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―――翌日。
朝食後、まだ疲れも残っていたのかお昼過ぎまで
寝ていた私は、冒険者ギルドへギルドカードを
受け取りに行く前に、時間を潰す事にした。
午後にでも、と言ってはいたが、恐らくカードは
善意で作ってもらっている。
ここは確実に出来上がるのを待ってから行くのが
無難だろう。
「そういえば、川がありましたねえ……」
ふとある事を思い立った私は、いくらかの準備のため
町で買い物をしてから門へ行く事にした。
―――はじめてのさかなとり(byいせかい)―――
先日、門番とは顔見知りになったせいか、特に
警戒される事無く会話が進んだ。
「あの時は悪かったな。
そういや、名前も名乗っていなかったっけ。
俺の名前はマイル。こっちはロンだ」
「シンサクです。シンと呼んでください。
それで、町を出て川へ行きたいんですけど」
「? 川へ行きたい?
そりゃーすぐ下が川だけど……
何のために川に行くんだ?」
「ええと、ですね」
話はスムーズにいったが、こちらの説明が下手なのか
目的を理解してもらうのに一苦労する。
「ですので、ただ単に魚が取れるかどうか
試してみたいだけなのですが……
もしかして危険ですか?
魔物が出るとか」
「いや、川で魔物が出たという話はここでは
聞かないな。
魚もいるにはいると思うが……」
ロンはチラチラと、自分の持っている町で購入した
手桶に目をやり、
「ま、何をするか知らんが気をつけてくれ」
マイルはそう言って手を振り、私を
送り出してくれた。
もしかして釣り道具や網を持っていないのを
不審に思ったのだろうか。
でもそれは仕方がない。
購入しようにも、町のどこにも見当たらなかったの
だから……
もしかしたら漁自体があまり盛んではない
場所なのかも知れない。
とにかく、私は適当な場所を求めて川を散策する
事にした。
下に降りた時の川幅はだいたい20メートルほど。
上の石橋が30メートルほどあったから、大きさは
予想していたが……
昨日はジャイアント・ボーアの騒動に巻き込まれた
おかげで、あまり落ち着いて見れなかったが、
結構大きな川だ。
聞くところによると、反対側の門の外にも川が
あるようで―――
つまりここは、川と川に挟まれた町でもある。
堀というか、上手く地形を利用して町の防御レベルを
上げているのだろう。
「ここらでいいかな?」
適度な浅瀬、そしてちらほらと岩や大き目な石が
あるところで―――
川の中に突き出た手ごろな岩を発見。
そして、ギリギリ持てそうな重そうな石も見つけた。
「よ、い、しょっ、と……!」
1時間ほどして―――
門番の2人がいるところまで戻る。
釣果、というか地球での漁法で獲った魚が
手桶の中で、10匹ほど……
こちらの魚はよくわからないが、ウグイかオイカワに
近い姿をしているそれが、水中で円を描く。
いわゆる、原始的な石打漁を試してみたのだ。
やり方はいたってシンプル。
魚が隠れていそうな石や岩に衝撃を与え、水中で
気絶した魚を捕獲する。
あちらでは禁止しているところも多い漁法だが、
ここは異世界……大丈夫だろう、多分。
これをやった理由は2つ。
1つは、地球での漁法が通じるかどうかの確認。
もう1つは、いざという時に食べていく・食べ物を
取る手段を確保しておきたかったからだ。
「おっ、獲れたのかい……ってえぇ!?」
マイルとロンは泳ぐ魚を見て驚く。
魚の存在は知っているはずだが……
それとも、食べる習慣が無いとか?
「ど、どうやって獲ったんだ?
水魔法が使えるのか?」
魚取りの魔法でもあるのだろうか。
魔法のある世界だから、あっても不思議ではないが。
「いえ、魔法は使ってませんよ。
故郷のやり方で獲ったんです。
もしかして、こちらではあんまり
食べないんですか?」
その言葉に、2人は顔を見合わせ―――
「魚はたくさんいると思うが、獲れる人間が
めったにいないからな。
高級食材だよ」
「しかも生け捕りか。
宿屋に持って行けば、高く売れるぜ」
この時、わずかな違和感を覚えたが―――
とにかく目的は達成出来た事、そしてそろそろ
カードが出来上がっていると思われる時間に
なったので、宿屋まで引き上げる事にした。
「あ、じゃあお2人の分は取っておいて
もらいますよ。お土産って事で」
「いいのか!?」
「おーっし、今日の夕飯が楽しみだぜ!」
笑顔の2人を背に、取り敢えず宿屋まで戻って
魚を預ける事にした。
宿屋『クラン』に着いた私は、手桶の魚を見て
目を丸くしている女将さんに2匹の魚の確保を
頼んだ。
後は好きに使っていいから、と付け加えると、
今度は呆れた表情になり、
「あんたねぇ、新鮮な魚は銀貨1枚で
売れるってのに……
まあくれるっていうのならもらっておくけど」
うわ、思ったより高く売れるんだな。
まあ今回はテストみたいなものだし、何より相場が
わかったというのはありがたい。
これなら、もしもの時も食うには困らないだろう。
「誰も魚は獲らないんですか?
そういえば町に、釣り竿も網も売ってなくて」
すると今度は怪訝な顔付きになって、
「ツリザオ? なんだいそれは?
それにただ網なんか使っても、すばしっこい魚が
獲れるものかね」
そういうものなの……か?
どことなく疑問を抱えたまま、私は当初の予定通り
ギルドへ向かった。
「あ、お待ちしておりました。
カードなら出来てますよ」
私がギルドの門をくぐると、すぐに受付の
ミリアさんが声をかけてくれた。
しかし、昨日に比べると喧騒というか、人のざわめきが
少ないような気がするが……
心無しか、他の人たちもこちらを避けている
感じがする。
取り敢えず受付カウンターまで行き、ミリアさんの
前に立った。
「はい。これがギルドカードになります。
今回はジャンドゥ支部長が立て替えたので
無料ですが、もし無くしたりすると再発行手続きで
金貨2枚になりますので、注意してください」
説明されながら受け取ると、ようやくこの世界で
存在が認められたようで、嬉しくなった。
「あ……ええと、これってやっぱりランクとか
あるんでしょうか?」
「そうですね。
上からゴールド・シルバー・ブロンズの順に
ランクが定められています。
シンさんもブロンズスタートですが、
すぐにシルバーになると思いますよ」
アラフォー駆け出し新人に対しては嬉しい
お世辞だが―――
厳しい現実は知っておかねばならない。
「ランクって、どうやって上がるんですか?」
「基本的には依頼達成回数や―――
ギルド長の推薦、他はギルドへの貢献などが
上げられます」
「ギルドへの貢献?」
他2つはわかるが、貢献とはいったい?
「ギルドの利益になる事……
難しい依頼を率先して受けたり、
他のギルドメンバーを助けたり、
もしくは有名になったりする事ですかね。
ギルドそのものの評価を高める事でも良いですが」
なるほど。
依頼が多ければ、誰もやりたがらない仕事も
当然あるだろうし、他のメンバーの危機を
助ける事も立派な貢献だ。
ギルドそのものの評価を高めるというのは、
イメージアップの事だろう。
確かに、取引先あっての仕事はイメージも重要
だからな……
「それにシンさんはすでに、ジャイアント・ボーアの
発見で―――
ギルドに多額の利益をもたらしているとも
認められますし」
ああ、それで先ほどの―――
『すぐにシルバーになると思いますよ』に
つながるのか。
単なるお世辞ではないと知って、何だか口元に
笑みがこぼれた。
「おー、シンさん。
こんちゃーッス」
「あ、レイド君。こんにちは」
2階から降りてくるレイド君に声をかけられ、
挨拶する。
「あの宿屋、結構サービスいいっしょ」
異世界に来てからの初めての宿屋だったので、どこと
比べられる事も無いのだが―――
旅をしてきたという設定で通す以上、何か
話さなければならないだろう。
「そうですね。朝食も美味しかったですし。
―――ところで、今日はヤケに静かと
いいますか……」
話題を変えようと、ふと周囲に目をやる。
先日、ここを訪れた時は、もっと陽気に
酒を飲んでいる冒険者が多かった印象が
あるのだが。
「あー、昨日シンさんからもらった金貨で
パーッと飲んだんですよ。
俺一人で使うにゃ多かったッスから」
「えっ、そうだったんですか」
なるほど。そういえばどの人も生気が無いというか、
くたびれているというか……
金貨3枚なら、ここにいる全員でもそれなりに
飲めただろうし。
臨時収入はすぐにみんなで、派手に使ってしまう
ものなのかな。
さすがは冒険者、連帯意識は強いようだ。
「ところで、あの……
こちらに来る前に、川で魚を獲ったり
したんですが、ギルドで副業って認められて
いますか?」
「え? 魚を?
別に、法に反しない限りであれば、何をしても
問題はありませんけど」
まあ、定額のお給料が出るわけでもなし、その辺りは
結構ユルいのだろう。
そこへ、レイド君が会話に割って入ってきた。
「それにしても―――
シンさんは水魔法が使えるんッスね。
それなら、受注出来る依頼の幅も広がるッスよ」
「え? いえ、魔法は使ってませんよ。
故郷のやり方で獲っただけですから―――」
その途端、少しはざわついていたフロアが、
一気に静かになり無音になった。
「えっと、何かマズい事でも……?」
その問いに、ミリアさんは首を左右に振り、
「い、いえ。
ただ、そんな方法があるのかなって思った
だけでして……
では、今日はどうします?
お金に余裕があるでしょうし、まだ当分依頼を
受けなくても大丈夫とは思いますが」
魚が高級食材と言っていたあたり―――
やはり、あまり漁業が盛んなところでは無いのかも
知れない。
「依頼って、受けなくても大丈夫なんですか?」
「基本的に強制はしません。
ただ、ランク別に分けられているので、受注は
それを見て判断してもらうくらいです」
確かに、まだ経済的に余裕はあるが―――
季節があるかどうかわからないが、もし
冬季とかあれば今度は魚が獲れなくなる
可能性もある。
ここで生きていかなければならないのだ。
それなら、早々に学んでおいた方がいい。
「う~ん、お恥ずかしいですが、こういうのは
初めてでして……
ブロンズだと、どういう依頼がいいんですかねえ」
その質問に、ミリアさんはクルっとレイド君の方を
向いて微笑み、
「レイドさん、お願い出来ますか?」
「じゃ、じゃあ案内するッスよ、シンさん」
一瞬、レイド君の口から『げっ』と驚くような声が
聞こえたような気がしたけど、気のせいだろう。
そのまま彼の後についていくと、一面の壁に何やら
書かれている紙が、たくさん張り付けられている
一角にたどり着いた。
「ブロンズだと、薬草や安い素材を取ってくる
とかッスねえ。
後は町中での雑用とか……」
確かにこうして見ると、低ランクの依頼は冒険者と
いうより何でも屋に近い。
しかも報酬は銀貨3枚から……
自分が獲ってきた魚3匹と同じというのは―――
「こんなに安いんですか?
この依頼じゃ、宿屋にすら泊まれませんよね?」
疑問を先輩であるレイド君にぶつけてみる。
「そりゃ、数をこなしてナンボッスよ。
誰にでも出来るようなもんッスからね」
なるほど、複数こなす事を前提としているのか。
それなら納得出来る。
しかし―――『狩り』は無いのだろうか。
魔物は無理でも、ネズミや鳥といった小動物なら
自分でも可能そうな気がするのだが……
「何か、食材になりそうな鳥を獲ってきて
欲しいとか、そういうのは無いんですか?」
「へっ!?
いや、そんな魔法が使えるのなら、そりゃもっと
上のランクの依頼をやるでしょーよ」
・・・・・・・・・・
また何かが引っかかる。
違和感というか、不自然さというか―――
「取り敢えず、勉強を兼ねて……
この薬草採取からやってみます」
依頼書をはがすと、それを手に取りじっと見つめる。
「依頼の流れを一通り知ってもらうためにも、
それがいいかも知れないッス。
その依頼書をまず受付に持って行って、
ギルドカードと一緒に提出してランクの確認、
受注手続きが終わったら出発ッス。
ま、シンさんにはそんな依頼、身体強化を
かければすぐだと思うッスけど」
「はあ」
そんな事を言われても、自分には魔法が
使えないんだが……
何となくそうは言い出せず、取り敢えず
初めての依頼をやってみる事にした。
―――はじめてのいらい―――
「ふむ、これで最後ですかね」
町の近く、昨日よりは近場の森の中で一息つく。
アウトドアが趣味だったせいか、意外とあっさり
依頼分の薬草は採取出来た。
もちろん、この世界の植物など知識は無いが、
絵図がついていて、特徴のあるものだったので
見つけるのに苦労する事はなく―――
2時間ほどで『依頼』は達成された。
「さて、このまま帰ってもいいんですが―――」
森の中を散策していて気付いたのは、それなりの
生物がいる事だった。
リスやネズミに似た動物、そして小鳥の姿も
行く先々で見える。
ただ、野生動物らしく非常に強い警戒心を
持っており、確かに『狩る』のは難しそうに
思えた。
しかしそれは武器を使う場合だ。
狩猟には二通りある。
一つは直接攻撃、もう一つは―――
「トラップ……やってみましょうか」
本来は薬草を入れるために持ってきた、
簡単な円形の網カゴ―――
を、つっかえ棒で立てて、その棒の先を
即興で作ったツルのロープで結ぶ。
その下には適当なエサを撒いて……
「……おっ?」
隠れて10分もすると、鳩ほどの大きさの鳥が
1羽舞い降りてきた。
ツンツンと仕掛けたエサをついばみ、段々と
カゴの下へ移動していく。
「!」
1羽がエサを食べている事を確認したのか、
続けて2羽が地面に降り立ち、同様にエサを
ついばみ始める。
そして、なるべく3羽がカゴ下まで来るところを
見計らって―――
私は思い切りロープを引っ張った。
「プルルッ!? プルルルルルッ!?」
いきなり倒れたカゴの中で、2羽の鳥が
混乱したかのように暴れ、鳴きまくる。
1羽には逃げられたが、十分な成果だ。
「もしかしたら冒険者をやめても、
猟師で食っていけそうですね」
独り言のように私はつぶやき、鳥の首を
ロープで結ぶと、薬草と一緒に抱えて
町を目指し、歩き始めた。
「……薬草集めに行ったかと思ったら、
今度は鳥って……」
「風魔法も使えるのか。
それとも石弾か? 電撃か?」
門まで到着すると、ロンとマイルの2人組が
呆れたように声をかけてきた。
「いやあ、ハハハ……
これで食べていけますかね?」
2人は軽くため息をつきながら、首を左右に振り、
「いやいや、欲が無さ過ぎだろ」
「それだけの事が出来るのなら、
もっと高い仕事にありつけるぜ」
頭をポリポリとかいて、否定も肯定もせず―――
まずは鳥を預けに宿屋へと向かう事にした。
「また食材かい。
しかも生きたまんまって……
まあ、新鮮でいいんだけどさ」
『クラン』の女将さんは手際よく鳥を受け取ると、
荷物のように鳥を縛って動けなくし、床に転がす。
「どうもすいません。
また、2人分ほど残して頂ければ」
「あんたねえ。
生け捕りにした鳥って、1羽につき銀貨10枚は
するんだよ?
死んでいても銀貨5枚は下らない。
それをポンっと―――」
また高価だな……
しかし、子供でも出来そうな事で、そんなに高価でも
いいんだろうか。
「まあ、食材専門のヤツがいてもいいかも
知れないね。
どんな魔法を使ったか知らないが、
それだけの事が出来るんなら、たいてい
別の仕事に就くからさ」
「…………」
どうしても魔法に結び付けられているような
気もするが……
とにかく、依頼完了の報告のため、ギルドへ
向かおう。
「シンさん、お疲れ様です。
どうでしたか?」
ミリアさんの言葉に薬草の入った袋を差し出すと、
中身を確認しつつ、会話を続ける。
「まあ、心配はしていませんでしたけど……
1、2、3……はい、全部ありますね。
依頼の達成を確認しました。
こちら、依頼料の銀貨3枚になります」
サイフ代わりの小袋に受け取った銀貨を入れる。
ちなみにジャイアント・ボーア発見の報酬は、
宿屋『クラン』に預かってもらっていた。
「でも、意外でした。
もっと早く帰ってくると思っていましたから」
彼女の疑問に、ポリポリと頬を人差し指でかき、
「あー……
ちょっと鳥を捕まえていたんで」
ざわ、と室内の空気が変わる。
何だろうか、もしかしたら、漁業や狩猟という
概念そのものが無い世界なのだろうか。
「そ、それはスゴいですね……
でも鳥ってどちらに?」
「私が泊っている宿屋『クラン』に預かって
もらってまして。
多分、今晩の夕食にでも出るんじゃないかと」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに―――
同じフロアにいた何人かの冒険者が、走るようにして
ギルドを飛び出した。
「あーーー!!
せっかく久しぶりの鳥さんがぁ~……
これじゃあ、アタシが行く前に
無くなっちゃう……!」
鳥がそんなに珍しいのだろうか。
そういえば、川へ行っても森へ行っても、
漁師や猟師らしき人に出会わなかったし。
これくらいの町なら、誰か狩猟で生計を立てていても
良さそうなものなのだが……
目の前で涙目になるミリアさんが気の毒になり、
思わず口から提案が飛び出す。
「えーと……
何羽か追加して捕まえておきましょうか?」
「お願いじまずぅ~……!」
私はギルドから出ると、さっそく大きな袋と
エサとなる穀物を購入し―――
森へ急ぎ駆け足で向かった。
出入りする度に、門番のロンとマイルに呆れられたり
驚かれたりしたのは言うまでもない。
―――夕刻―――
すでに陽が傾き、街灯の無い町中では家々の明かりが
唯一の照明となった頃―――
宿屋『クラン』の食堂は異様な活気を見せていた。
「串焼きは1人3本まで!!
アンタはもう食べただろ!
ホラ! それは3番テーブルへ急いで!
魚ならまだあるよ!
今日はそれでガマンしな!!」
女将さんが陣頭指揮に立ち、食堂の中を
指示を出しながら駆け回る。
実は一度、宿屋へ追加した鳥を持って行った際―――
ギルドで見た冒険者たちが10人ほど集まっていて、
量が足りないと思い、同時に魚も追加して捕まえる
事にしたのだ。
結局、さらに鳥を10羽―――
魚を20匹ほど追加した結果、現状が出来上がった。
料理はよくわからないが、鳥は各部位を
串焼きにされ、魚は切り身で1/4くらいに
カットされたそれが、焼いたりスープに入れられて
提供される。
「いやーまさか鳥と魚を一緒に食える日が
来るなんて……」
「しかもタダ飯だもんな!」
自分と同じテーブルで、門番2人が出された料理に
舌鼓を打つ。
「久しぶりの鳥さんですよぉ~♪
ってコレは魚か。
ま、美味しいからいっか♪」
「ミリアさん、もう出来上がっているッスか?」
さらに、すぐ隣りのテーブルには受付の女性と
レイド君が座り―――
自分の目の前の位置には、ギルド長がいた。
「スマンな。
俺までごちそうになって」
「いえ、その……
そんなに珍しい事なんですか?」
私の問いにロンはククッと軽く笑い、
「ギルド長、いい新人が入りましたね」
「どこから来たのか知らんが、ちょっと
世間知らずなところがあるからなあ……」
異世界に来てまだ2日目なんです。
その辺はカンベンしてください、と声には
出さずに思う。
「でもまあ、すーぐ上に行っちゃうんでしょうね。
そうしたらこんな機会はもう無いですから、
今のうちに食えるだけ食っておきますよ」
マイルが出された料理を頬張りながらしゃべる。
自分としては、こちらの方をメインにしたいん
だけど……と思っていると、ジャンさんが
こちらに向き直り、
「そういえば、ジャイアント・ボーアだが―――
肉は2/3、毛皮は全部王都行きになった」
「へえー。
あれ? ではお肉の1/3は?」
「あんな高級品、この辺では領主様ぐらいしか
食う事は出来んよ。
いくらすると思っているんだ」
確かに、昨日の夕食と今日の朝食は芋のような穀物が
メインだった。
魚や鳥があんなに高いのなら、魔物の肉なんて
めったに庶民の口には入らないのだろう。
「しっかし、期待の新人さんじゃないかい、
ギルド長。年食ってるけどさ。
魚も獲れる、鳥も獲れる―――
いったいどれだけの魔法が使えるんだか」
いえ、だから魔法は使っていない―――
と言おうとした時、ギルド長が肩を組むように
密着する。
「ま、久しぶりのごちそうだ。
ここは俺も奢らせてもらうとするぜ。
女将さん!
ここにいる全員に一杯やってくれ!」
それに呼応するかのように、喧騒が一段と激しく
なり―――
その騒ぎの中、ジャンさんは小声で耳打ちしてきた。
「(何を言おうとしたのか知らんが―――
取り敢えずここではやめとけ。
とにかく明日、ギルドまで来てくれ。
そこで詳しい話を聞きたい)」
「(え、えっと―――
何かマズい事でもしました?)」
とぼけて見るが、もちろんそれで通じるはずもなく。
「(1日でここまで目立っておいて何言ってんだ。
あと勘違いはしないでくれ。
何も敵対しようってわけじゃない。
ただギルド長として、
状況を把握しておきたいだけだ)」
確かに、2日目にして目立ち過ぎた気はする。
ここは大人しく聞いておいた方が無難だろう。
こうして私は、翌日の予定が入った状態で
異世界生活3日目を迎える事になった。