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不良グループを率いるらんと、その中でもひときわ明るいムードメーカーであるこさめ。ふたりは高校1年生からずっと一緒にいた。
最初のきっかけは、喧嘩で倒れていたこさめをらんが助けた日。
「……なんだよ、お前、ボロボロじゃん」
「うるさいな、俺はやれるって思ったの……っ」
「無茶してんじゃねぇよ。仕方ねぇな」
その日から、こさめにとってらんは“憧れ”であり“特別”になった。
そして、らんにとっても――
明るくてまっすぐで、バカで怪我ばっかするけど、
誰より自分を信じてついてくるこさめは、“守るべき存在”になった。
卒業後、大学は違えど、距離は縮まるばかりだった。
飛びついてくるこさめを抱きしめながら、らんは耳元で囁いた。
「……無理はすんな。でも俺の前では、泣いてもいいし、弱くなってもいい。
だから……俺の傍から離れんなよ」
それ以来、ふたりは“表では親友、裏では恋人”という秘密の関係を続けながら、
誰より強く結ばれていた。
もちろん、たまり場ではこさめが危ないことをしてらんに怒られたり、
こさめが怪我をしてらんが激怒したりするのは日常茶飯事だったが──
「らんくんのためなら、俺、なんだってする!」
「バカ、無理すんなっつってんだろ」
そんなやりとりの中には、
誰にも崩せない“信頼”と“愛”が、確かに息づいていた。
大学の講義が終わり、らんはひとり早足で歩いていた。
夕暮れの街。橙色に染まる舗道を曲がったそのとき──
「……おい、可愛い顔してんなぁ? ちょっと、遊ぼーぜ?」
聞き慣れない声に、らんの眉がぴくりと動く。
その先にいたのは、無理やり肩を掴まれて囲まれている──こさめだった。
「は? や、やめろってば! 俺、急いでんだってば!」
必死に抵抗しているこさめ。
だが、手を引こうにも複数人で腕や体を強く掴まれ、身動きが取れないようだった。
その瞬間。
らんの中で、何かがぷつんと切れる音がした。
「おい──」
背後から、凍りつくような低い声が響く。
「そいつ、俺のだから。放せ」
振り返った男たちは、一瞬で空気が変わったのを察した。
鋭い眼差し、乱れのない黒髪。
そして何より──全身から漂う、静かな怒りの気配。
「あっ……す、すんませんっ、勘違いっす! ほら、行こうぜ!」
男たちは舌打ちしながら、そそくさと逃げていった。
誰もらんと目を合わせようとしなかった。
こさめが驚いたように目を見開き、腕を見下ろす。
「ら、らんくん……!」
「怪我、してないか?」
こさめに近寄ると、らんはしゃがみこみ、視線を合わせる。
真剣な目が、こさめの小さな傷でも見逃すまいとするようだった。
「え? あ、うん、大丈夫っ! 怪我はないっ!」
にかっと笑って見せるこさめに、らんはしばらく黙っていたが──
「……そうか」
とだけ言って、立ち上がる。
そのまま、無言でこさめの頭に手を乗せて、優しく撫でた。
「でも、怖かったら言えよな。俺、ちゃんと怒るから」
「……うん」
照れくさそうに目をそらすこさめ。
でもその耳は、真っ赤になっていた。
夕焼けに包まれる帰り道。
こさめの隣には、頼れる最強の彼氏──らんがぴたりと寄り添っていた。
「──でさ! らんくん、マジでかっこよかったんだって! 俺が『大丈夫!』って言ったあともずっとさ、頭撫でてくれて……!」
こさめは嬉しそうに話しながら、ぴょんぴょんとスキップするように歩いていた。
大学の帰り道、らんに助けられた直後にたまり場へ向かっていたら、途中ですち、みこと、いるま、ひまなつの4人と合流したのだった。
「へぇ~らん、やるぅ〜〜」
「やっぱ俺たちのリーダーだな」
「こさめちゃん、可愛い顔してるしね。絡まれるのも無理ない」
みんなで笑い合いながら、少し早めの夕暮れを歩いていく。
その光景は、一見すれば仲のいい大学生グループのそれだった──が。
通りすがりの数人が、ふと立ち止まってこさめを見やる。
「……男? 女? どっち……?」
「え、あれ男女カップルじゃないの?……うわ……」
小声だが、耳に届くには十分な音量だった。
くすくすと笑う声、無遠慮な視線──
そんな空気に、こさめが一瞬きゅっと肩をすぼめ、ぎこちなく笑ってみせる。
「はは……ま、いつものことだし……」
その瞬間だった。
らんが動いた。
「……っ!」
咄嗟にこさめの前にまわり、両手でこさめの耳を覆う。
そして、自分の胸元へとこさめの顔をぐいっと引き寄せた。
「──っ……ら、らんくん……?」
目を見開くこさめの耳には、もう何も届かない。
ただ聞こえるのは、らんの心臓の音。穏やかで、確かな音。
らんの視線が、鋭く周囲を睨む。
一緒にいた4人も気づき、無言のまま視線を向けた。
誰一人言葉は発さない。けれど、ただそれだけで空気が凍りつく。
周囲のざわめきがすぅっと引いていった。
「──く、くるし、っ……らんくん~……」
ようやく小さな声が胸元から漏れ、らんはハッとしたように手を緩める。
「……ごめん」
と呟いたその直後。
らんはこさめの髪をかきあげ、額にそっと唇を落とした。
「こさめが嫌な思いするくらいなら、俺が全部黙らせる」
そう言って、柔らかく微笑んだらんの声は、やけに優しく、温かかった。
「……っ!」
こさめの目が、ほんのり潤む。
それでも泣かずに、ただ笑った。
「俺、らんくんがいればそれでいいもん」
「……ふっ、わかってる」
4人も少しだけ離れて微笑ましく見守る中──
夕日を背にして、らんとこさめは、寄り添うように手を繋いで歩き出した。
こさめがらんと手を繋いで歩き出すと、少し後ろを歩いていたいるまが、にやにやと笑って肩をすくめた。
「ははっ、らん……おまえ、またさらっとキメてんな〜。」
「微笑ましいね」
すちがにこやかに言うと、ひまなつが「そうだな」と返す。
そのやりとりを後ろで聞いていたこさめはというと──
「ん〜〜! らんくんってやっぱ最高〜! 世界一の彼氏じゃん? ねぇねぇ、もっと褒めていい??」
と嬉しそうにらんの腕にぴったりくっつき、スキップでもするかのような軽やかさで話していた。
「もう十分だって。……というか、今は静かにしような」
「え〜〜! もっとラブっていいじゃん〜〜! らんくんってキスうまいし〜〜!」
「こさめッ……!」
らんが耳まで真っ赤になり、思わず口元を押さえると、後ろの4人が一斉に噴き出した。
「え、え? 今さら照れてんの!? いつもあんな見せつけてくるくせに〜!」
いるまが肩を抱えて爆笑する。
「らんのあんな顔、初めて見た……レア」
ひまなつは口元を隠しながらも、楽しそうに目を細める。
「ねえ、みこちゃんも将来誰かとあんな風になるのかな?」
すちがささやくように笑いながら言うと、
「えっ……え、えっ!? い、今はちょっと、まだ……心の準備が……っ」
みことはあわあわと赤面し、すちの背中に隠れた。
「かわい〜〜〜〜! みことくん、まっかっか!!」
こさめが嬉しそうに声をあげると、
「……騒がないの、こさめ」
らんが再び、そっとこさめの頭を撫でた。
やさしい風が通り抜ける。
6人の笑い声と、くだらない冗談と、あたたかい空気がそこにあった。
何かを乗り越えたあとだからこそ──
その時間は、宝石のように尊くて、壊したくないほど綺麗だった。
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