澪蔦が新たに詩を詠もうと巻物を手に取ろうとするが、何故だかいつも置いてある場所に見当たらない。しばらく 厨子棚の中を探していると、障子が開き、そこには侍従である時季が立っていた。
「澪蔦様、お探しのものはこちらですか?」時季の手には巻物が握られていた。
「えぇ。ですがどこにあったのですか?」不審に思い聞くと、どうやら以前の七夕の時に澪蔦が庭園に置いたままにしていたらしい。礼を言うと時季がそのまま部屋を後にするところを見ていると、縁側には紘貴が立っているのが見えた。一体いつからいたのだろうか。
夕食を食べていると、何やら廊下が騒がしく何事かと音のする方を見ていると、音はこちらへ向かっているようだった。すると、障子が開け放たれ、澪蔦と紘貴は目を見開いた。
「澪蔦様、お話があります」
そう発言したのは、紘貴の上司である実房だった。
「話とは何ですか?」不安そうな表情で聞くと
「あなたが意図的に密書を書いているということがわかった。だから官位剥奪になるでしょう。」
「待ってください!密書とは何のことだか全くわかりません」心当たりのない罪であり、証拠も特に無いだろうとすぐに冤罪が晴れると思った。しかし、澪蔦の父の表情は少し曇ったように見えたのに加え、すぐに実房が言葉を発する。
「いつも澪蔦様は巻物に和歌を書いていますよね?その巻物が密書でしょう?」
するとすぐさま父が答える「あぁ。確かに澪蔦の和歌を政治的な密書として利用していたが、澪蔦には伝えていない。」
次々に知らされる衝撃的な事実に澪蔦は驚きと恐怖で胸が裂けそうだった。
「何も後ろめたいものが何のなら見せてください。」
実房にそう言われて恐る恐る差し出すと、そこには政治的な密書として使う内容でもない、国家を呪うような内容が書かれていた。誰もが予想していなかった内容が現れ、澪蔦も澪蔦の父も唖然とする。だが、実房だけは冷静に続ける
「紘貴。澪蔦を連れて行け」
その言葉を聞き、澪蔦は感情が抜け落ちた顔で紘貴の方を見つめていた。
紘貴はこの屋敷に仕えることになったばかりの頃、実房から「不正の証拠を掴め」と澪蔦の護衛を任されることになった。だが、この数日、澪蔦と共に過ごしていると、澪蔦が無実なことがわかっていた。
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「いや、それはできない」紘貴がそう言い放つと、実房は顔を顰める。
「何故だ。上司である俺の命令に背くのか?しかも、罪を犯した者の味方をするとはな」実房の言葉が言い終わるのと同時に被せる勢いで
「俺は今日の昼に時季が、巻物を澪蔦に渡している所を見た。偽の巻物とすり替えて渡したんだろう」と進めると実房は焦りを顔に浮かべ
「何の証拠もないだろう」と言い返すが紘貴が決定的な証拠を叩きつける。巻物の紐の色が澪蔦が普段使っているものは紫なのに対し、今この場にあるものは黒だと言うことを指摘すると、澪蔦と澪蔦の父は口を揃えて「確かに」と呟き、実房は苦虫を噛み潰したような顔でその場を後にしていった。
今は夜雨のようで二人で縁側に座り、庭園を眺めていた。その静寂を破るように澪蔦が口を開いた。
「今日は助けていただきありがとうございました」そう言うと、紘貴はムッとした顔で
「実房のやり方が気に食わなかっただけだ」
と言い返した。だが、二人はお互いに惹かれあっていることを感じ取っていた。
コメント
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何かしらハプニングがあるとドキドキするし絆も深まっていいですよね!! 冤罪が晴れそうでよかったです>_<