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薄暗い廃ビルの屋上。夕日が沈みかけた空を背景に、六人の影が揺れる。
「で、誰がうちのこさめに手ぇ出したって?」
らんの低く落ち着いた声が、場の空気を凍らせた。
こさめの頬に、小さく腫れた痣。その話を聞いた瞬間、空気はピリついた。
「らんくん、俺は大丈夫だってば。ちょっと当たっただけで――」
「“当たっただけ”で腫れるわけねぇだろ。俺の前じゃ、無理に笑わなくていいって言ったよな?」
普段は滅多に怒らないリーダーの気配が、今夜は違う。
「……相手、俺が片付けてくる」
すっと立ち上がったのは、いるま。拳に包帯が巻かれ、滲んだ血がまだ乾いていない。
「待って、いるま。……俺らが避け損ねたんだって。もう倒してんだし、いーだろ」
ひまなつが、いつもの気だるげな声で割って入る。けれど、その瞳だけは真剣だった。
「……は?」
「だから……怒んないでよ。いるま、無意識に人ぶん殴りすぎなんだってば」
「お前……怪我してんのか」
「かすり傷程度」
いるまの拳が、ぎり、と音を立てた。
「なつが傷つくのは……絶対、許さねぇ」
それを聞いたひまなつの表情が、一瞬揺れる。けれど、いるまはまだ自分の気持ちに気づいていない。
その少し後ろで、すちが黙ってみことの手を拭っていた。手の甲には、すり傷。喧嘩の痕だ。
「……また絡まれた?」
「うん。でも大丈夫」
みことは笑うけど、その目は遠い。
――まるで、どこか別の世界にいるような。
「……みことって、なんでそんな顔で喧嘩するの?」
すちはそっとガーゼを貼り、みことの頭を撫でた。その手は、あたたかかった。
「……わかんない。でも、すちの手、すき。あったかくて……なんか、安心する」
すちの手が止まる。
「……それ、ずるいな。そんなこと言われたら、期待しちゃうだろ」
「え? 何が?」
「……なんでもないよ。みこちゃんは、そのままでいてね。俺が勝手に落ちてくからさ」
笑いながらそう言ったすちは、どこか寂しそうだった。
「らん~、こさめまた柵の上登ってる~」
ひまなつの声に、らんはため息をついて振り向く。
「……こさめ」
「へへっ。見て、夕日きれいだよ?」
らんは一歩近づき、迷いなくこさめの腕を引いて自分の胸元に引き寄せた。
「おまえが落ちたら、俺が生きてる意味なくなるんだけど」
「……らんくん」
そのまま、夕焼けを背に、ふたりは寄り添った。
喧嘩に明け暮れる日々の中で、それぞれが抱える想いは、確かに熱を帯びていた。紅蓮街――そこは、痛みと優しさが入り混じる、不器用な恋の交差点。