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星には、明るさの等級があるらしい。
小学生の頃、理科の授業でそう習った。数字が小さいほど明るいのだと先生は言った。黒板には白いチョークで「一等星」と書かれていて、教室の窓から昼の空が覗いていた。
その時、ふと思った。
じゃあ、いちばん暗いやつは何て呼ばれるんだろう。
俺の家に、よく光る星が来たのは、その少し前だ。
母さんが再婚して、蒼真が家に来た。黒髪で、やけに姿勢がよくて、声が低い人。俺よりずっと大人びて見えた。まだ俺は小さくて、金髪でもなかった。
最初の記憶は、玄関だ。
「よろしく」
それだけ言って、蒼真は俺の目を真っ直ぐ見た。笑わない人だと思った。
俺は母さんの後ろに隠れて、「……うん」とだけ返した。
蒼真は多くを喋らなかった。けれど、気づけば隣にいた。
宿題をしていると、いつの間にか向かいの席で本を読んでいる。
転んで膝を擦りむけば、黙って消毒液を持ってくる。
夜、雷が鳴ったときは、廊下の電気をつけてくれた。
優しいのかどうかは分からなかった。ただ、そこにいる人だった。
中学に上がる頃には、蒼真はもう「すごい人」になっていた。
テストは常に上位。教師からの信頼も厚い。廊下ですれ違えば、生徒が小さくざわめく。
俺はそれを少し離れた場所から見ていた。
「神崎の義弟だよな?」
そう言われるようになったのは、その頃からだ。
最初は悪い気はしなかった。誇らしかった。
すごい人の家族だというだけで、少しだけ自分も強くなれた気がした。
でも。
テストで九十点を取った日。
「さすが神崎の弟だな」
百点を取れなかった日。
「お兄さんいるんだから、もっといけるだろ?」
どっちでも同じだった。
俺の名前じゃなかった。
璃央羅じゃなくて、「蒼真の義弟」。
いつの間にか、俺は数字になっていた。
明るさを測られる星みたいに。
高校に入って、髪を金に染めた。
理由なんて、たいしたものじゃない。ただ、鏡の中の自分が少しだけ他人に見えればいいと思った。
蒼真は何も言わなかった。
ただ、一瞬だけ目を細めて、「似合っている」とだけ言った。
その声が、少しだけ低くて、少しだけ優しかったのが、無性に腹立たしかった。
夜、机に向かう。
問題集を解く。消しゴムのカスが増える。
窓の外には星が見える。
俺はどの辺だろう。
一等星の隣か。
それとも、誰にも気づかれない暗いやつか。
廊下を歩く足音が止まる。
コン、と軽いノック。
「起きているか」
低い声。
「……うるせぇ」
そう返すと、少し間があってからドアの向こうで気配が消える。
机の上のノートに、自分の名前を書く。
「璃央羅」
星の等級には、まだ載っていない名前。
それでも、いつか。
俺だけの明るさを持てる日が来るのかもしれない。
たぶん、まだ知らないだけだ。
あの人が、俺をどう見ているのかを。
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