ある日のこと、部屋に居ると和真が僕にこう言ってきました。
「なあ真優。この家から、出ないか」
「どうして?」
「いや、なんとなくなんだけど……もうさ、真優のお母さんは俺を追い出したりしないだろ?だからさ」
和真がそう言って僕の手を握ってくれたので僕は思わず笑ってしまいました。
だってそんな事あり得ないし、もしそうだとしても出るつもりなんて微塵もなかったのですから。
「いやでも僕たち中学生だよ。そんな遠くの場所、いけないでしょ」
「…どうせ俺が連れてったっていえば納得してくれるだろ。どうせ、あんなお母さん…いや、
あんな女に世話になるのはもうごめんだからな」
「和真……」
僕は彼の手を握り返しました。すると彼は握り返したまま僕の肩を寄せてぎゅっと抱きしめます。
「このまま、いたら本気で俺が殺されそうだからな」
「大丈夫、僕がずっとそばにいるから」
しばらくお互いそのままでいて、ふとした瞬間に僕と和真は顔を見合わせました。
そしてなんだか可笑しくなって吹き出してしまいます。
「それに真優ももう、「僕」なんて使わないで自分自身に正直になって生きようぜ。あんな奴に、従う必要なんてないよ」
「うん…」
「俺は、今だから言える。俺は異性として、真優を愛してる。」
「え?」
「今まで隠してきてごめん。でももう我慢出来ないんだ」
そう言うと、和真は強引に僕を押し倒しました。そのままゆっくりと顔を近づけてくるとそのまま唇を重ねてきます。
僕は抵抗しようとしましたが何故か体に力が入らずただされるがままになってしまいました。
よくよく見てみると、彼は数か月前と比べて十分背は僕を追い越してアルトの声域からテノールへと移り変わろうとしており、そこそこに整った目鼻立ちと薄い涼やかな色素の薄い瞳をしていて充分僕を除いた女の子に愛される素質があるということに今気づきました。弟としてみていたから何とも言えませんでしたが。
「和真、どうして?」
「俺さ、ずっと前から好きだったんだ。でもこんな思いはよくないと思って隠してた。」
「そんな、じゃあ君は……僕の事が好きだったからあんな事を言い出したの……?」
そう尋ねると和真は少し照れくさそうに顔を逸らしながら答えました。
「ああそうだよ!悪かったな!」
「……ううん。別に悪くないよ。むしろ嬉しかったかも」
僕がそう言うと、和真は心底驚いたように目を丸くしていました。僕はそれに微笑んで見せます。
和真は照れ臭そうに頭を掻きながら僕の目を見て言いました。
「俺だけで出ていくのも考えたけど、もし真優に何かあったらと思うと耐えられなくて」
「うん。ありがとう」
「でも俺、多分この家を出ても母さんには一生逆らえない気がするんだ。だから、一緒に連れて行ってくれないか?」
僕はその問いに対して強く頷きました。和真は僕の返事を聞くと嬉しそうに微笑んでくれました。僕も同じ気持ちです。
だって僕たち、血が繋がっていない家族ですから。
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