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その違和感は、すぐに現実になった。
「ちょっと寄ってくわ」
帰り道の分かれ道で、千冬がそう言った。
「用事?」
三ツ谷が軽く聞く。
「ああ、すぐ終わるやつ。先帰ってていいぞ」
いつも通りの軽い調子。
何度も見てきた、普通のやり取り。
――のはずだった。
(……違う)
胸の奥が、強くざわついた。
こんな流れ、知らない。
今までの“どのループ”にもなかった。
「私も行く」
気づいたら、そう言っていた。
千冬が少し驚いた顔をする。
「は?なんでだよ。すぐ終わるって」
「いいから」
言葉が少し強くなる。
三ツ谷が不思議そうにこっちを見る。
「どうした?」
「……なんでもない。ただ、行きたいだけ」
自分でも理由はうまく説明できない。
でも、行かなきゃいけない気がした。
強く。
どうしても。
少しの沈黙のあと、千冬が肩をすくめた。
「まぁいいけど」
「じゃあ俺も行くか」
三ツ谷がそう言いかけた、その時。
「いや、三ツ谷はいい」
思わず遮った。
自分でも驚くくらい、はっきりとした声だった。
二人が同時にこっちを見る。
「……なんで?」
三ツ谷が少し眉をひそめる。
言葉に詰まる。
理由なんて、言えるわけがない。
未来で起きることなんて。
「……すぐ終わるんでしょ?」
なんとかそれだけ絞り出した。
千冬が笑う。
「おう、すぐだって。心配すんな」
その言葉が、やけに遠く聞こえた。
――嫌な予感が、消えない。
「じゃ、またな」
千冬が手を上げて、路地の方へ歩いていく。
その背中を見ているだけで、息が苦しくなった。
(待って)
(なんで、こんなに――)
足が動かない。
声も出ない。
ただ、見ていることしかできなかった。
「……行かねぇの?」
三ツ谷の声で、はっとする。
その一瞬の迷いが、致命的だった。
遠くで、鈍い音がした。
何かがぶつかる音。
嫌な、音。
「……え?」
空気が凍る。
「今の……」
三ツ谷が言い終わる前に、体が勝手に動いていた。
走る。
息が上がる。
心臓がうるさい。
――間に合って。
ただ、それだけを願いながら。
路地に飛び込んだ瞬間、視界に入ったのは――
見慣れた後ろ姿だった。
動かない。
地面に倒れたまま。
「……千冬?」
声が震える。
近づく。
足が重い。
理解したくない。
それでも、目は逸らせなかった。
「……ねぇ、起きて」
返事は、ない。
さっきまで普通に話していた声も、
笑っていた顔も、もう――
「……やだ」
小さく、声が漏れた。
「やだ……こんなの、知らない」
こんな未来、知らない。
こんな終わり方、知らない。
「ねぇ……起きてよ……」
手を伸ばす。
触れた瞬間、全部が現実になる気がして。
それでも、触れずにはいられなかった。
「千冬……」
名前を呼んでも、何も返ってこない。
――間に合わなかった。
その事実だけが、静かに突き刺さる。
遅かった。
また。
今回も。
「……なんで」
声にならない声が、喉の奥で震える。
「なんで……」
世界が、ゆっくりと歪んでいく。
視界がぼやける。
音が遠くなる。
その中で、ひとつだけはっきりしていた。
――やり直さなきゃ。
もう一度。
今度こそ。
絶対に、間違えない。
そう強く思った瞬間――
視界が、暗く落ちた。