涙の跡はまだスーツについている。
「ふふ、あはは」
一人で笑っている。それだけ見たら異様なものだろう。でも少しばかり面白くて堪らない。
あの目を涙で支配したのは私であるということに。
私が消えるのが嫌で泣いた、ということは、私のために泣いた、と言い換えていいだろう。つまりはあの目を涙で包ませたのは私であるのだ。こんなにも面白いものはない。
愛と言われるのかもしれない。自分のために涙を流してもらったのが嬉しい、と取るのなら確かに愛に近しいのかもしれない。でもこれは愛ではないだろう。
愛というより支配欲だ。私はフランスを支配したい。そう思う。あいつの頭の中を私で埋め尽くしてやったら面白い。そういう支配欲が、私の頭の中には昔から癖として眠っている。対象は何もフランスだけではなかった。だからこそ世界を支配しようとしたのだが。まぁ今となってはフランスが主である。
あいつを私で埋め尽くしたいとは、なんとも歪んだ愛のようなものだと私も思うが、これはきっと愛なんて生優しく暖かく綺麗なものじゃない。もっと歪み歪んでドス黒く汚い執着の上位互換だ。それに、俺はフランスが大嫌いである。これは覆せない。愛憎なんてよく言うが、大嫌いである、という感情も絶対に否めないのである。
フランスに対する支配欲をひけらかすつもりはない。いつまでもいつまでも、墓場まで増幅しようが持っていくのだ。
だから私から言えることは愛してるなんてものではなく、確定している大嫌いだけである。
「まぁ…貴方が消えても泣けはしないでしょうが、悲しんでくらいやりますよ」
誰に言うわけでもなくそう呟いて、私は帰路についた。こんな時でも皮肉でコーティングしないとならないとは、それこそ皮肉なものだ。
追記 どうやら設定の違いで見づらくなってしまったようです。隙間は多少無くし見やすくしましたが、1つの段落が長く申し訳ありません。
コメント
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イギリスくんが居なくなって泣いちゃうフランスくんも、それを見て喜んでるイギリスくんも可愛すぎる…っ、尊!!!💕 私のバッドエンド脳が働いてイギリス出てきた辺りで「これはフランスくんが幻覚を見ているのではないか…」という考えが出てきてしまいましたゎ(()) 供給ありがとうございます…!!!