コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ヴィオラは深く息を吸う。
「……っ」
何度も躊躇い、動けずにいる。
「ヴィオラ」
テオドールはたった3歩先に立っている。そして、手を差し出しヴィオラを待っていた。
ひと月半程前、ヴィオラはレナードに会いたいと、そう口にした。その際、テオドールから「準備が必要」だと暫く待つ様に言われ、そこからひと月と少し。
「成る程。多分、大丈夫ですよ」
テオドールが何処からか連れてきた男は、さらりとそう言うと笑った。
「大丈夫だ、ヴィオラ。ニクラスは一見頼りなく賢くもなさそうに思えるが、腕は一流なんだ。僕が保証する」
テオドールがいうには、ニクラスは医師なのだという。
「但し、かなり辛く厳しい道のりですが」
テオドールの失礼な発言にもニクラスは動じない。この人は凄い人かも知れないと、ヴィオラは息を呑む。
「ヴィオラ、僕も協力する。頑張ろう」
テオドールに手を差し出され、ヴィオラはハッとして脱線した思考を戻す。
正直余りに急な事で頭がついていかない。故に少し現実逃避していた。
だって、これまでそんな発想は自分の中にはなかった。誰も、そんな事言わなかった。両親もデラもミシェルも、レナードだって……。
「で、でも!私……」
「大丈夫だよ、ヴィオラ。君は、必ず歩ける様になる。僕が、保証する」
テオドールの言葉に、瞬間思考が止まった。そして、暫くしてヴィオラの瞳からは涙が溢れた。
身体が、心が震えた。
両親達は歩けない自分を見放し、見っともないからと、あの部屋から出ないようにと言いつけた。デラもミシェルも、いつも優しくしてくれた。だがあの部屋の中から出る事を良しとしなかった。レナードはあの部屋の外へ連れ出してくれた。だが、歩けなくても大丈夫だと、微笑んでるだけで良いと言った。
「テオドール、さま……私、はっ……本当に、歩け、ますか?」
絞り出した声は小刻みに震えている。これは、何の震えなのか。自分でも分からない。歓喜なのか未知の世界への怯えか。
「君が、それを望むなら。君は必ず歩ける様になるよ」
「っ……」
「何度でも言う。君は歩けるようになる。ヴィオラ、君は歩けるんだ」
ヴィオラは、差し出されたテオドールの手と顔を交互に見遣る。すると、テオドールが笑った。その笑みは優しく屈託のない表情で、ヴィオラからも自然と笑みが溢れた。涙は止まらないのに、笑いたい。変な気分だった。
そしてヴィオラは、その手を取った。重ねられたヴィオラの手を、テオドールはキツく握り返した。
その日からヴィオラの闘いが始まった。
ニクラスの訪問時にデラは部屋にはいなかった。戻ってきたデラに、その事を告げると驚き、躊躇い、予想通り反対をした。
だが、ヴィオラはデラに「私は歩きたい」そうハッキリと告げる。デラは、その姿に今まで見た事もないヴィオラの強い意志をひしひしと感じた。
デラは目を見開き黙り込むと、暫くヴィオラを凝視する。そして……ゆっくりと頭を下げた。