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c)「おー!ツッキー、おはよー」
朔)『朝から元気だな』
c)「青春してる?」
朔)『してねぇよ』
a)「月城くん、おはよう!」
朔)『おはよう』
そんな会話をしていると——
ガラッ。
勢いよく教室の扉が開いた。
陽彩)「おはよーございまーす!」
c)「うぉ、高橋きた!」
a)「陽彩ちゃんおはよ〜!」
相変わらず明るい声。
教室の空気が一気に軽くなる。
高橋陽彩。
気づけば、自然に話すくらいには距離が縮まっていた。
陽彩は俺の机の横まで来ると、
にこっと笑った。
陽彩)「月城くん、おはよ」
朔)『……おはよう』
陽彩)「なにその間」
朔)『別に』
陽彩)「冷たっ」
そう言って笑う。
……いつも通り。
どこか、少しだけ違和感があった。
笑ってるのに、
どこか無理してるような。
朔)『高橋さん』
陽彩)「ん?」
朔)『……寝不足?』
陽彩)「え?」
少し目を丸くしてから、
陽彩は笑った。
陽彩)「なにそれ。クマできてた?」
朔)『いや、なんか顔色悪い』
陽彩)「気のせい気のせい!」
軽く手を振る。
いつもの調子。
……でも、少しだけ声が弱かった。
⸻
一時間目。
先生の声が静かな教室に響く。
黒板を叩くチョークの音。
ノートをめくる音。
俺は板書を写しながら、
ふと隣を見た。
手が止まっていた。
ペン先が、
ノートの上でぴたりと止まっている。
朔)『高橋さん?』
陽彩)「……え?」
反応が少し遅い。
顔を上げた陽彩の額には、
うっすら汗が浮かんでいた。
呼吸が浅い。
顔色も、朝より悪い。
朔)『大丈夫か?』
陽彩)「へーき」
笑う。
でも、その笑顔は弱い。
朔)『全然へーきに見えないけど』
陽彩)「だいじょ——」
カタン。
ペンが床に落ちた。
陽彩の身体がふらつく。
朔)『っ、高橋さん!』
咄嗟に腕を掴む。
倒れかけた身体が、
少しだけ俺にもたれた。
軽い。
思ったよりずっと。
陽彩)「……ごめ」
朔)『謝んな』
先生)「高橋!?」
c)「え、やばくね?」
教室がざわつく。
陽彩は立とうとするけど、
足元がふらついていた。
先生)「保健室行くぞ」
朔)『俺、連れていきます』
先生が少し驚いて、
すぐ頷いた。
先生)「頼む」
⸻
廊下。
教室の騒がしさが遠くなる。
静かな廊下を、
陽彩と並んで歩く。
でも、いつもみたいに軽い足取りじゃない。
歩幅が小さい。
呼吸も少し荒い。
朔)『無理すんな』
陽彩)「してないって」
朔)『してるだろ』
陽彩)「……」
返事がない。
珍しい。
いつもなら、
何か言い返してくるのに。
少しして。
陽彩が小さく笑った。
陽彩)「月城くんって、結構怖いよね」
朔)『は?』
陽彩)「すぐ見抜く」
朔)『分かりやすすぎるだけ』
陽彩)「ひどーい」
声は笑ってるのに、
やっぱり弱い。
⸻
保健室。
薬品の匂い。
白いカーテン。
静かな空気。
保健室の先生が、
陽彩をベッドへ寝かせた。
保健室の先生)「少し休みましょう」
陽彩)「……すみません」
先生)「謝らなくていいの」
カーテンが閉まる。
俺は外の椅子に座った。
戻れと言われれば戻れる。
でも、足が動かなかった。
数分後。
カーテンの向こうから、
小さな咳が聞こえる。
息を整える音。
弱々しい声。
陽彩)「……また迷惑かけちゃった」
先生)「迷惑なんて思ってないわ」
少し沈黙。
先生)「また、無理して学校来たの?」
長い間。
それから。
陽彩)「……来たかったから」
朔)『……』
“また”。
その言葉が引っかかった。
先生が出てきた。
保健室の先生)「月城くん。ありがとう。もう大丈夫だから授業戻っても——」
朔)『……少しだけいます』
先生は少しだけ困った顔をして、
でも何も言わなかった。
⸻
静かになった保健室。
風で窓が揺れる。
カーテンが小さく揺れる。
朔)『高橋さん』
陽彩)「……月城くん?」
弱い声。
朔)『帰ればよかったんじゃないか』
陽彩)「大げさだなぁ」
朔)『顔、真っ白だった』
陽彩)「……見ないでよ」
その言葉に、
俺は少し黙った。
いつもの陽彩じゃない。
ふざけない。
笑わない。
ただ弱い声だけ。
朔)『心配するだろ』
陽彩)「……」
朔)『大丈夫って言っても、説得力ない』
沈黙。
返事がない。
俺は少しだけ、
カーテンを開けた。
白いベッド。
横になる陽彩。
顔色が悪い。
呼吸が浅い。
細い腕。
閉じかけた目。
初めて見た。
“元気な高橋陽彩”じゃない姿。
朔)『なんで隠すんだ』
陽彩)「……え?」
朔)『しんどいなら言えよ』
陽彩は天井を見つめたまま、
小さく息を吐いた。
陽彩)「……心配されるの、苦手なんだよね」
朔)『それだけか?』
陽彩)「……」
黙る。
視線を逸らす。
それだけじゃない。
そう分かった。
風が吹く。
カーテンが揺れる。
長い沈黙。
やがて。
陽彩が、
ゆっくり俺を見る。
少しだけ笑った。
でも。
その笑顔は、
今にも壊れそうだった。
陽彩)「月城くん」
朔)『ん?』
陽彩の唇が、
小さく震える。
そして——
陽彩)「……実は、私ね——」