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◻︎結婚したら?
ふぁーぁと思いっきり伸びをする早絵。デスクワークで縮こまっていた肺を、ぐーんと伸ばしているのかも。
「ところでさ、よかったね、駆けつけてくれる子がいて」
「うん、まさか、結城君が呼ばれてるとは思わなかった。でもなんだか中途半端な連絡で、おかしな誤解をされてたけどね」
「うん、笑えた。そんなことはないだろうなって思って。でも、結城君にとってはその誤解は嬉しかったんじゃないかな?」
「なんでよ?」
「僕がチーフの仕事もやれるだけやりますって言って、やらなくていいことまで引き受けてたよ」
「それはね、課長も言ってた、頑張ってくれてたみたいで助かった。思ったほど仕事が溜まってなかったし」
「結城君は、茜のことが好きなんだよね…、だから誤解とはいえ、付き合ってるって思われたから一生懸命やってた。よかったね、茜」
「えぇっ?!そうなの?」
思ってもみないことを早絵に言われて、驚いた。
「えっ、まさか茜、まったく気づいてなかったの?」
「だって、言われたことないもん、そんなこと」
あー、もうっと頭を抱えて首を振る早絵。
「周りのみんなは気付いてるよ、なんで当人が気づかないかな?」
_____うそ、そうなの?
頭の中に「?」マークが飛び交う。
「好き?私のことを?まさか!相手は8つも下の男だし、部下だし。なんで?」
「なんでって、好きになるのに理由も年齢も性別も関係ないでしょうが!なんでそんな茜のことが好きなのか、本人に聞いてみたら?」
「…聞けないよ、好きって言われたら聞くけど。あっ!そんなことより、お父さん入院してるんだった、ごめん、ちょっと電話するわ」
「そんなことよりって、うわ…結城君の扱い、雑過ぎる…」
呆れ顔の早絵をそのままにして、私はスマホからお父さんに電話をかけた。
「もしもし?お父さん?」
『おー、茜か…』
「入院してるんだって?びっくりしたよ、なんでおしえてくれないの?」
『おいおい、娘さんが救急車で運ばれましたって連絡の方がびっくりだぞ。行けなくてごめんな。それで、どうなんだ?体は』
「もう退院したよ。あの時はどうなるかと思ったけど」
『お前も早く家族を作らないとな、そんな時心細いだろうに』
「うん、それは実感したよ。で、お父さんは?」
『俺は持病の糖尿が悪化してしまって、このザマだよ』
「どうせ、一人だからってまともに食べないでお酒ばかり飲んでたんでしょ?お父さんこそ、家族がいないとダメだよね」
そこまで話して閃いた。
「ね、お父さん、こっちで一緒に暮らさない?家族なんだからさ、どう?」
しばらくの沈黙。
『嫌だね』
「なんでよ?」
『気持ち悪い』
「なんで娘と暮らすことが気持ち悪いのよ!」
『だって、そのうち結婚するだろ?茜は。そんな新婚のとこに一緒に住む気はないね』
「結婚はしないから!」
『いや、結婚しろ!そうしないと俺も安心できんから。わかったな、そうしろ!』
プチン。
久しぶりの電話で同居を断られ、結婚を指示された。
「結婚…したら?」
早絵までそんなことを言い出した。