テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ギャグコメディ
澪
343
553
10
腐ったカップラーメン
35
───それから1週間後のこと。
活気という名の喧騒に包まれた居酒屋「ぱわぁ」の厨房では、店長である波和原がいつも通りの大声、いや、もはや奇声に近い怒号を響かせていた。
「急げ舐塚ぁ!成竹ぇ!注文来てんだぞ!」
その怒声に対し、赤い髪をおしゃれ坊主に刈り込んだ舐塚は、口元に咥えていた吸殻を「ちぇー」とだるそうに呟きながら、そのままぐにゃりと口の奥の方へ噛み入れて飲み込んでしまう。
全く緊張感のない態度だが、そのすぐ隣ではブルーパープルの艶やかなロングヘアを揺らす成竹が、両手を後ろに組み、斜め下からの明らかに狙ったであろう計算ずくの上目遣いで舐塚を見上げていた。
「舐塚さん 揚げ物やりませんか?」
甘ったるい声でそう尋ねられた瞬間、舐塚の表情はパァッと明るくなり、先ほどまでの気だるさが嘘のように吹き飛ぶ。
「やるやる!まっかせろー!」
ゴリゴリのチンピラ風貌からは想像もつかないほどルンルンと軽やかな足取りで、舐塚は素早く鍋の前に陣取った。
そんなバカップルじみたやり取りの背後で、波和原は伝票の束を掴みながら顔を真っ赤にしてさらに絶叫する。
「えーと次の注文は……ん?アァン!?誰だ こんなに韓国のりばっか注文してるヤツはァ!在庫切れるわ!」
彼の怒号が店内にこだまするのには、実は確かな理由があった。
店内の階段を上った先にある、ロフトのような隠れ家風の2階席。
そこでは、恐ろしい光景が繰り広げられていた。
「うまうま…」
モグモグと何かを咀嚼する音が響くたび、机の上からはパラパラ…と細かな緑色の屑が零れ落ちる。
木のテーブルの上には、食べ終えた、あるいは今まさに開封されようとしている韓国のりのパックが、なんと合計20箱も山のように転がっていた。
ふとテーブルの上に置かれた最新注文履歴が表示されたiPadの画面に目をやると、そこには衝撃の履歴が残されていた。
【韓国のり 10箱……】そしてその下にも【韓国のり 10箱】。
システムの都合上、1回につき10箱までしか一度に注文できないため、この客は律儀に2回に分けて合計20箱分のオーダーを叩き出していたのだ。
……いや、テーブルの上の山をよく見れば、20箱どころではない。先ほど店長の波和原が下で絶叫していたのは、別のテーブルの分も含め、この一角だけで実に合計40箱もの韓国のりの注文が殺到していたからだった。
その狂気的な物量の中心で、一心不乱に韓国のりを美味しそうに頬張っていたのは───他でもない、佐山昭子その人であった。
サファリジャケットを着こみ、ピスヘルメットをかぶったまま、背中にはサファリリュックをガッチリと背負ったままのフル装備。その両手に緑色の海苔をこれでもかと掴み、無心で口へと放り込み続けていた。
もぐもぐと海苔を味わっていたその時、耳ざわりな音が店内に響いた。
ギシ…、ギシ……。
古びた木製の階段が、尋常ではない重みに耐えかねて軋む音が、確実にこちらへと近づいてくる。
「…?」
只者ではない気配を察知した昭子は、小さく眉を顰めると、素早く腰のホルダーから本格的なサバイバルナイフを引き抜いて構えた。
階段の縁から、ちらりと特徴的な緑色のリーゼントヘアが姿を現す。
(敵襲…!?)
一瞬にして戦闘モードに入った昭子は、ガタッと勢いよく椅子を後ろへ蹴り倒し、研ぎ澄まされた刃をその巨影へと向けた。
ズン……。
床が大きく揺れるほどの重い足音とともに現れたのは、身長198cm、体重90kgの紛うことなき巨漢の筋肉ダルマ───二頭筋好矢だった。
赤のタンクトップから覗く鋼鉄の筋肉をこれでもかと誇示しながら、好矢は虚ろなタレ目で、ホォォォ……と奇妙な息を吐き出しながらその場に突っ立っていた。
コメント
1件
第7話、めちゃくちゃ笑ったわww 韓国のり40箱を無心で食う昭子さん、完全に別の生物になってて草。サファリ装備のままサバイバルナイフ抜いて戦闘態勢に入るギャップ、最高に狂ってる。 最後の二頭筋好矢の登場で一気に空気変わったな…あのリーゼントと重い足音、絶対ヤバいやつだ。続き読みてえ〜!