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ハーブティーをゆっくり飲むと、もう夕食の時間も迫っていた。
「貴仁さんは、お部屋で休んでいてくださいね。私はもう少しだけすることがあるんで」
そう言いおいた後で、源治さんとこっそりと目配せをし合う。
彼が頷いて部屋へ戻って行くと、先ほど話したことを叶えるために、源治さんと厨房へ向かった。
シェフの方に紹介をしてもらい、作りたいものを伝え、手ほどきを受ける。
ディナーの準備で美味しそうな匂いが充満する傍らで、材料を混ぜ合わせ容器に流し込むと、出来上がりにわくわくしつつ冷蔵庫で冷やしてもらった。
「貴仁さん、喜んでくれるかな」
閉じた冷蔵庫の前でひとり呟くと、その場を想像するだけで楽しみで仕方がなくて、顔がふにっとほころんだ。
今夜も、格別なお料理の数々を大満足でいただいてから、
「とっておきのデザートです」と、冷やしておいた手作りのラベンダームースを、彼へ出した。
「これは、君が作ったのか?」
小振りのデザートグラスに、煮詰めたラベンダーシロップとヨーグルトを混ぜ合わせゼラチンで固めて、上にラベンダーの花をあしらった紫色のムースに、彼が興味深げに目を落とす。
「ええ、シェフの方に聞いて……。あなたの口に合うといいのだけれど……」
見つめる彼の眼差しに、まるでスイーツではなく、自分自身が凝視されているかのような錯覚に陥る。
「とてもおいしそうだ。それに、ラベンダーのいい香りもするな」
「あっ……と、ラベンダーの香りにはリラックス効果があるので、貴仁さんにぜひにと思って……」
隣に座り自らもスプーンを手にすると、食べようとする彼の手元をじっと見やった。
「ああ、私がさっき寝てしまったから、それでか……ありがとう」
無言でふるふると首を横に振って応える。
一口をスプーンですくって食べ、「うん、うまいな」と、彼が優しげに微笑むと、ようやくほぅーっと緊張が解けて、(作ってよかった)という喜びが、胸いっぱいに溢れて広がった。