「……で? 像を壊した責任、どうしてくれんだよ」
「……はい?」
人気のない校舎裏、鋭い目付きの会長。
構図は完全にカツアゲだ。
「だから、像を壊した責任。あの像いくらすると思ってんの?」
「はぁぁぁぁ!? いやいやいや、あれは不可抗力ですって! あのままだったら会長ケガしてましたよ!?」
「あれくらい手で受け止めて元に戻せたのにお前が余計なことしたから面倒なことになった」
「はぁ〜〜〜〜〜?」
「ガラス片で怪我人出たら責任とれんの? 有名企業の息子とかいるんだぞ? 学校の評判ガタ落ちさせる気かよ。ほんと考え無しの能無しだな。マジ最悪」
はぁーっと深いため息をつき、舌打ちをする会長。
爽やか王子の面影はなく、あるのはただの口が悪く態度のでかい男。
「来週までに4000万。小切手でも現金でもいいから早く持ってこい」
「いやいやいやいやいやいやゐや」
なんかもう一周まわって面白くなってしまい、私は笑いながら手を横に振った。
「無理に決まってるじゃないですか〜そんな大金」
「……大金 」
「4000万は大金ですから、庶民にとっては」
「……庶民」
そう言うと会長は小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「はっ、まともな判断力もない上に金もない。終わってんな」
軽蔑したような言い方に、思わず手に拳を握る。
だめだ、こんなお坊ちゃん殴ったらお母さんに迷惑が――。
お母さん……? まずい、この4000万弁償しなきゃいけないの?
そんなことになったらお母さんが、弟が、家が――。
「ゔっ……うぅぅ……お母さん……ごめんなさい、ごめんなさい……」
「たかが4000万で泣くことな……お前怪我! 傷ないっつったじゃねーか!」
手のひらで顔を覆うと、いつの間にか開いていた手の甲の傷口に気がついた会長が、目を見開いている。
「クソッ、手間かけさせやがって! 保健室に……」
「うるさい、それどころじゃないっ! 4000万分なんでもするし返せるまで働くから、お願いします……! お母さんには連絡しないで! また働きすぎて倒れちゃう……っ」
“あの男”と離婚してから、お母さんは女手一つで私たちを育ててくれている。
収入を稼ぐために夜勤を何連続も入れていて、前に一度倒れそうになるまで仕事をしていたからすごく恐怖心を抱いている。
4000万の弁償代を払って下さいなんて知られたら今度こそショックで倒れてしまう。
「……まぁ、あの補修業者にも少なからず……というか責任はかなりある。そこも加味して半額の2000万の弁償で済むようにしてやる」
「半額! そいつはお得だな!……ってそうじゃないよ〜! 2000万でも即支払いは無理! お願いします来週と言わずに20……否10年待ってください! それか臓器を売るとかマグロ漁船に乗るとか……」
マグロ漁船……生きて帰ってこられないとか噂はあるけど手っ取り早く稼ぐなら乗るしかねぇか……?
腎臓ひとつくらいならまぁどうにかなるでしょ!
と色々考えあぐねていると、
「はー……もう馬鹿馬鹿しくて怒る気にもなれねぇ」
会長は吐き捨てるように怒鳴ると、こちらを見据えて言った。
「2000万分。人件費削減の為、生徒会の雑用係として働け。馬車馬のように」
「ざ、雑用すれば2000万チャラ……?!」
「まぁな」
うわ、どうしよう神様みたいに見える……。
いやいや、元はと言えばこいつを助けたからこうなったし補修業者の監督不行届だし、私なんも悪いことしてなくない?!
騙されるな!
でも会長も4000万を2000万に値切ってくれるみたいだし割と良い奴??
いやいや騙されるな!
良い奴?
騙されるな!
良い奴?
騙され――うわぁぁぁぁもう!!!!
「う……うおおぉぉぉ! ありがとうございます! そんなんでいいんですか? 時給換算すると3500円オーバーの超高額案件になりますが!?」
「金の計算はっや…………ほんとうるせぇなこいつ……」
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