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翌朝。テーブルに整然と並べられた金色のコインが、朝日を乱反射していた。
「凄いわね…何枚あったの?」
「きっちり100枚…昨日宿代で2枚使ったから98枚だね。半分に分けるからこっちの袋にミルキィの分を入れておいてね」
「レビンが持ってて。どうせ支払いなどもレビン任せなんだから」
結局テーブルに広げただけであった。
「あっ!始めに武器屋に行ってもいいかな?」
「もちろんいいわ」
臨時収入があった為、ガウェインでは買えなかった自分の武器を買うようだ。
初めて行った武器屋の店主には、街を出る時に別れの挨拶をした。
『黒曜鉄の剣を買えなくなりすみません』
そう伝えたレビンに
『今回は縁がなかっただけだ。坊主には別の相棒が見つかるだろうよ』
と言われたのだった。
二人は宿を出て武器屋へと真っ直ぐに向かった。
その前に宿の少女に連泊する旨を伝えて。
ついでにと、少女に聞いた武器屋は宿とギルドの間にあり、二人は店の前に迷うことなく辿り着いたのだ。
カランカランッ
どこの店にも付いているドアベルを鳴らしながら入店した。
「見て。あの棚。あれってレビンが欲しがっていた黒曜鉄で出来てる武器じゃない?」
「ホントだ!」
店に入ってすぐに二人は黒曜鉄の武器コーナーへと向かい棚を眺めた。すると後方から声を掛けられる。
「その棚は銀ランク冒険者以上を推奨しているぞ」
中年の男が二人に声を掛けてきたのだ。
「はい。丈夫な武器を探していまして。出来たらロングソードで。ありますか?」
「ん?…話を聞いてたのか?黒曜鉄より硬いモンならあるが…」
「えっ!?あるんですか!?見せてくださいっ!!」
男の話に全く耳をかさないレビンは、自分の知りたい事だけはしっかりと聞いていた。
「待て待て!!俺の店の武器は、身の丈に合ったものを身の丈に合ったやつにしか売らんぞ!」
「素晴らしいポリシーだと思います!それで!?その丈夫な武器は!?」
人たらしのレビンであってもこういう時は雑になるようだった。
「だ・か・ら!お前はそれに見合うのかって話だよ!」
「見合う…ですか?一応銀ランクではありますが…」
そう言ってタグを店主に見せた。
「なんだ。銀ランクじゃねーかよ…えっ!?レベル7!?」
「はい。レベルは低いですけど何故か上がりづらいだけで、強さは問題ないですよ」
レビンは自分の事を強いとは思っていない。実際に戦闘職の他の人のレベルを知らないからだ。
しかし、今はいい武器が欲しい為、恥を忍んでそう伝えた。
「…変わった奴だな…人の話も聞かねーし。だが、強いなら構わねーか。着いてこい」
そういうと男は店の奥へと歩き出し、裏口から外へと出た。二人は男へと着いて行く。
「ここで待ってろ」
「は、はぁ」
武器が見れると期待していたレビンは、店の裏庭でポツンと佇むのであった。
ミルキィはそんなレビンを見て『やっぱりまだまだ子供ね』と思うのであった。
「待たせたな。コイツがうちにあるロングソードで一番硬いモンだ」
男が持ってきたのは、刀身が薄くではあるが赤色に輝く黒剣だった。
「ヒヒイロカネって特殊な金属と黒曜鉄の合金で出来ている。
ヒヒイロカネだけで作るととんでもねー値段になるから、重要な部分だけヒヒイロカネを使ってるって事だな」
「綺麗です…あの。お値段は?」
「コイツは金貨100枚だ」
絶妙に足りなかった。
「90枚にまけてくれたり出来ませんよね…?」
足りなかったが、レビンは諦めきれない。
「うーん。構わねーぞ。その代わり合格したらだ」
「合格、ですか?」
「ああ。コイツを振って俺に認められたらその値段で売ってやるよ」
レビンも変わり者であるが、この男も十分変わり者であった。
「わかりました!よろしくお願いします!」
「ほれっ」
男はそう言うと、レビンに剣を渡した。
「行きます!」
レビンに剣の心得などない。
(出来る事は一つだけ。自分の想いと全力を込めて振り切るっ!!)
レビンが上段から振り切った剣は、赤色の軌跡を残し、地面に当たる前に止められたが…
ピシッ
地面に亀裂が入り…
ブンッ
音を置き去りにした。
「ご……合格だっ!!いやー!魂の籠った一撃だったぜ!剣を地面に当てたのか?いや、それならもっとデケェ音がするはずだな…」
男は良いものが見れたことと、その後の考察に夢中だった。
「金貨90枚です!お確かめください!」
男の気が変わる前にと、レビンはお金を支払う。
こういうところは強かである。
「おう。数えるから店の中に行くぞ」
男の後を追い、店の中へと入っていった。
「ひぃふぅみぃ…」
男が金貨を数えている横で、レビンはミルキィに謝罪することに。
「ごめん。勝手にお金使って」
「良いのよ。レビンには最初に借りがあったのだし。それに、それがなくても私達はずっと一緒なのだから、財布も一緒でも良いのじゃないかしら?」
偏に、二人のお金を分ける意味がないと言うミルキィに……
「そうだよね。でも二人のお金なんだからやっぱりミルキィに相談するべきだったよ。これからは使う前に確認するね!」
「レビンの事は信用しているからどちらでもいいわ」
ミルキィはお金に興味がなかった。しかし、次に武器を買う時は、レビンとお揃いのモノにしようと心の中で決めた。
レビンが買った黒曜鉄に一部ヒヒイロカネとの合金を使った剣は、黒い鞘に黒い持ち手と、真っ黒なロングソードであった。
持ち手の部分を含む長さは130cm程と、ミルキィのものと比べても変わりはなさそうだ。
片手でも取り回しに問題のない実用的なものになる。
「丁度だな。もし切れ味が落ちたら持ってこい。いつでもメンテナンスしてやる」
「ありがとうございます!おじさんは鍛冶師なのですか?」
「そんなわけないだろ。武器屋なんだからメンテナンスくらい出来ないと商売にならねーよ。嬢ちゃんの腰の剣は銀貨2枚で研いでやるから、切れ味が落ちたら持ってこいよ」
「ありがとうございます」
ミルキィが自発的に頭を下げた……いや。驚くようなことではないのだが、一応……
二人はお礼を伝えて店を後にした。
次の目的地はギルドである。流石にお金を使い過ぎた為、稼がなければならないし、冒険者が稼ぐということは助かる人がいるということでもある。
カランカランッ
「あそこに依頼ボードがあるよ。見に行こう?」
ギルドに着いた二人が向かったのは、今までお世話にならなかった依頼ボードである。
晴れて銀ランクになった二人は、次の仕事は常設ではない依頼にしたいと話し合っていた。
もちろんレビンの意見だが……ミルキィはレビンが楽しそうであればそれでいいのだ。
「商人の護衛依頼かぁ…何か二人で出来る討伐系はないのかな?」
なるべく他の冒険者や市井の人達には見られたくない。そんな思いから依頼を選り好みしていくレビンであったが、トラブルは足音もなく二人に近寄ってきた。
「名前はなんていうんだ?俺達と依頼を受けようぜ?」
二人よりも年上に見える男達が、ミルキィに話しかけたようだ。
「私は彼とパーティを組んでいるから、間に合っているわ」
「彼?あのガキか?はははっ!俺達は銅ランクだぜ?あんなトロそうなガキだと頼りないだろ?俺達が守ってやるからいこーぜ」
どうやらこの四人組の男達は、昨日の騒動には居合わせなかったようだ。知っていれば声なんてかけなかっただろうに。いや、かけれなかっただろう。
「…レビンの悪口を言ったわね?謝りなさい」
男達の言葉に、ミルキィの視線が鋭さを増す。
「はっ?雑魚だから頼りないって言っただけだぞ?あんな奴の事は放っておいていくぞ」
「そうだ!見てみろよ?震え上がってこっちを見やしねーぞ?はははっ!」
その時近くにいるレビンは……
(待てよ。この依頼は珍しい薬草の採取依頼だけど、道中なら魔物が狩れるんじゃないかな?あ!注意書きに魔物の事も書いてある!)
依頼ボードに夢中だった。
「貴方達。もう一度言うわ。レビンに謝りなさいっ!」
大切な人を馬鹿にする発言に、つい語尾に怒りが混じり、声も大きくなってしまった。
「ああん?!顔が良いからって、あまり調子に乗るなよっ!?」
男達がミルキィに、にじり寄る。
二人にとってはこの時間が拙かった。
武器屋に寄らず真っ直ぐ来ていれば、混んではいるが上のランクの冒険者もいれば昨日の騒動を知る目撃者もいたはずだ。
そうなればこの男達を戒める誰かがいたことだろう。
だが、今のギルドは朝のピークを越えて、一日の中でも人が少ない時間帯だったのだ。
「どうしたの?何かあった?」
ミルキィの声で漸く気付いたレビンは、騒動に割って入った。
「この人達がレビンの悪口を…」
それだけでレビンには充分だった。
(昨日の噂話でわかってた事だったけど、ミルキィはどうやらかなり目立つみたいだな。ずっと一緒にいる僕でさえ綺麗だと思うんだから当たり前か)
「それで、どうしようと?」
「邪魔だよ!」ドンッ
男がレビンを突き飛ばそうとした。実際には突き飛ばしたつもりだったのだが、そこはステータス差が開き過ぎていて無理だった。
「待ちなさい!」
そこに割って入ったのはギルド職員の男性だった。
「双方動かない事!このまま話を聞くが、答えなくても何らかのペナルティがあると思いなさい!」
普段は優しい口調の職員も、何かあれば毅然とした対応を取る。当たり前だが、冒険者を抑えようと思えばなよなよした態度ではいう事を聞かないからだ。
6人が了承したのを確認した職員が、事実確認を始める。
「何があった?」
すると四人の男達は口を揃えて二人を悪者にする発言を繰り返した。
「ではそちらはこの二人が依頼ボードを見るのを邪魔したと?」
「そうだ!もうこんな時間だから急いで依頼を受けたかったのに、参ったぜ」
「どけろって言ってもきかねーから肩を押したんだぜ?」
「しまいにゃこの女が色仕掛けしてくるもんだから困ってな」
「俺達は金払って謝るんなら許してやるぜ?」
怒りで震えるミルキィの手を、レビンは優しく握った。
「そっちの言い分を聞こう」
次は二人の証言の番になり、二人は事実をそのまま伝えた。
職員が職員を呼び、何人かで話し合った結果……
「この二人の言い分が正しいと認める」
「は、はぁ!?何言ってんだよ!?こんなガキの言う事よりも、銅ランクでギルドに貢献している俺達の言い分が正しいに決まっているだろう!?」
「そうだそうだ!」
「ギルドは馬鹿の集まりかよ!」
「そうだ!なめんじゃねーぞ!?」
男達は喚くが、喚いて覆せるものでもない。
「決定事項だ。今回は二人に被害が少なかった事から口頭注意で済ませるが、次に同じ事をしたら鉄ランクに降格だ」
そう伝えて去ろうとした職員だったが、男達の言葉を聞いて立ち止まった。
「こんなガキどもに舐められてたまるかよ…」
「でもどうすんだ?」
「あれがあるだろ?冒険者に許された特権が」
男達は立ち去ろうとした職員に声をかける。
「おい!俺達とコイツらでパーティ戦をする!」
レベル
レビン:7(40)
ミルキィ:33