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#風見裕也
すいらん
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花梨
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焼き鳥のにおいがするバンの中で、捜査員が苦い顔をしてそれを頬張るスミスを見た。
せっかく美しいんだから、もっと綺麗に食べたらいいのに…と。
「おい」とスミスはタレだらけの口元を拭う。「なんだこれは?なんで甘い?食事に砂糖をなぜ入れる?」「はあ?」
首を振る捜査員に風見がカメラに映る降谷を見ながら言う。
「日本には食事を甘く煮る習慣があったり、甘口といって……」
「しかもこれはなんだ」スミスはねぎまのねぎをひきちぎる。「苦い」
ポイ、と捨てられた棒に、捜査員は窓を開けたそうにするが「だめだ」するわけにいかない。
はあ、とため息をついていると、通信が入る。「聞こえるか」降谷は普通に話している。襟の下にマイクを入れたから、普通に話してもよく聞こえた。
「こちらからは?」風見が言う。「ああ。よーく…ねぎまは旨いよ。酒のつまみにはね…」カメラの降谷が頷く。
立ったままの外交官たちは、来る花を待ちわびている。
「話は聞いていると思いますが」と降谷は2人の外交官を見たが、睨まれる。
「あぁ……どういうわけで我々の領分に入ってきた?」
「そりゃあーー」降谷さん、と風見は言うが遅かった。
「……こちらのほうが」と、天井をさす。「我々のほうを…信用したからでは?」
屈辱だ。というような外交官2人の顔を、風見はよく見たことがある。
「防衛省がお前らの言いなりなのはそのせいか……」
「我々は【仲良し】ではなく国防を背負っているんでね。謹んでください……」
「ハインツ氏、到着しますーー」
両開きのドアが開き、コツ、と彼女は目が覚めるような青いヒールで1歩踏み出した。
ふわあっ、といい香りがやってくる。
ふ、と首をかしげて微笑む青い瞳。
バタン!とドアは閉まる。
さあ、ショータイムだーー
降谷は小さく呟いた。
「ハインツ氏、お会いできて…」という外交官を通りすぎ、降谷は近づいていく。SPが前に来ようとしたのを彼女は「いいの」止める。
彼女はす、と手を差し出す。
「…な!」膝まづき、降谷は胸に手をやり、頭を下げる。「神が【女王陛下】に加護を与えられんことを……」しばらく目を閉じたのち開けて、見上げる。手の甲をとり、その目を見たまま口付ける。
「まあ…」ふわ、とハインツは驚いたように笑った。「まさか祖国の言葉で出迎えていただけるなんて思わなかった…とても光栄ですわ……」
ふふふ。という笑みに、風見はなんとなくスミスを見た。
感じが似てる……この女と。
降谷さん……風見はなんとなくざわざわして腕を組む力をこめた。
「当然です」降谷はそのとった手を自分の腕に乗せ、会場に手をやる。そしてすぐ、その手の上に手を乗せた。
バンも会場もぎょっとする。焼き鳥をくいちぎる女を除いて。
「…まったく動じませんね、ハインツ」と誰かが言う。「あれでちょうどなのよーー」スミスが続ける。また床に串を捨てた。「花はねーー自分で。蜜蜂を呼ぶんだから……わかっていて蜜を吸わせるの……」
す、とハインツに耳打ちする。「あなたほどの……」ハインツは顎をあげる。降谷は言おうとしていた台詞を変えた。「……頭のいい女性に…僕ら【男】が失礼のないようにするには……」
ふぅん?とハインツは満足したように言う。「あなた……」と彼女は目だけで降谷を見て、顔を向ける。「かわいいわね
……自分がおばかさんだと理解してる。いい子だわ。気に入った……」
「光栄に預かります」降谷はまた頭を少し下げ、全員はぞろぞろと歩き出す。
「正解」とスミスも顎をあげる。皆がスミスを見た。
「美人に外側の皮を褒めてもだめよ」
「なんでだ」風見は素直に言う。
スミスは肩をすくめた。
「言われ慣れてるもん」
バンの中は全員どっと疲れたように下を向く。
「ありがとう、とか言えないのか?」と風見。「言えば、言われ慣れてるな。ってあんたたち。不機嫌になるじゃない」
たしかに…と呟いた誰かを、風見はむっと睨む。
「とにかくね、美人を口説くときは絶対に外側じゃだめなの。内側を」スミスはこめかみに人差し指を当てた。
「内面の美しさを褒めるのよ。覚えておきなさいね」
風見は唸りだした。「降谷さん……」思わず声をかけるが、届いていないらしい。
目の前にはさっきからずっと困惑したようすの外交官たちと、バン。
「…ロシア語の通訳を用意しとけばよかった」
「スミスは?」と言われ首を振る。「挨拶だけだったはずだろ……」流れてくる音声はすべてロシア語で、何もわからない。
「これは」スミスは頷く。「いけるかもよ?あいつが頑張れば」とまるでこちらにもハインツがいるようで、風見はまた唸る。
「でもすでに酔いすぎじゃ…?降谷さん…」
「はははは…」と降谷は口を開けて笑う。ハインツが何か指差して、降谷に耳打ちする。手は握りあったまま。まるで内緒話するーー「これじゃ…」「ねぇ」とスミスが言う。ぐっ、と降谷が傾けたグラスにまた注がれるウォッカ。
「あいつ日本とどこの?」生まれ。とカメラを見る。
「遺伝子的に日本人は酒に弱いわ。ハインツは知ってて飲ませてるのよ。だから、飲むしかないわ…」
【秘密】を喋らせたいならね……。
くた、と彼女の肩にもたれる降谷にSPがさすがに動くが、ハインツが止める。
くいくいとウォッカを傾け続けるハインツは、顔色も変わらない。
降谷の頭を撫で続ける。ふ、という笑みがカメラに向けられ、全員は身を引いた。なんとなく気持ちいいのは、彼の顔を見ればわかる。
指差した先にあるナッツを、ハインツは口に運んでやる。「んふっ…ははっ」と降谷は目を覆う。
「ああっ!」と風見は首を振った。「まずくないか?」「えぇ…もうすでに6杯以上は飲んでますよ」「これ以上飲ませたらまともに…」
「まともである必要はないわ」
スミスが腕を組み言う。
「相手が……そうなんだからね……」
ふさ、と碧い髪が目にかかる。風見は唾を飲んだ。
「…スミス…君は……」
「ん?」と捜査員が降谷の足元をズームする。一定に爪先が動いている。
「…モールス信号ね」え?と全員は再び画面を見る。
「だ、誰かわかるかーー」
「風見」スミスが言うのでスミスを見るが、スミスは画面を見たまま。
はっとした。
「出番だ…」スミスはようやく、本人を見た。
「ハインツ様」と後ろからドイツ領事館の人間が話しかける。
「なあに?デザートなら…」
「こちらの…」
「わたしからのデザートです」降谷は起き上がる。「まぁ」ハインツは首をかしげて、顎を引く。「あなた以上の?」かり、とナッツを噛む。
「えぇーー」と舞台をさす。「ジャズには飽きたでしょう…?」
ふ、と舞台にいる風見が目を開けた。
わあっ、と一斉に拍手が起こる。立ち上がる者もいた。大成功といっていい。ハインツもとても満足そうにゆっくり手を叩く。
「なんてセクシーな夜なの……」と降谷を見る。「まさか保守で有名なこの国で、こんなに心が奪われるなんて…不覚なほどだわ……」
風見がやってきて、胸に手をやる。ポケットにある薔薇を差し出す。
ハインツはふぅん、とまた鼻を鳴らす。
「…あなた」とハインツは足を組んだ。だが風見には言葉がわからない。
「あの歌は、あなた自身が選曲したの?」降谷が通訳する。答えていいのかわからず、風見は黙りこんだ。
「ふっ…」ハインツはブロンドを揺らす。目が回るような香水の匂い。
「悪い女なんていないのよ。それが女、なの……まだ…知らないのね……ぼうや」
スミスは舞台裏でそれを聞いていた。ふぅっ、と息を吸い吐く。
わたしはーー女だ。
スミスは歩き出した。
「あら」マイクを調節するスミスに、ハインツは反応する。「ありがとう」と風見から薔薇を受け取って。「隣にいてくれる?色男さん…」「誰か椅子を」と言う降谷に、こら。と言いたげな笑みが向く。
「あんな美人どうしたの?」
「あなたほどでは」はっ、と呆れた顔をしてみせる。
「…日本人?」とハインツ。降谷は頷く。「100日本人で、100アメリカ人ですーー」と言って立ち上がり舞台へ行く。「あははははっ」とハインツが口元を押さえて笑うので、ぎょっとして皆が見た。
「なるほどね…」深く深く頷くハインツは、スミスと降谷に目をやった。
あなたの愛は……煙草よりもからだに悪い……
スミスはマイクを撫で上げていく。
あなたにさわられるのはーー二日酔いよりも辛いの……
言って自らの肩を抱く。
あのボトルと同じ失敗はしないわーー
ママはあいつが悪いって言うの…
パパは逃げろって…
す、とスミスは片手をあげる。向こう側にいる降谷も手をあげる。
でも知らないのーー
彼らは…わたしたちが感じている
高揚感をーー…
そのまま後ろに倒れるスミスを受け止め、思いきり突き放す。くるくるまわったスミスがどっと座り込み、足をあげる。
たとえ不健全な関係でも気にしない
パタパタと両足をしてみせる。
もしそれがわたしを殺しても…
スミスは降谷に引き上げられ、そのままくるくるまた回る。
わたしはあなたの手をとるの…
どっと後ろにのけぞり、降谷にまた投げるように突き放される。
だからみんなやめさせようとする
でもーー
スミスはマイクに戻りハインツを見た。手を伸ばす。
やめさせられないと知ってて…
だって…
降谷を糸を引くようにする。
「あなたはわたしの男だから…」
「ああ、高揚して夜も眠れない…」
降谷がやってきて2人は向き合ったまま歌う。
ドラッグより100万倍ハイになる
す、と互いの顔に手を伸ばす。
「僕の赤い瞳は2倍に開いてーー」
「葡萄に見えるかもしれないけど」
私たちには至福なの……
「みんなが言うんだよ、君は僕にとって悪い存在だって」
「でもきっとーー」スミスは降谷の指を噛んだ。
「僕たちの高揚感を知らないんだ…」
2人は額を合わせ、パチパチと音楽に合わせて指を鳴らす。
不健全な関係でもいい
そんなのは気にしない
いつかこの愛で死んだって
あなたの手をとるから…
「やめさせようとしても…」スミスが顔だけ前を向く。
「やめさせられないと知ってくれ」
降谷も顔だけ前を向く。
だって……
スミスがまた後ろに思いきり倒れるのを、降谷が受け止める。
ぐっと頭を掴み寄せて、スミスはハインツを見た。
「あなたは…わたしの男だから……」
土砂降りの雨のような拍手の中で、ハインツは風見に目をやった。
「あなた」と言うハインツに、風見は少し不安げにそれを見返す。
「…あの女を……愛してるのね…」
言葉がわからないので、とりあえず首を振ってみせる。
「だめよ」ふわぁ、とハインツは風見の目の前に倒れてくる。ぎょっとした。
本当に……あの女に……よく似ている。
「わたしに、嘘をついちゃ…ふふっ…」
「ハインツさん」降谷はちょっと足をふらつかせた。「ご挨拶に…」とスミスは頭を下げようとするが、人差し指を出され止められる。
「美人さん。ロシア語は?」と降谷を見るが首を振られる。
「直接話したいのーー通訳を呼ん…」
「ドイツ語では?」とスミス。
風見と降谷の耳に「こちらもドイツ語話者ならいます。スミスにも盗聴器が」と入る。
「少し2人きりにしてくれない?」とハインツ。「ハインツ様…」とSPらが困ったように囁く。
「んもう。女同士内緒話もできないの?」
「では」と降谷は部屋の片隅を指差す。「我々はあなたも、彼女の安全も確保しなければなりません。外交官、ですからーー」と本物を見れば、恨めしそうに口に肉を運ぶ。
「そうして」顎をくい、とやるのでテーブルからは人間がどんどん離れていく。
「うっ…」と降谷が嫌なげっぷを出すので、風見は囁いた。「頑張ってとしか」
「どうする気ですか」と耳に入る。
「わからない」降谷は素直に言い、離れた位置から2人を見た。
ハインツはゆっくり立ち上がり、スミスの目の前に立つ。目線はほとんど同じだ。
「…盗聴器を外して?美人さん」
ざわつくバンの声が聞こえ、降谷は後ろを向いた。「外しても潰さなければなんとかなるだろ」「ですが雑音がひどく聞き取れなくなりますーー」
スミスは目だけで降谷を見た。何も反応しないので、す、と耳にあるパールのイヤリングを外す。ハインツが手を出すので、上からぽとり、と落とした。ぐしゃっ、という音と共に古谷には砂嵐しか聞こえなくなる。
そしてハインツも同じようにスーツのボタンをひきちぎり、肩からはるか後ろに放り投げた。
「あなた…」
ハインツはまた近づく。驚くほどの存在感に、スミスは顎を引いた。
「いったい何人と寝たの?」ふふっ、とハインツがSPら外交官たち降谷の塊を見る。
「…全員」
「あははははっ!」ハインツは口元を隠して無邪気に笑う。「はー…だと思った……」段々声音が変わっていく。
「あの」と降谷を見やる。「かわいい外交官の【ふり】をしている彼…」
ハインツは腕を組み、うーん?とわざとらしく顎に手をやる。
「何者かはなんでもいいけど……あなたに」とスミスを青が捉える。
「惚れているうちは死なずに済むわね。だって…あなたが。それを許さないから……」
スミスは圧倒されないように、片手をテーブルに手を置く。
「それで?あなたは?」す、とハインツは腕を組んだままスミスに手をやる。
「愛してるの?彼を…」
スミスはぐ…と唇を片方に少し曲げた。
ハインツはゆっくり2回、金色の睫毛を瞬きさせる。
「…なぜ……彼がわたしを……」
「あはっ」ハインツは腰を折って笑う。
「わかるわ。【うち】のだってそうだもの……私がいないとなぁんにも決められない。決める責任は、男には背負えない……だから…わたしを連れ回す。わたしが、予想もつかないから、自分のものだと思いたいから……頭の中はわたしでいっぱいなの」
「わたしは…」スミスは顎をあげる。
「もう……何も奪わせない…」
私からも、彼らからも……。
「例え愛していたとしても、わたしは自分自身のものです」
ハインツはしばらくスミスを見ていたが、ふ、とピンクの唇に弧を描いた。
「……あなた。昔の私にそっくり。気に入ったわ」
「どうも」スミスはふ、と目をそらす。
「何を話しているんです」風見が強く降谷に言う。「どうせ僕らがかわいいって話だろ…」「かわいい!?」風見は詰め寄った。「かわいい、は一応欧米では誉め言葉だ…」癪そうに降谷はまだ背を向けたままだ。
「だが」と呟く。「もし【効いて】いれば……」降谷は前を見上げた。
「最高の夜よ。かわいい外交官…美味しい食事、かわいい歌い手、そして目を奪う……真っ赤な薔薇……」
スミスを下から見上げる。
「ご褒美をあげなくちゃね?」
す、とスミスの横に立つ。
「何がほしいの?」とハインツ。
スミスは降谷を見た。目が合う。
「……力」
「ふふふふっ…」ハインツは呆れたように笑った。「それは昔、私も探し回ったわ?美人さん…でも、最初からここに」
す、と胸元に手が滑ってきて、スミスは唾を飲む。
「あなたも自分で……わかってる」
スミスは目を開いていく。
「あなたはまるで…死さえ弄ぶ……わたしたちには、世界はまるでビー玉……」
転がすには……小さすぎるの……。
「あなたたちが知りたいのは、廃止した原子炉の使い道でしょ?」
たっ、と目の前に戻るハインツ。
「とっくに…」とにやり、とする青い目にブロンドがかかる。
スミスは息が止まりそうだった。
「嘘よ。売っちゃったわ」
「ロシアに?」とすかさず言うスミスに、ハインツの表情が変わる。
「その真実には……」と降谷たちを見る。「辿り着かせるのね……」ふ、と笑う。「まるで自分でやったかのように…ふふふふっ…じゃあ」とハインツが同じようにテーブルに手をつく。
「あなたは何をくれる?」
スミスは目をそらす。
「私にその権限は……」
「なくてもいいわ」はぁっ、とハインツ。「なら、米軍の輸送機」はっ!とスミスは髪を揺らして前を見た。
「くれなくてもいい。貸して?知ってると思うけど、ロシアはいずれ戦争を始める。ドイツはロシアに加勢【させる】わーー色んなものを運ぶのに自国のものだけでは足りないの」とハインツは首をかしげる。
「…そんなことしたら……」スミスは息があがりそうになり、テーブルクロスを握りしめる。「……そもそも米軍から支援されている兵器は……それで他国を攻撃しないことを前提に国防の役目であるもの……」
「だから?」とハインツ。
「そんなことをしたら……」
「じゃあ?」
まるでどんどん壁に追い詰められていくようで、スミスはふっ、と息を吐いた。
ハインツを見る。
そう、わたしたちは女だーー
「…日本は石油国じゃない。半数以上を輸入に頼っている……だから、ガソリンは無理。支援したら不自然だわ。でも…エンジンなら」
くっ、とスミスは顎をあげる。
「エンジンなら……くれてやってもいい」
ハインツは満足そうにまた笑みを浮かべる。
「…あなたも頭のいい女ね。エンジンなら、車の主生産国である日本が支援してもなぁんにもおかしくはない……世論も気付かない可能性が高いわ」
何に使うかは…別として……。
パチ!とハインツは指を鳴らし人差し指を男らに招く。
「帰るわ」
「…あなたは……ハインツ」スミスは呟く。
「いったい何がしたいの…戦争がビジネスなのはわかる、でも……」
集まった人間に囲まれる。ハインツは髪を揺らした。
「わたしたちはね、美人さん。生きているだけで罪深いの……」
「…!」
レディ!とロイが木漏れ日から手を伸ばす。
「だから…」ハインツはふ、と前髪を垂らした。
「【そうやって】生きる……ただ、それだけよ……」
ハインツは頬にキスを求めて降谷に近づく。両頬したあと、皆にも同じようにしていく。「ありがとう。とても素敵な夜を…」
す、と再びスミスの横にくると、顔をつかんで向ける。ハインツは笑った。
「栄光のために…いい人生を」
ハインツはそのままスミスに口付けた。
ざわめきが一瞬起きるが、ハインツはそのまま歩き出す。
ぞろぞろした人間らが消えたあと、スミスはテーブルクロスを持ったまま滑り落ちた。
「スミス」風見がすぐに駆け寄る。「大丈夫か?いったい何を…おい。スミス!」
揺らされても、スミスは何も答えられない。
力なら……ここにある。あなたもそれを…わかっている……。
スミスはかたかた震え出す。「おい!」風見の声が聞こえた。たまらず飛び付く。
「ちょっ…!」それで尻餅をつく風見に、スミスはへばりついた。震えているのが風見もわかり、「おい…?本当に大丈夫か…」「どうしよう…」スミスは素直に口にした。
考えたことがなかった。
もし自分が核ミサイルだったら?
そのボタンを…降谷に押させるのか?
わたしはなんにでもなれる。あの男のためにはなんにでもーーだが。
そんなことさせられない……
人は皆生きているだけで罪深いのよ。美人さん……だから……
「そうやって生きていく…だけ」
「スミス!しっかりしろ!おい!」
あの女は、愛している男にもそうさせてきた。そうやって…生きてきた……
わたしにもそうしろというの……
「栄光のために…」
降谷がやってきて飛んできたときには、スミスはただ首を振ったまま。風見もよくわからない、と言う。
スミスは涙が止まらなかったが、今はどうしても、降谷に抱かれたくなかった。
コメント
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いやあ、もう冒頭から風見さんのイライラが手に取るように伝わってきて笑っちゃいました(笑) スミスの焼き鳥の食べ方、ありえないですよね。でも「美人に外側の皮を褒めてもダメ」ってスミスのアドバイス、妙に納得してしまった…。 そしてハインツ! 登場シーンの圧倒的なオーラ、降谷が女王陛下への謁見の礼をするあの流れ、痺れました。彼女の「生きているだけで罪深い」って台詞がずしりと響く。スミスが震えながら「考えたことがなかった」と呟くシーン、すごく胸にきました。女同士の静かな戦いと、それを見守る男たちの構図が美しい回でした。