初めて彼女の唇に触れた時はかなり強張っていた小さくて柔らかい唇。
あの日はやっと会えた嬉しさでつい子供っぽく夢中で彼女の唇に食らい付いてしまった。
けれど今日は違った気がする。
気を許してもらえたような、彼女の唇の柔らかさが更に増した気がした。
離し難いが、ゆっくりと唇を離すとドサっと彼女は俺にもたれかかってきた。
こんな事初めてだ……
「水野さん?」
呼んでも応答が無い。
ゆっくりと彼女の肩を抱き、自分の身体から離して彼女の顔を覗き込むと驚く事に彼女は立ったまま寝ていた。
「まじかよ……」
まるで子供のようなあどけない寝顔でスースーと寝息をたてている。はっきり言ってまじで可愛い。
「水野さ~ん、部屋は何号室ですか?」
応答なしか……
この際だから存分に彼女の頬をムニムニと触り、もう一度部屋の番号を聞いてみる。
「んん~203……」
水野さんはしどろもどろにボソッと答えた。
悪いなと思いながらも彼女の鞄の中から家の鍵を出し203号室まで俗に言うお姫様抱っこで部屋まで運んだ。
抱きしめた時も思ったがとても華奢で力を入れすぎたら折れてしまいそうだ。だけど太腿や腰回りは柔らかくいつまでも抱っこしていたい、と思ってしまう。
「お邪魔します……」
想像していた彼女の部屋はモノトーンでシックな部屋だと思っていたが、彼女の部屋に入るといつものツンツンしている彼女のイメージとは程遠く、とても暖かい色取りの部屋だった。
明るい茶色のフローリングに丸いベージュのラグ。見た感じもう一部屋あったが多分そこは寝室だと予想されるのでリビングにあるベージュの二人掛けソファーの上にそっと彼女を降ろした。
「下ろしますよ……」
ちょうどブランケットもあったので彼女にそっと掛ける。位置が悪かったのかモゾモゾと寝返りし始めた。
(うわ、やば……可愛すぎるだろ……)
「水野さん、鍵はポストに入れておきますよ」
「んん……んぅ」
「えっ、ちょっ……危なッ」
帰ろうと立ち上がると急にギュッと左腕を掴まれたのでグラっとバランスを崩した。
間一髪で彼女の頭の上に右手を突き覆い被さる形になってしまったが、彼女を潰さなくて良かった、とホッとする。
にしても、まじまじと彼女の顔を見ると改めて思う。
とても端正な顔立ちで、これでモテないなんて有り得ないだろう。今まで一体何人と付き合ってきたんだろう。
この綺麗な身体を知っている奴はいるんだろうか。
もっと早くに出逢えてれば……
見つけられていたら……
艶やかで綺麗な長い黒髪に手を通す、長い睫毛に小さな鼻とスッと薄いけれども柔らかい唇。
真っ白な柔らかい頬に今すぐにでも擦り寄りたい。
近づけてしまう唇。後少し、後一センチで……
けれど、グッと触れたい欲を抑える。ゆっくりと彼女を潰さないよう体制を整えソファーの下に腰を下ろした。
未だにギュッと握られている左腕がジワジワと熱くなる。
(はぁ、可愛すぎる、本当生殺しだな……)
無理矢理手を離すこともできたが、俺にとってはラッキーハプニング。彼女から手を離してくれるまで拷問に耐えながら待つ事にした。
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