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「ジェフェリー・バラード……って言われても分かんなかったわ。俺、その人に会ってる?」
ジェフェリーさんの名前を聞いてもルーイ様はピンとこないようだ。彼は私の家に何度も訪れていたけど、瞬間移動のような魔法を駆使して、直接部屋に入り込んでいた。私以外の人間と接触するのを避けていたのだろう。それに、ジェフェリーさんの話をしたと言っても一度だけ。覚えていなくてもしょうがないのかも。
「どうでしょう……見かけたことはあるかもですが、しっかりと対面されたことは無いと思います」
「何か用でもない限り、私達使用人と会話をすることはないでしょうしね」
「ルーイ様は以前、私に魔法について教えて下さいましたよね。その時にジェフェリーさんの事を僅かですが伝えていたのですけど……」
「えー……そうだっけ?」
ルーイ様は一生懸命思い出そうとしてくれているけれど難しいみたい。腕を組んで、顔を天井に向けながら唸っている。
「ムリ、諦めた。で、そのジェフェリーさんがどうしてお前達から魔法使いだと疑われてるんだ?」
リズは数ヶ月前の出来事をルーイ様に説明した。ジェフェリーさんが水の魔法を使っているように見えたこと……そして、彼の側に黄色に輝く物体が浮遊していたこと。私達がジェフェリーさんをニュアージュの魔法使いではないかと、疑念を抱いてしまった理由だ。
「後から冷静になってみると、天気雨がそう見えただけかもしれない。勘違いだったんじゃないかって……考えれば考えるほど自分の記憶が信用できなくなりました。そんな曖昧な情報を、殿下や『とまり木』の方に伝えるのも憚られて……」
「それでもちゃんと報告すべきだというのは、私もリズも承知しています。黙っていてもいずれバレてしまうだろうし。でも、レオンが……私達が襲われたことを酷く怒っていたんです。だから怖くて言えなかった」
ニュアージュの魔法使いは特に警戒されている。ジェフェリーさんが捕まってしまうかもしれないと思うと怖かったのだ。私達の話を最後まで聞き終えると、ルーイ様は口を開いた。
「それでまずは、自分達だけで確かめようとしたってわけね。レオンは結構短気だからなぁ……キレると何しでかすか分からん怖さもある。特にクレハ絡みはな。不安になるのは分かるよ。でも、証拠も無しに魔法使いってだけですぐに捕まえたりはしないだろう」
「はい……」
「それに、そのジェフェリーさん……さっきリズちゃんも言ってくれたけど、レオンの感知に引っ掛からないなら魔法使いである可能性は限りなく低い」
ルーイ様もリズと同じ理由で、ジェフェリーさんは魔法使いではないと語る。ニュアージュの魔法使いが持っているサークスは魔力の塊。レオンがこの近距離で見逃すはずがないと。リズはルーイ様からもそう言ってもらえたことで、ようやく肩の荷が下りたようだった。私も胸を撫で下ろす。しかし、その直後ルーイ様が言った言葉に驚愕することになる。
「でもね、俺はリズちゃんが見間違いをしたとも思えないんだよ。魔法使いはいたんじゃないかな……ただし、それはジェフェリーさんじゃなくて別の人間」
「別のって……」
「クレハ、この話……レオン達にも知らせた方がいい。そして、ジェフェリーさんに直接質問してみろ。魔法使いかどうかではなく……」
『魔法使いに会ったことはないか』と……ジェフェリーさんにやましい事がないなら教えてくれるはずだと、ルーイ様は主張する。私とリズはジェフェリーさんが魔法使いかもしれない……そればかりに気を取られていた。その場に他の人間がいたかもしれない可能性を考えていなかった。
リズはルーイ様から指摘を受け、黙り込んでしまう。数ヶ月前の記憶を必死に遡っているのだろう。リズが見た不思議な現象……そこにいたのがジェフェリーさんだったから、リズは彼を魔法使いだと思い込んでしまったのだ。もしルーイ様が言うように、別の誰かが潜んでいたのなら……その人が本当の魔法使い。
「お前達が言いにくいなら俺が伝えてやろうか。この手の話ならレオンも俺に従うだろうし。ジェフェリーさんに手荒な真似をしないよう忠告もしてやる」
「本当ですか!! ルーイ様」
「ああ……でも先にセディに話を通した方がいいかな。レオンの前にワンクッション置きたい」
ルーイ様の提案に私とリズは間髪を入れずに頷いた。私達だけではなく、ジェフェリーさんまで気遣ってくれるなんて……やはり彼に相談して良かった。頼りになる。
「お前達もふたりで抱え込んで大変だったな」
ルーイ様の先生としての信頼は厚い。魔法に関連することなら、私達が話すよりも説得力がある。きっと上手に取り成してくれるだろう。
「ありがとうございます、ルーイ様。よろしくお願いします」
「おう、任せときな」
「頼もしいです。それにしてもルーイ様ったら、レオンやセドリックさんとあっという間に仲良くなられましたよね」
彼なら大丈夫だろうと分かっていても、心のどこかでは案じていたのだ。馴染めなかったらどうしようって……何たって神様ですもの。しかし、それは要らぬ心配だった。
「まあね。特にセディとは、もっともーっと仲良くなりたいなぁ」
「同居人だからですか? 充分仲良しだと思いますけど……」
「そう、同居人。だから焦らなくてもこれからチャンスはいくらでもあるんだけど……俺としては短期決戦でいきたいんだよね。ぶっちゃけ、あの感じは押せばいけると思うし」
「よく分からないですが頑張って下さい。仲が良いのはよい事ですから」
「うん、応援してて」
「はい!」
「おふたりの会話、後半から微妙に噛み合ってないような……」
私とルーイ様のやり取りを見守っていたリズが、小さな声で呟いた。