コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
もう何度目かもわからない新しい教室に足を踏み入れた。
やっぱり全員騒ぐし、僕の事をキラキラした目で見つめてくる。
そんなのも全部慣れっこだから、どうでもいい。
「それじゃあ朱星の席は、葵瀬良の後ろの窓際の席な」
先生が指したのは、窓際の一番後ろ。
その空席の前には、つまらなそうに窓の外を眺める少年。
br「は〜い」
ちょっと面白そう、だなんて思いながら返事をする。
席に着くと、すぐにチャイムが鳴った。
その瞬間、クラスメイト達が一斉に僕の元に寄ってくる。
そして、前の少年は席を立ち、教室を出て行った。
声、かけてみたかったのに、なんて思いながら、その背中を見つめる。
「ぶるーく、だっけ。よろしくね!」
br「うん!よろしく!」
「俺は___!よろしくな!」
br「よろしくねw」
全員の対応をするのは、何回やっても疲れる。
長い付き合いになる人はいないだろうから、その時だけの、限定の関係。
少々雑でもいいとは思うが、それは何か違う。
心の何処かで面倒くさいな、と思いながら、笑う。
「ぶるーくスタイル良すぎて男だけど惚れるかと思ったわ」
「ね!イケメンだし…髪の毛とか綺麗…」
br「っ!」
こちらに伸びてきた手を、反射的に叩いた。
あぁ、いつもの癖で。
「あっ、ご、ごめん。」
br「僕こそ、ごめん。触られるのちょっと苦手で」
髪の毛くらい大丈夫なのに、頭は触れられるのを拒む。
「ほんと、ごめん…」
君は何も悪くないと思う反面、馴れ馴れしく近づいてこないで欲しいと思う。
ここにいる誰にでも言えることだけれど。
「目、青色だけどどこかのハーフ?」
br「中日のハーフだけど、目は生まれつき、かな?」
適当に誤魔化す。
嘘を吐くのも、もう何度目か分からない。
それから次々と降り掛かってかる質問に答えていると、いつの間にか少年が教室に戻ってきていた。
少年は少し離れた場所で、窓の外を眺めている。
さらさらした黒髪。目元にあるほくろ。
整った顔立ちに、見惚れる。
でもどこか痩せこけていて、目に生気が宿っていない。
「おい、ぶるーく聞いてる?」
br「あ、ごめんごめんw」
この人達のせいで、少年が席に座れない。
でも、それだけでは無いような気がした。
長年の勘が、そう言っている。
br「……あ、そこの君〜!」
思い切って声をかけた。
でも、返事はないし、こちらを向く素振りもない。
br「お〜い?」
もう一度少年に向けて言っても、微動だにしない。
すると、1人が僕を制した。
「ちょ、お前やめとけって」
br「え、なんで?」
そう問うてみたものの、答えは分かりきっていた。
「だって彼奴、…外されてんだぞ」
的中。
「そうだよ。あの子と関わったら、自分も無視されちゃう」
br「ふ〜ん。そっかぁ〜」
そんな話、どうでもいい。
見てるだけの傍観者が口を出すな、と思いつつ、適当に相槌を打つ。
人に説明する暇があるなら、そこを退いてみたら?なんて。
どこのどの時代でも変わらない。
本当に、呆れてしまう。
br「まぁ、みんな席戻ってよ!チャイム鳴っちゃうし」
半ば察しろという念を込めて言う。
「えぇ〜、そんなこと言わずにさ〜」
「まだ時間あるから良くない?」
やっぱり、そう簡単には退かない。
空気も読めなければ他人の事を考えられない。
br「でも次の授業の準備とか…あと、ここの人口密度やばすぎて暑いんだよね〜w」
遠回しに邪魔と言ったつもりだが、余計に人が寄ってきた。
「誰かさんと違って人が群がるな」
すぐに此奴が主犯だと確信する。
周りの人達と、少年の反応からわかる。
それに、見た目もなんとなくそんな雰囲気がする。
まぁ、酷い話かもしれないが。
br「君は?」
少々敵意を込めた視線を送る。
「俺?俺は___。」
br「___くんね。覚えておくよ」
「お前ぶるーくとか呼べって言ってたっけ?よろしくな」
br「うん。よろしく」
貼り付けの笑みを浮かべ、嘘の好意を向ける。
「っていうか彼奴の近くとかお疲れだわw」
きっと、此奴は僕を仲間に引き入れたいのだろう。
“転校生”という肩書きのある、僕を。
br「…誰のこと?もしかして、僕の前の席の子?」
「そうそう。きんときっつーんだけど」
妙にその呼び方が馴れ馴れしく感じる。
外向きは仲の良い友達、先生を誤魔化す時の、雰囲気。
その呼び方に、どこか聞き覚えがあるような、そんな気がした。
きっと気のせいだろうけれど。
正直、似た名前の人なんかいくらでもいる。
br「きんとき?それってあだ名?」
「まぁそんな感じ。本名とか覚えてないわ」
「ひっどwクラスメイトの名前覚えてないの?w」
「お前だって大概だろw」
なんとなく、主犯とそのグループと、巻き込まれたくなくて見ているだけの傍観者の振り分けられ方がわかったと思う。
話し方と、目と、態度。
いらない能力を身に着けてしまったと、つくづく思う。
br「…僕はみんなの名前覚えられるように頑張るけど、間違えちゃったらごめんw」
本名を覚えてない、だなんて、嘘のくせに。
でも僕も人の事は言えない。
僕だって、いつかは全員の名前を忘れていく。
存在ですら、記憶から消えるのだから。