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鎧を着た屈強な男達が泣き叫ぶ声で辺りは騒然としていた。
膝から崩れ落ち泣いている者、
「殿!殿!」
と縋りつき泣いている者、皆に愛された男が今この時命尽きようとしている。
馬が早脚で駆けてくる音が近づいてきた、
ユイ様だ!!
男達は一斉に駆けつけた男の方を見た、皆の泣き顔になんともいえぬ苦しみまで合わさった、
馬に乗っていた男は、絶世の美女、カンレイの宝石と呼ばれていた母に生き写しの顔をしていた。
肩まである黒髪は絹のよう真珠のような白く艶やかな肌、美しい黒い瞳に長い睫毛、とても男には見えない。鎧を着ていても身体の線も細い事がわかる。
男の名前はユイ。泣き叫ぶ武将達に囲まれている将軍の弟だ。
ユイは馬から降りると走って兄の元に行こうとした
「兄さん..兄さん..」
最愛の兄の死を感じとり恐怖で腰が抜けてしまった、這って最愛の人の元へと行こうとしている。
「兄さん..嫌だ..嫌だ..兄さん..」
周りにいる部下達は手を貸す事すらできないでいる、ユイにとり兄セイカはどれほどどれほど大切な存在か皆わかっていたために。
二人が実の兄弟でありながら深く深く愛し合っていた事は周知の事実だった。
やっと一人の部下が泣きながらも手を貸した
「ユイ様..セイカ様がご到着を待っておいでです..ユイ様のご到着まで頑張っておられたのです、さあ行きましょう」
やっとの思いでセイカの元へ辿り着いたユイが目にしたのは、胸元を深く斬られ血が溢れんばかりに出ていたセイカの姿だ。
兄セイカはカンレイ屈指の麗しい美男子と有名だった父に生き写しだった、なんの因果かそれぞれが亡き父と母に生き写しというわけだ。
「兄さん!兄さん!嫌!嫌だ!置いていかないで!一人にしないで!離れたくない!」
血だらけのセイカにしがみつきながらユイは言った
「早く!軍の医者を呼べ!なにをしている!」
細く美しい声が怒鳴り散らした
「ユイ、やっと来たか。遅かったぞ。お前が来るのを待っていた」
しがみつき泣き喚くユイは顔を上げた。その瞬間セイカの大きな手はユイの美しい頬を優しく撫でた。愛しくて愛しくてたまらないものを撫でるように。
ユイは嗚咽でセイカの顔を見るのがやっとだ。
「ユイ、よく聞け。俺の後を追う事は許さない。軍を..城の皆のことを頼む..よいな、これは命令だ..」
ユイはなにも言葉が出なかった、ただ最愛の兄が死んでいく様に全身がブルブルと震え泣き喚く事しかできない。
「ユイ..愛している..」
ユイの頬を撫でていたセイカの手が地面に落ちた。
「ああ!!ああ!!嫌だ!嫌だ!兄さん!兄さん!嫌だ!!兄さん!!兄さん!!早く医者を呼べと言っているだろ!!」
側近の一人が震えながらに言う
「ユイ様..殿は、セイカ様はお亡くなりになりました..」
「嘘だ!!まだ心の臓は動いている!!医者の首を刎ねるぞ!!早く..兄さんを..お願いだから助けて..」
大将軍であり人望も厚かったセイカの死に泣き喚く側近達も打ちひしがれただただ肩を振るわせ静かに泣いた、
まだ温もりを感じるセイカの亡骸にしがみつきユイの悲痛な慟哭だけが響きわたった。