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全自動運転の正源の電気自動車が駅へ向かう間、車中での浄源と正源の問答は続いた。正源が答えられないでいるのを見て浄源は言った。
「お前の修行を指導しておる時に、わしが教えた事を覚えておるか? わしら坊主は誰のため、何のためにいるのか?」
昔の事を必死に思い出しながら、正源はおそるおそる答えた。
「愛する者に先立たれ、生きて悲しんでいる人たちのため、でございましたか?」
「そうだ。亡くなった方の魂をどうこうするのは坊主ではなく御仏の役目だ。わしら坊主の役目は、現世に残されて、悲しみ苦しんでいる人たちの心を癒し、その心の痛みを和らげる事だ。だが、今日お前が供養した、あの性風俗用ロボットに、そんな人たちがいると思うか? あのロボットの前の持ち主は悲しみ、苦しんでなどおるまい。そうでなければ、あんな山の中に不法投棄したりはするまい。今一度問うぞ、正源。お前は今日、誰のためにあの供養を執り行った?」
「そ、それは……」
またしても正源は絶句してしまった。浄源は怒るでも責めるでもなく、淡々と言葉を続けた。
「わしはあの供養を、あそこにいた作業員の皆さんのために行った」
「あの人たちのために、ですか?」
浄源は横目で正源を見ながら言った。
「人間ではない、生き物ですらない、そういった物に対してまで憐みと哀悼の感情を持ち、その供養を願う。そんな事をするのは、わしの知る限り日本人ぐらいのものだろう。よその国の人たちには、人形供養や針供養ですら、理解不能な奇怪な風習としか映らんだろうな。だが、今風の言い方をすれば、それが日本人のDNAなのだ」
「DNA……ですか?」
「これだけ外国にルーツを持つ日本国民が増えた今の時代には、日本民族の、と言った方がいいかもしれんな。動物や植物、果てはただの物にすらそういう感情を抱き供養する。それは日本人のDNAに刻まれた民族として感覚なのだ」
車が駅の前に着き、スピーカーから目的地に到着したというメッセージが聞こえて来た。それでも正源はまっすぐに浄源に顔を向け、耳を傾け続けた。浄源は言った。
「その日本民族のDNAに刻まれた感覚を守り、保ち、後世に残し伝える、その事に資するのであれば、お前がロボットの供養をし続ける事は差し支えない。総本山のお師匠様方はそう結論を出された。今日わしがお前をここに引っ張り出したのは、それを伝えるためだ」
正源は思わず息を呑んだ。浄源はさらに言葉を続けた。
「もしお前が、あくまで金のためだと言うなら、それはそれでかまわん。今の時代に街中の寺を経営する事がどれほど大変か、それを理解出来ぬほど、お山のお師匠様方も世間知らずではない。だが……」
ここで浄源は一呼吸置いて、おごそかな口調になって言った。
「だが、お前の得度の修行を指導した者として、わしはお前が違う答を見つけてくれる事を願っておるぞ」
そこまで言うと浄源は、車の助手席のドアを開け、外に出た。あわてて運転席から出ようとする正源を、浄源は掌をまっすぐに突き出して止めた。
「ここでよい。これ以上の見送りは無用だ。では、今後も精進せよ」
助手席のドアを閉め、浄源はまっすぐ駅の改札口に向かって歩き去った。正源は車の中に座ったまま、しばらく茫然としていた。頭の中でこう考えた。
今日の性風俗用ロボットの供養は、総本山が受けた物だと浄源は言っていた。そして浄源がわざわざ正源と一緒に来たのは、正源に何かを悟らせるためだったのではないだろうか?
「そうだとしたら……」
正源は運転席で下を向いて思わず口に出した。両目からぽろぽろと涙の雫がこぼれて来た。
「俺は……坊主失格だ」
コメント
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みぅです🤍🥀 第28話、読み終わりました。 浄源さんの「誰のために供養するのか」って問い、すごく重くて胸に刺さりました。正源が最後に「俺は坊主失格だ」って涙をこぼすところ、自分の在り方を問い直す瞬間だなって思って…。 日本人のDNAっていう言葉も、すごく考えさせられました。 静かな緊張感の中に、大事なテーマがぎゅっと詰まってて、心に残る話でした。