春の終わり、母からの電話が鳴った。
「一度、実家に帰ってこない? あんたの話、ちゃんと聞きたいのよ。
最近ずっと“ルームメイト”って言ってた人のことも」
それはまるで、「本当のことを言いなさい」と
見透かされたような口調だった。
葵は、受話器を持ったまま硬直していた。
母は悪い人じゃない。ただ、あまりにも普通に生きてきた人だ。
「……うん、近いうちに帰るね」
そう答えて電話を切ったあと、葵はソファにもたれながらつぶやいた。
「ねえ、紗季。もしうちの親に“私たち付き合ってる”って言ったら……どうなると思う?」
紗季は、静かに目を伏せた。
「正直に言えば、驚くかもしれない。でも……私たちのこと、本当に大事に思ってるなら、いつかきっとわかってくれると思う」
「怖いよ。認めてくれなかったら、って思うと」
「……それでも、言ってみたい?」
葵は小さくうなずいた。
「本当に好きな人と一緒に暮らしてるのに、“ルームシェア”って嘘つくのつらくて……」
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