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その日は、久しぶりに穏やかな時間だった。
庭園には柔らかな日差しが降り注ぎ、
私はみんなに囲まれて遊んでいた。
「ルクシア、こっちだよ」
「ほら、転ばないように」
ユリウスお兄様とレオンハルト王子は、相変わらず左右から手を繋いでくる。
「過保護すぎ」
「でも楽しそうだし、いいんじゃない?」
セレスとノアが笑い合い、
エリオスとカイは少し離れた場所で周囲を警戒していた。
(……平和だな)
そう思った、そのとき。
――ぞわり。
空気が、変わった。
「……止まれ」
エリオスの声が、低く響く。
次の瞬間。
庭園の外壁を越えて、黒ずくめの男たちが姿を現した。
「なっ……!?」
「敵襲だ!」
即座に、護衛たちが前に出る。
「全員、ルクシア様から離れるな!」
「王子を守れ!」
剣が抜かれ、金属音が響く。
(……なに、これ)
怖い。
足が、動かない。
「ルクシア!」
ユリウスが私を抱き寄せる。
「大丈夫だ、絶対に守る」
レオンハルト王子も、私の前に立った。
「ボクがいる」
――だけど。
「ぐっ……!」
鋭い音とともに、護衛の一人が吹き飛ばされた。
「――っ!」
血が、芝生に落ちる。
(……やだ)
「まだ、来るぞ!」
別の護衛も、肩を切られ、膝をついた。
(……やめて)
守るために。
私のために。
みんなが、傷ついていく。
「逃げろ……!」
「ルクシア様を――!」
その声が、胸を締めつけた。
(……なんで)
なんで、こんなことに。
なんで、私のせいで。
――その瞬間。
胸の奥で、何かが、はじけた。
「……やめて」
小さな声。
でも。
世界が、暗転した。
足元から、影が溢れ出す。
「な、何だ……!?」
「影が……動いてる!?」
黒い闇が、地面を這い、空気を覆う。
――冷たく、深く、感情そのもののような闇。
「傷つけるな」
声は、震えていた。
「……私の、大切な人たちを」
闇が、牙を剥く。
悲鳴が上がった。
影は男たちを絡め取り、逃げ場を奪い、
そのまま――飲み込んだ。
ほんの、数瞬。
庭園にいた悪者たちは、跡形もなく消え失せた。
――静寂。
「……ルクシア?」
誰かの声が、遠く聞こえる。
(……終わった?)
怒りは、消えていた。
代わりに。
急激な、空白。
「……あれ?」
力が、抜ける。
視界が、白く滲んだ。
「ルクシア!!」
ユリウスの叫び。
駆け寄ってくる足音。
「医師を!」
(……ごめん)
守りたかっただけなのに。
ただ、それだけだったのに。
意識が、遠のく。
最後に見えたのは、
必死な顔で私を抱きしめるみんなの姿だった。
――闇は、静かに消えた。
その代償として、
小さな身体は、力を失ったまま。
深い、深い眠りへと落ちていった。