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――暗い。
どこまでも、静かで、何もない。
(……ここは)
足元も、空も、境界すら曖昧な世界。
私は一人、立っていた。
「……起きた?」
背後から、声がする。
振り向くと、そこにいたのは――
私と同じ姿をした“誰か”。
けれど、髪は夜のように黒く、
瞳は深い闇をたたえていた。
「……あなた、だれ?」
問いかけると、彼女は小さく笑う。
「闇だよ」
当然のように、そう言った。
「あなたが怒ったとき、
あなたが『守りたい』って願ったときに生まれたもの」
胸が、きゅっと締めつけられる。
「……でも、あれは……」
みんなが、傷ついて。
私は、倒れて。
「間違いだと思う?」
闇の私が、首をかしげる。
「守ったよ。ちゃんと」
「……でも」
私は、拳を握りしめた。
「みんな、怖い思いをした。
私のせいで……」
闇は、しばらく黙っていた。
やがて。
「じゃあ、光は正しい?」
その言葉と同時に――
ふわりと、温かな光が差し込んだ。
もう一人の“私”。
今度は、淡く輝く光をまとっている。
「喧嘩しないで」
光の私が、穏やかに言う。
「どちらも、ルクシア」
闇と光が、同時にこちらを見る。
「怒りも、優しさも」
「守りたい気持ちも」
「全部、あなたのもの」
私は、二人を見つめ返した。
「……でも、どうしたらいいの?」
力が強すぎる。
制御できない。
誰かを傷つけてしまうかもしれない。
闇が、一歩近づく。
「拒絶しないで」
光も、そっと隣に立つ。
「受け入れて」
二人の声が、重なる。
「恐れないで」
その瞬間。
胸の奥で、何かが静かに重なった。
光と闇が、溶け合うように、
柔らかな明滅を繰り返す。
(……あ)
怖く、ない。
制御できない力じゃない。
ただ、知らなかっただけ。
「……私」
私は、小さく息を吸った。
「どっちも、私なんだ」
光が微笑み、
闇が、満足そうに頷いた。
「それでいい」
世界が、ゆっくりと遠のいていく。
――――
「……ルクシア」
誰かの声。
温かい手の感触。
「……目を、開けました」
現実に戻る。
天井が見える。
見慣れた、自分の寝室。
ベッドのそばには、
父と母、ユリウス、レオンハルト王子。
そして――
王と王妃。
騎士団長アルベルト・グランツの姿もあった。
「よかった……」
母の声が震える。
「意識が戻ったか」
王は、静かに言った。
アルベルトは、私をじっと見つめている。
その瞳は、恐れでも警戒でもなく――
覚悟の色だった。
「……闇魔法」
低い声が、部屋に落ちる。
「確かに、発現を確認しました」
空気が、張りつめる。
王妃が、そっと口を開いた。
「ですが同時に、
光との共存の兆しも感じられます」
父が、一歩前に出る。
「娘は、危険な存在でしょうか」
アルベルトは、即答しなかった。
そして。
「……いいえ」
はっきりと、言った。
「彼女は、“選ばれた”のではなく」
「“両方を抱えて立てる”存在です」
その言葉に、胸が少しだけ軽くなる。
王は、私をまっすぐ見た。
「ルクシア」
「はい……」
「恐れているか」
私は、正直に答えた。
「……少しだけ」
王は、頷いた。
「ならば、学ぶ必要がある」
王妃が、優しく微笑む。
「一人ではありません」
ユリウスが、強く手を握る。
「絶対、離れない」
レオンハルト王子も、真剣な瞳で言った。
「ボクが、王子としてじゃなくても守る」
アルベルトは、静かに膝をついた。
「この命に代えても」
その言葉に、息をのむ。
私は、小さく首を振った。
「……死なないでください」
その一言で、空気が緩む。
光と闇。
恐れと、希望。
そのどちらも抱えたまま。
――私の未来は、
今、確かに動き始めていた。