詩人は政治的な役割を果たすために、詩や歌の制作が求められることがある。主に儀式や祝祭、宮廷の行事で詠む事が重視される。 優れた和歌を詠むことが貴族としての地位や名声を高める手段でもあるからだ。
―七夕
【笹の葉そよぐ 風の音に―】
澪蔦は梶の葉に和歌を書いて吊るし、天の川を眺め和歌を詠んでいる。今回の七夕で行われた歌合せでも澪蔦は若いながらも優秀な成績を取っており、それに澪蔦の父も喜んでいたが、なぜか澪蔦はあまりいい顔をしていなかった。
その横で警備をしていた紘貴は、澪蔦が吊るした葉を眺め何やら考え込んでいる様子だった。
紘貴は以前までは詩に馴染みがなく、興味を持っていなかったが、歌合せの澪蔦の詩に心を打たれてからというもの、澪蔦の詩を集めていた。
妄想からふと我に帰ると、普段は日没には褥につくようにしている澪蔦が未だに夜空を眺めていることに気がつき声をかける。
「日が沈んでずいぶん経ったから褥についた方がいいんじゃないか?」
その言葉に澪蔦はハッとして庭園から屋内にいた紘貴のもとへ駆けていく。側に駆け寄られて紘貴は少し戸惑っていたが、澪蔦は紘貴のことを粗野ながらも不器用に優しさを見せているのだと思い、興味を持っていた。
褥についたというのに澪蔦はなかなか眠れずにいた。というのも、澪蔦が寝ている間も紘貴は周りを警備しているということに先ほど気がつき、胸をときめかせているからだ。
―朝
いつの間にか寝ていたようで、目を覚ますといつもみているはずの景色が一段と輝いて見えた。紘貴が縁側にいるということを知っているからだろうか。知らなかった頃と比べて随分と世界の見え方が変わったように思えた。
すると、紘貴が障子を開け朝を知らせてきた。だが、 褥に座る澪蔦の姿を見て一瞬ぎょっとする。その姿を微笑ましそうに見て澪蔦はふふと笑い、 挨拶をした。
【うつせみの 身をば隠して 君を見む 花のかげより そっとぞ想ふ】
今朝の出来事に感銘を受け、一つ和歌を詠んだ。澪蔦は詠んだものは一つの場所へまとめていることが多く、この和歌もその紙はまとめることにした。まとめてある和歌は季節や地名に関するものが多いようだった。