コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺はミディヌのことを怖がるウルシュラを何とか落ち着かせる。そのまま彼女にミディヌの腕を見てもらった。
すると、
「……これは――! ふむふむ、ほうほうほう……、なるほど~!」
さっきまで怯えていた同一人物とは思えないな。
ウルシュラは一変して楽しそうな表情に変わり、ミディヌは嫌そうな顔をしたままだ。
「ウルシュラ。何か分かった?」
彼女のスキルは聞いただけではまだ不明で、単純な支援職じゃないことはコボルトへの調理で分かった。だがそれ以外はまだ分からないままだ。
「はい! ミディヌさんの両腕の武器は私のスキルで直せると思います!」
「本当か、姉ちゃん! 弱そうなのにやるじゃねえか!」
「ひぃっ」
ウルシュラは園芸師らしいが、そのスキルは園芸師が持つ特性スキルだと思われる。そもそも冒険者パーティーにいた頃、ウルシュラは魔道具や武器を作っていた。つまり作るだけではなく、直すことも得意ということになる。
「そういうわけですので、ルカスさん」
「うん?」
意を決したような凛々しい表情。普段は見ることの無いウルシュラの”本気”が、間近で見れるのだろうか。
「ルカスさんのお力も必要です! 私が二本の剣を直すので、その間、ミディヌさんの両腕を治癒し続けてください」
「ミディヌの両腕だけを?」
「あぁん? あたしの腕は剣と同一だ。それをどうするって?」
本来なら冴眼の力だけでどちらも治すことが出来た。しかしナビナはまだそこまでじゃないとも。冴眼の力に”覚えさせる”には、別の力が必要だとも。
「剣と腕はミディヌにとって表裏一体なんです。腕だけなら平気でも、武器を直そうとすると腕の方は抵抗をするんです。私は怪我そのものは治せませんが、武器となる部分だけは直せるので……ええと~」
腕だけ治癒しても武器を直さないと完全回復にはならない。しかし武器を直そうとすると、肉体の腕は抵抗を始める。
厄介な性質なのは間違いない。
「切り離せないものとはそういうもの。ルカスはウルシュラのしたことを、冴眼で見る必要がある」
ナビナが言ってるのは、ウルシュラの専門的な力を見て覚えろってことだな。
「あっ……と、いけない。お店を閉めておくわね!」
これから起こることを察したのか、アーテルは急いで店の出入口を閉じている。その合間に、ウルシュラは店内の道具をあちこち引っ張り出して準備を始めた。
「ルカス。治癒しながら覚えるだけでも疲れる。だから、覚えたらたくさん寝た方がいい」
「見てるだけなのに?」
「うん。きっと疲れる」
魔力を使って治癒する時は力の加減が分かる。しかし冴眼にはそれが無い。ナビナが言う力をまだ使いこなせていないところは、その部分のはず。その始まりがミディヌの腕治しだとすれば感覚的にやるしかない。
「ルカスさん、近くにお願いしますね~!」
「あ、うん」
「……ルカスはいいけど、そっちの姉ちゃんは大丈夫なのかぁ?」
「大丈夫です!!」
ミディヌの茶化しも気にしなくなっているな。
「それでは私は二本の剣の修復に入ります。ルカスさんは傷口を広げないように、彼女の腕を治癒し続けてください」
「分かった」
――なるほど。
ウルシュラの動きを見つつ、治癒を使うのか。確かに疲れそうだな。
正直、ウルシュラの手の動きを見るだけでは何が起こっているのか不明だ。だが武器修復スキルという治癒に似た力の光が、彼女の手元から放たれているのだけは見える。
肝心の俺の動きは特にない。しているのは冴眼を輝かせながらウルシュラの動きとミディヌの腕を交互に見つめるだけ。
「へぇ……姉ちゃんは鍛冶師スキルもあるんだな」
「大体のことは出来るんですよ~! もう少しの辛抱ですよ~」
ウルシュラは職人スキルを複合で持っているってことか。
それはそうと、
「…………」
「ルカス、疲れた?」
「目で見ているだけなのに、物凄く体が重い……」
「それでいい……次に目覚めた時、冴眼は覚醒を果たす。でも、まだ足りない。ルカスが持つ魔力も同時に使うようじゃないと駄目」
ナビナの目も何らかの宝石が含まれている。俺の冴眼とは違う力のようだが、何にしても体がだるい。
「ルカスの目はすげぇな! そいつを見てるだけで力が溢れてくるぜ!」
「はは……それはよかった」
数時間が経ち、しばらくしてウルシュラの満足そうな声が上がる。
「やりましたっ!! ミディヌの武器腕を完全に回復させることが出来ました~!」
「よく分からねえけど、ウルシュラの姉ちゃん、あんたすげえな! あたしのことをミディヌって呼んでるのを許してやるよ!」
「ひえっ」
ミディヌの腕を治癒し続けウルシュラのスキルを覚える。それだけで俺はかなり消耗してしまい、俺の眠気は限界だった。
「あらあら、それじゃあミディヌには真新しいローブを着させないとね」
「私も手伝いますよ! ルカスさんにはひとまず向こうを向いててもら――えぇっ!?」
ウルシュラの声だけがやたらはっきり聞こえる中、俺は雑貨屋の床に横になっていた。
「ウルシュラ、静かにして。ルカスは疲れてる。ベッドに運んで寝かせてあげたい」
「ルカスさん、寝不足だったんですかね?」
「……きっと違う」
「それならあたしが運ぶさ!」
まどろみの中、力強い腕に抱かれて俺は部屋のベッドに寝かされた。