br「ねぇ!」
kn「………」
br「おーい!!」
kn「………」
br「えぇと、葵瀬良さん?だっけ?」
1時間目が終わり休み時間になると、後ろから執拗に声をかけられていた。
クラスメイトからの視線も痛い。
迷惑だからやめて欲しいとさえ思う。
俺に絡んだって、何も良い事なんてない。
できる限り関わらないようにしたかった。
でも、名前まで呼ばれてしまったら流石に無視できない。
kn「…なんですか?」
br「はぁ〜、ようやく話す気になってくれた!」
そう言うと笑って、綺麗な青色をこちらに向けてくる。
br「君の名前、聞いてもいい?」
kn「…俺の名前なんて、聞いても得しないですよ」
br「それは聞いてみないとわかんないじゃん?」
kn「だって、クラスメイトも覚えてないんですよ」
br「じゃあ僕が覚える!!」
それなりに押しが強そうな気がする。
でも、限度は知っているような。
柔らかい感じがする。
kn「葵瀬良都和(きせらとわ)。」
口に出すのを一瞬躊躇ってから、付け足す。
kn「きんときって呼ばれてます」
br「きんとき、きんときね!」
br「ねぇ、僕もきんときって呼んでいい?」
キラキラした、優しい瞳でこちらを見つめてくる。
久しぶりな気がした。
こんなに、好意的な目を向けられるのは。
kn「…いいですよ、別に。」
br「やった〜!!ね、あとタメで話そ!ね?」
kn「わかりま、…わかった。よろしくね、ぶるーく」
話し方がわからない。
笑えてるかもわからない。
きっと今の自分は驚く程に醜いんだろうな、なんて思いながら彼を見つめる。
br「んふふ、よろしくね、きんとき。」
それは、全てを見透かしたような、透明な青だった。
kn「ぁ”ッ…」
「っはぁ〜…朝から何もできなかった分発散できたわ」
「流石にやりすぎだろw」
「まだじゃね?生きてるし」
kn「い”ッッ…ぁ、はっ、」
「鬼〜w」
何も聞こえない。
何も感じない。
いや、強いて言えば横腹に感じる痛みくらいだろうか。
案の定、朝から何も無かった分、いつもより長くて重い。
全身が痛い。
昨日の傷と痣が、更に酷くなる。
毎日の日課の様なものだから、治る訳も無いが。
ぼんやりした意識を、保つので精一杯だった。
反抗もできなければ、声も出せない。
「転校生も、こんな奴の席の近くとか、可哀想だよな〜」
「それな〜?変わってあげたい」
そんな会話も、半分理解できていない。
今は目の前にある地獄が終わる事を待つしかない。
kn「ッ、ぅ”あ”」
「にしては、今日調子乗ってたよな〜。」
「転校生とめっちゃ話してたじゃん」
「話しかけてくれたからってあんな進んじゃってさ」
「意味わかんねぇ」
kn「っは、ぁ、…い”ッ」
腕も、足も、腹も、全部が痛い。
最早、痛みも曖昧だ。
どこまでの感覚が正しいのか、昨日から続く痛みなのか、今この瞬間からの痛みなのか。
脳は必死に殴られる事を否定しているのに、身体はどうもおかしい。
これを受け入れつつある身体は、この衝撃に慣れ始めている。
いつか死ぬのではないかと、本気で思う。
気づけば、目の前に落ちていた影が無くなっていた。
拳と足の固さも、暫く感じない。
「…今日はもういいわ。顔見ただけで無理だわ」
「あははwそこまで来たら終わりだろw」
笑いながらこの場を去っていく。
終わった。
全身から力が抜けていく。
久々に目を開けると、上にはまだ快晴の空が広がっていた。
せめて、雨が降っていて欲しかった。
自分の身体は、いつも通りと言っていい程に汚い。
土と、ほんの少しの血と。
また洗わないとだな、なんて思いながら、言う事を聞かない身体をなんとか動かす。
kn「ぁ、」
立ち上がると、軽くふらつき、壁に凭れる。
でも少し経てば普通に歩ける。
本当に、おかしい。
さっきまでの曖昧な意識も、今でははっきりしている。
身体の節々が痛い。
いつもなら気にならないのに、今日は違う。
裏門までの道のりは、やはり遠い。
自分の歩くスピードが遅いせいではあるが。
kn「…あーあ」
転校生さえ来ていなければ、こんなに痛くなかったのかもしれない。
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