ジリジリと追い詰められたリカは涙目になり顔も火照ってくる。バックンバックンと心臓がうるさい。
この状況を打破できる術をリカは持っていなかった。
「せせせ、先輩のバカー!」
そう叫ぶと、リカは逃げるようにしてその場を後にした。
ひどく困った顔をしたリカを、航太は呆然と立ち尽くすように見ることしかできなかった。
リカが去った後も、視線はぼんやりと宙を彷徨う。
(やってしまった……。リカちゃんにフラれた……)
航太は頭を抱えてその場に膝をついた。
ずんと重苦しい何かが上に乗っかっている気分だった。
今の関係を壊したくなかったのに。
何事も少しずつだと思っていたのに。
それなのに答えを求めてしまった。
欲張りになった。
大人げなくも泣きたい気持ちに航太はぐうと項垂れる。
「うわっ、航太? どうした?」
通りがかった杏介に発見されるまで、航太はずうんと沈んで座り込んでいた。
納品物は散らばったままだ。
「大丈夫か? 気分が悪いなら医務室に……」
駆け寄った杏介は航太を立たせるため肩を抱く。
と、ガバッと航太に抱きしめられ思わず身を固くした。
「えっ、ちょっと、航太?」
「お前だけだよ、杏介。俺に優しいのはさぁ」
「は? ちょ、なに? ……俺、そういう趣味はないけど?」
「俺もねーよ!」
嫌そうな顔をして航太は杏介から離れる。
どちらかといえば杏介の方が嫌そうな顔をするべきなのだが、航太の沈んだ顔を見れば心配の感情が先に出てきた。
「何かあったのか?」
「……あった」
「……話聞いた方がいい?」
「……じゃあ今日仕事終わったら」
「ごめん、今日は無理」
「何だよ! 杏介の裏切り者ぉぉぉ!」
おいおいと泣く真似をする航太に杏介は苦笑いひとつ。
結局翌日に飲みに行く約束を取りつけられたのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!