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数日後、ふたりは葵の実家へ向かった。
いつも通りの玄関。いつも通りのリビング。
けれど、空気は確かに違った。
食事のあと、母がふいに言った。
「……あなたたち、もしかして、ただの“友達”じゃないんじゃない?」
葵の心臓がドクンと跳ねる。
紗季がそっと手を握ってくれた。
それだけで、少しだけ呼吸ができた。
「うん。私たち……付き合ってるの。
高校のときからずっと、大事な存在で。今も、一緒に暮らしてる」
母はしばらく黙っていた。
その沈黙が永遠に感じた。
「……そう。そうなんだ」
「……ごめんね、黙ってて」
「驚いたけど……でも、紗季ちゃんが葵のそばにいてくれるのは、分かる。ごはんの食べ方も、笑い方も、やさしくなった」
「……お母さん」
「すぐに全部は分からないかもしれない。でも、少しずつ教えてほしいな。“ふたり”のこと」
葵の目に、涙が浮かんだ。
***
帰り道、電車の中で紗季がぽつりと言った。
「……話せて、よかった?」
「うん。めちゃくちゃ怖かったけど、でも……“家族”に自分を隠さなくていいって、少し救われた」
そして静かにこう続けた。
「私ね、社会が私たちを“普通じゃない”って決めるなら、私たちは私たちで“当たり前”を作っていきたい。ちゃんと名前のある愛として」
紗季はその言葉に、黙ってうなずいた。
ふたりで選んだ未来は、まだ理解されないこともある。
でも、それでも――
一つずつ、はなして、伝えていく。
その先に、きっと“当たり前”になる日が来る。