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レナードは、苛々としながら城の廊下を歩いていた。
「そんなに苛々するな」
その隣を歩くのは友人のアランだ。
「何でもかんでも、自分の思い通りになどなる訳がないだろうが。少し我慢する事を覚えたらどうだ」
「煩いな!僕に話しかけないでくれる⁈」
レナードの苛々の原因は、婚約者だ。城へと戻って来たレナードは、マティアスに呼ばれて執務室へ行った。そこでレナードは当然のように、マティアスに「ヴィオラを王太子妃にする」と言い放ち、マティアスはそれを予想していたのか既に先手を打っていた。
「僕の婚約者はヴィオラだ!当然王太子妃になるのもヴィオラなんだ!僕が好きなのはヴィオラなんだ!」
「レナード、お前は餓鬼か……」
まるで、幼子のように腹を立てるレナードに、アランは呆れた顔をする。
レナードが戻って来た時には既に新しい婚約者を城に迎えていた。なんでも、何処ぞの国の王女だとか……。
「それにしても、メーデル国の王女か。大国まではいかないが、割合大きい国だ。いい話だと思うがな」
アランの言葉にレナードは立ち止まり、アランを睨み付けた。そしてレナードが文句を言おうと口を開いた瞬間。
「あら、レナード様。ご機嫌よう」
手前の角から曲がって来た、少女はそう言ってドレスの裾を持ち上げると、軽く会釈をした。整った顔立ちで美しいこの少女が、噂のメーデル国の王女であり、レナードの新たな婚約者だ。
美人ではあるが、かなりキツくいかにも我の強い性格が顔に滲み出てるのが分かる。
「……これは、王女殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
レナードは、ロミルダに向き直り手を前にして優雅にお辞儀をする。変わり身の早さに先程まで散々喚いていた人物と同じに思えないと、アランは呆れた。
「レナード様、いやですわ。そんな他人行儀な物言いなどおやめ下さい。私とレナード様は婚約なさっているのですから。私の事はロミルダとお呼び下さいませ」
「……では、ロミルダ王女とお呼び致しますね」
「ふふ、レナード様は恥ずかしがり屋さん、なのですね」
恥ずかしがり屋さん、とはなんだ、それは……とレナードもアランも思った。
頬に手を当て笑う姿は、所謂ぶりっ子たるものに見える。2人は、かなり引いていた。
「ところでレナード様は、今お時間ございまして?もし宜しければ、ご一緒にお茶でも如何ですか?」
ニコニコとしながらロミルダは、レナードをお茶に誘う。
「……ありがたいお申し出ですが、これから稽古があります故、お受け出来かねます」
残念そうに眉を寄せ、やんわりと断るレナードだが、内心冗談じゃないと思っていた。
「まあ、そうですの。それは残念です……あぁ、そうですわ。なら、その稽古、是非私も拝見させて頂きたいですわ」
本当にしつこい。どうにかして、早くロミルダから離れたいレナードは、舌打ちをしたくなる。
「是非に、と言いたい所ですが……なに分、騎士団の稽古場には他の団員もおります。見目麗しい王女がおいでになれば、稽古場は騒がしくなってしまうでしょう。皆手に付かず、稽古どころではなくなってしまいます」
「まあ、見目麗しいなんて……お恥ずかしいですわ」
レナードの言葉に気を良くしたロミルダは、程なくしてその場を後にした。
ロミルダの姿が見えなくなると、レナードは早速舌打ちをする。
流石に相手は他国の姫だ。無下に扱う訳にはいかない。だが、ロミルダをどうにかしなければ、ヴィオラを王太子妃にする事は出来ない。
別に王太子妃に拘る必要はない。側妃に迎える事も考えたが、レナードは一度こうだと決めると頑として譲らない性格だ。
「で、本当に稽古に行くのか」
「行く訳ないだろう」
レナードは再び歩き出した。向かう先は無論マティアスの執務室だ。日に何度もマティアスの執務室を訪れては、レナードは「ロミルダ王女との婚約の解消とヴィオラとの婚約」を訴えている。
◆◆◆
レナードからの嫌がらせに、マティアスは胃が痛くなった。
この日マティアスは、ついに居留守を使った。レナードと、部屋の外側に控えている従者とのやりとりが聞こえてくる。
相変わらず、くどくどと文句を並べていたが、暫くして静かになった。諦めて去ったのだろう。
「本当に、困った息子だ……」
頭痛もしてきた……。