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津田雪也には、彼女がいる。
漫研の同級生で、隣のクラスの子だ。三ヶ月前に告られて、付き合うことになった。
告白されたとき、彼女の真剣な、祈るようなまなざしを見たとき。自分のような人間も、誰かに性欲を向けられる存在なんだ…と、初めて思い、そのことに胸がひりつくような興奮を味わった。それが恋だと思ったわけではなかったが、付き合ってほしい、という言葉に、雪也は頷いた。
自分がいわゆる陰キャであることは理解していたし、別にそれを不満に思っているつもりもなかった。
なのに、なぜ、これで他人を見返したような気持ちになるのか。
「お待たせ、いこうぜ!」
爽やかな笑顔を見せて駆け寄ってきた幼なじみに、彼は、素直な笑顔を返せなかった。
そうだ。こいつだ。
今だって、誰か知らないが、校舎裏に呼び出されて、告白されてきたに違いないこいつ。そうやって、誰かの好意を消費して、ひとつも顧みずに、そのくせそれがいい、なんて言われてモテまくってるこいつ。
柏木裕真。
(柏木さぁ、なんで津田と絡むわけ?全然キャラちがうじゃんか)
呆れたような声が耳に蘇る。
てめえらに分かってたまるか。
(柏木くんの横、いつまで占領してるつもりなの?迷惑だって分からないの?)
迷惑なのはてめえだよ、メスブタ。
裕真にも、その取り巻きにも、イライラさせられるのに、こいつと一緒にいることがやめられない。
二人きりでいるときは、だって、そういうこと全部関係なしに、一緒にラムネ飲みながら夏休みの宿題やってたあのころに戻れてしまうから。
きっと、余計なことを考えてしまうのは、俺だけなんだ…。
屈託なく笑いながらも、なぜか自分から目をそらすような仕草で汗を拭く裕真を、雪也は見上げた。木漏れ日が、その横顔にまだらに降りかかる。まるで雑誌の一ページのようで、雪也さえも、一瞬その光景には目を奪われた。
「今日、ほんとあっちーな…」
裕真は言った。