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「お~松田! 一緒に飲もうぜ!」



「是非、今日は本当にありがとうございます」



 近くにいる人達でもう一度致し方なく乾杯をした。

 カチャンとグラスの当たる音が鳴り響く。



「さっき真紀と話してたんだけど、松田仕事覚えるの早いらしいじゃん」



「いや、そんな事ないですよ、水野さんの教え方が上手なだけです」



 ……な、なんて猫被りな話し方をするんだろう。世渡り上手とはこの事だ。



 私を挟んで松田くんと橅木が話すものだからなんとも言えない両脇からの圧迫感に必死で耐えた。



 少しでも姿勢を崩したら松田くんに肩がくっつきそう。



 橅木は元からスキンシップが多い為肩を叩かれようが、腰を叩かれようが、なんなら頭を撫でられた事も何回もある。

しかしそれは年の離れた妹がいるらしくつい癖でやってしまうと昔本人が言っていた。

なので私も全く気にしなくなったが為、今も私の肩に手をかけながら松田くんに話しかけている。

けど良い加減重くなってきたのでそろそろ退かして欲しい。



「橅木、そろそろ肩が重いんだけど」



「あ、悪い悪い、つい真紀の肩の高さが丁度いいもんだから」



「肘置きにするな!」



「そんなに水野さんの肩がちょうど良いなら俺も乗せさせてもらおうかな」



 冗談なのか本気なのか分からない表情で松田くんが言うものだから少しドキッとしてしまった。

 橅木にはないこの緊張感。きっとキスされて、意識してしまっているからに違いない。

 伸ばしてきた松田の手をビシッと手で払い「有料です」と言い放った。

周りにはこのやり取りがコントのようで面白かったらしく周りからドワっと笑いが起こった。

 皆んなお酒がかなり進み酔っている人もチラホラ出てきていて、更に歓迎会は盛り上がりを見せてきている。



「水野さん、橅木さんかなり酔ってませんか?」



「ん? あー橅木はいつもあんな感じだから大丈夫よ」



「そうなんですね……」



 本当に橅木が酔ったところを今まで見た事がない。いつも周りに気を使ってくれている。

 橅木よりも自分の方が怪しい……少し寒気がしてきていた。

 私はお酒を飲むと暑くなるどころか、何故かどんどん寒くなるタイプなので手足が冷えてくる。

 手を温めようと自分の太腿の間に手を挟んで温めているとスルッと自分の太腿の間の手をすっぽり包んでしまう程の大きい手が私の冷たい指に絡んできた。



(な、なに!?)



 驚いて皆んなにはバレないようにチラッと隣を見ると松田くんは、なにもしていません、と平然な顔をしながら私の指に自分の指を絡めてくる。指と指が絡まり、そこからどんどん熱くなってきた。冷えていた私の手はあっという間に燃えているように熱い。



 周りに人がいる為やめて! とは声に出して言いづらい。



 どうかバレませんように……



 そう祈るだけで私は松田くんの指を拒否しなかった。

 熱くて、触れているだけなのになぜか気持ちが良かった。



「真紀、顔が赤いけど珍しく酔ってる?」



 橅木に顔の色を指摘されドキッと心臓が飛び跳ねた。



「え? そう? いつもと変わらないと思うけど……」



「ふーん、じゃあ気のせいか、真紀の酔ったところって一回も見た事ないんだよなぁ」



 私は人前で酔うのが苦手だ。

 なんとなく自分の酔ってる姿を見られるのも恥ずかしいし、どうも昔からクラス会の幹事を任されたり、会社の飲み会の幹事もするので、酔った人を介抱する事が多い。

 けどそれは外で気を張っているだけで、家に帰って気が抜ければ一瞬で酔いが回り一人で酔っ払いそのまま寝てしまう事も多々ある。



 自分を人に曝け出すのが苦手だ。



 特に弱い部分を見せるなんてもっての外。

なので私は外では酔ったところを人に見せない。



「……松田くん、そろそろ部長の所に戻った方がいいんじゃない?」



 早く戻ってこの手を離して欲しい。離してほしいと思っているのにこの手を拒まなかった私はどうかしている。もしかして私、酔ってるのかな?



 もし誰かが見たりしたら大騒ぎになるだろう。

 二人の体温が重なり合い手と手の間がしっとりと少し汗ばんできた。



「まずいですかね~じゃあ戻ります、失礼しました」



「お~松田また飲もうなー!」



「はい」



 やっと松田くんが席を立ち木島部長の元へ戻る。

 離された手は少し汗ばんでいたせいかスースーする。



(私、どうしちゃったんだろ……)



 とにかく周りにバレなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。




 その後も松田くんが私にちょっかいを出す事は無く、あっという間にお開きの時間になった。



 明日も仕事のため二次会は行わない。

ゾロゾロと店を出て解散した。



「真紀! 送って行くよ」



「悪いよ、橅木の家真逆じゃん」



「いーの、夜風に当たりたいから」



 私の返事の有無を聞かずにグイッとわたしの腰を抱き寄せ駅に向かって歩き出す。



「橅木さんっ!!!」



 いつにもなく大きな声で松田くんが夜の賑やかな駅に響き、橅木を呼び止めた。



「おー、松田! お疲れさん、気をつけて帰れよ!」



「っつ……いや、俺水野さん家の近所なんで俺が責任持って橅木さんの代わりに送って行きますよ」



「あ、そうなの? 近所なら一緒に帰ろうぜ」



「橅木さん遠回りになるんですよね? 俺が送ります」



「ん~、じゃあ松田にお願いすっかな! 真紀、お疲れさん」



 スッと私の腰から橅木は手を離し反対方向に歩いて行った。



 松田くんを見るとなんだか疲れているのか少しげっそりした表情をしている。



「……松田くん、なんだか顔色悪いけど大丈夫?」



「……水野さん、俺はかなり怒ってます」



「は?」



 確かに怒ったような、呆れたような、疲れているような、どれにでも取れる表情。

 グイッと私の左手を掴み取りスタスタと駅に向かって歩き出す松田くんに必死に着いていく。



「ちょっと! 松田くん、手を離してっ」



 松田くんが急に立ち止まるのでドスッと顔から松田くんの背中にぶつかった。



「いっ、いきなり止まらないでよ!」



 松田くんは私の顔を見るなりキッと鋭い目つきで、明らかに松田くんは怒っている。



「な、何怒ってるの?」



「水野さん隙がありすぎる! あんなに橅木さんに触られて!」



「だから橅木はあれが平常運転だから」



「……ハァ、送っていきます」



 深い溜息をついた松田くんは私の手を優しく繋ぎ直し歩き出す。



(そ、そんなに怒らなくても……)



 いつもなら振り払っていたが、私も少し酔っていたのだろう。

 会社の人がいなくて良かった……

こんなとこ見られたら大変だ、そう思っているのに松田くんの手を振り解くどころか、私は握り返し二人並んで駅に向かった。



 電車内は夜遅い事もあって空いている。

それでも座らず、手を離さず、お互い無言で電車に揺られた。



「……じゃあ着いたから、また明日」



「ここまで来たんで家まで送りますよ」



「家!? いいわよ! 言っとくけど入れないわよ!」



「んな事分かってますよ、酔ってる水野さんを放っておく訳にはいかないですからね」



「よ、酔ってないわよ!」



「はいはい、家まで案内してくださいね」



 あーだこーだと言い合いながら二人で夜道を歩く。

結局松田くんに押し切られて家まで送ってもらってしまった。



「家着いたから……わざわざ送ってもらっちゃって、ありがとう」



「女性に一人で帰らせる方が男としてあり得ないですよ」



「本当に口が上手いわよね。じゃあまた明日……あ、あのね、手を離して下さい」



「あ、すっかり忘れてました。あ〜、もう一個忘れ物がありました」



「ん? ……んんっ!!」



 やられた。



 私はやはり隙だらけなのだろうか。

一瞬でまた松田くんに唇を奪われた。




 けれど私は自然と松田の唇を受け入れていた。



 お互いにお酒が入っているからかこの前よりも唇も舌も息も全てが熱い。重なり合う唇は熱くて油断したらとけてしまいそうだ。

 松田くんのキスの合間に息をする声が間近でよく聞こえる。

その声がとてつもなく色っぽくてドクンと心臓が跳ねた。

 どんどん熱くなる身体と比例して頭もクラクラしてきた。



(な、なんだかクラクラする……)



「あ、……松田く、ん……」


 プツリと視界が真っ暗になった。


ここは会社なので求愛禁止です〜素直になれないアラサーなのに、年下イケメンに溺愛されてます〜

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