この作品はいかがでしたか?
50
この作品はいかがでしたか?
50
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
こちらの作品は実在する方の名前をお借りした二次創作となりますのでくれぐれもご本人様の目に入らぬよう、転載・スクショはご遠慮ください。ご本人様とは何の関係もない主の妄想の副産物となりますので、そちらのご理解宜しくお願いします。 また、検索避けの意味を為さなくなりますので、ご本人様のお名前でタグを付けることもおやめください。 作者は関東出身者の為、エセ関西弁となっております。大変お見苦しいですが、少々目を瞑って頂けると有難いです。
※捏造設定てんこもり☆もり☆なので、苦手な人は回れ右☆
【ないこside】
先週、長年の夢だった犬を飼い始めた。もふもふとしたシベリアンハスキーだ。
というのも、2月の終わり、立ち寄った犬猫の保護施設を見ていた時だった。そこは捨てられたペットや野良犬・野良猫を保護している施設らしく、沢山の種類の元ペットや元ノラの子たちがいた。
犬の区画を見ているときだった。子犬がたくさん並べられている中に、一匹だけ少し大きなシベリアンハスキーがいた。俺は一目見て、思わず目を見開いた。その子はどこか諦めたような、虚無感に襲われているような表情をしていたのだ。施設の人曰く、飼い主がこのシベリアンハスキーを最後まで飼う金銭的余裕がなく、もう4歳になるというのにこの保護施設に連れてきたらしい。飼い主に途中で捨てられた悲しみは到底計り知れない。だが俺は、そのシベリアンハスキーの瞳の色に魅せられた。
「……あの、この子、引き取ってもいいですか」
施設の管理人に聞くと、管理人はひどく驚いた顔をした。
「その子ですか?ええ、いいですよ。何せ皆さん子犬とか子猫ばっかり連れて帰るものですから、その子だけどんどん置いてけぼりになっちゃって。いや〜、引き取ってもらえて嬉しいでしょうな」
「名前……ないんですか」
「ないみたいなんですよ。飼い主さんからの手紙にも名前すら書いてありゃしない……自由につけてやってください」
「そう、ですか……」
曖昧な返事をしてハスキーを見た。灰色と淡い藍色が混じって美しい色合いを出している毛並み、若く凛々しい佇まい、そして何より、そのブルーサファイアの眼。その色は、どことなく想い人を思い出させる色をしていた。
――高身長・高学歴・高収入ときてその顔立ちの良さ、普段の生活からも垣間見えるひたむきさ、加えて人のことをよく見ているところ。どこをとってもハイスペックなまろが、俺に、それも男に釣り合うわけがない。まろにはきっともっと優秀で綺麗な彼女が似合う。寧ろそうじゃないとおかしい。諦めなきゃいけないってわかっている。でもズルズル諦められずにここまできてしまった。諦めたいのに諦められないこのもどかしさを、俺はどうすればいいかわからなかった。まろが幸せならそれでいい。そう思えたらどんなによかっただろうか。まろには幸せになってほしい。それは本当だ。でも、その隣に立つのが自分でいいわけがない。まろの人生を俺が壊してはいけないのに。
引き取りの手続きをして、早速ハスキーを連れて帰る。
「……お前、名前ないんだよね。なんて名前がいいかなぁ……」
顔を見ながら考えていると、ハスキーはコチラをじっと見つめてくる。今まで受けられなかった愛を受けて欲しいと願って、一つの名前を告げた。
「ラヴィ!ラヴィだ!」
家の前で大声を出してしまい、近所の人がチラチラとこちらを見る。慌てて頭を下げて、家の中に入った。
「ラヴィ……?」
試しに呼んでみる。ハスキーがこちらをチラリと向いた。
「えらこじゃん!君は今日からラヴィだよ!」
優しく耳裏を撫でると、ラヴィは目を細めて気持ちよさそうに表情をする。
「ラヴィ、これからよろしくね」
そういうと、新たに家族に加わった1匹の犬の「わんっ!」という吠え声を返された。楽しくなりそうだ。
《2週間後》
やばい。ラヴィ可愛すぎる。こんなことある?健気で優しくてあったかい。
俺が困ってたら近くに寄ってきてスリスリしてくれるし、寒かったり眠たかったりしたらお腹の辺りで丸まって湯たんぽになってくれる。まだ出会って1週間なのに俺のことをよく見ている。感情の機微に聡いのだ。
しかもなんといっても、散歩の時が1番生き生きしている。いや、散歩の後の食事タイムか?
「散歩行くよー」って言ったらガバッと起き上がって、自分でハーネス取ってくるし。早く行きたくて仕方ないのか玄関のとこで待ってるし。散歩が終わると、ラヴィはおやつの時間かご飯の時間だ。ごはんのときならドッグフード、おやつの時間なら市販のちょっと甘いやつをあげる。ラヴィは甘いものが結構好きみたいだ。俺がしゅーくりとかマカロンとか食べてるとすぐに近づいてきて「くれ!」というようにしっぽをぶいんぶいん動かす。健康に悪いからあげられないんだけどね。ラヴィは今まで不規則だった俺の生活も規則正しくしてくれた。散歩の時間とかご飯の時間をラヴィと揃えていたら、勝手に規則正しくなってしまうのだ。こんなに可愛らしいわんこがいるなら、もっと早くから保護施設に行けば良かった。それくらいにラヴィは可愛くて賢くて、たった1週間でそう感じさせる魅力がある。家の中ではラヴィを自由にさせたいからケージには入れていなかったが、ラヴィは入っていい部屋と入ってはいけない部屋をなんとなく理解しているようで、普段作業部屋にはなかなか入ってこない。でも呼ぶとすぐ来る。本当に賢い子だ。このことをないふぁみの子やいれりす、そして何よりメンバーに自慢したすぎて、配信でも一回は話題に上る。自分の子供が運動会で一等賞を取ったような、そんな感じ。周りに言いたくて仕方ないのだ。
ラヴィのかわいらしさは日に日に増していく。と同時に、何故か俺のまろへの思いも強くなっていた。俺はただラヴィのことを見ていたいだけなのに、ラヴィを見るとどうしてもまろを思い出してしまう。蒼い眼が、仕草が、まろと重なる。そうすると、最近は咳が出るような出ないような変な感覚に襲われるのだ。喉元を掻きむしりたいような、そんな感じ。
あるとき、俺はいつも通りラヴィを散歩に連れて行った。帰ってきてご飯を食べるラヴィを見ていたら、またあの感覚に襲われた。初めてその感覚から咳が出たが、それ以上に俺の身体では異変が起きていたらしい。
咳と同時に、俺の口から青い小さな花びらが散った。
何が起きたかわからなくて、一瞬呆然としていたが、ラヴィが近づいて来たのを見て、本能的に止める。
「ラヴィ……こっちきちゃダメだ」
クゥンと心配そうに鳴くラヴィを静止して、俺はまた咳を繰り返した。やっぱり、俺の口からは青い花びらがひらひらと出てくる。
――花吐き病。片想いを拗らせた人が罹る病。席をしたときに口から花やその花の花弁が出てきてしまう。発症から1年以内に相手と結ばれないと、そのまま命を失う、そういう病だ。発症する条件はまだわかっていないが、罹患者の吐いた花を他者が素手で触ることによって、他者にも感染する。
……フェイクだと思ってけど、ホントにあるんだ。そんな他人事のような思いが出てくるだけ。
立ち上がりビニールを取ってきて、花びらを片付ける。いれいすの活動のこととか、ラヴィのこととか、ぼーっとする頭で考えた。俺はきっとこれからもまろには告白しない。そうすれば俺の病状は進行して、多分1年後には死んでいるだろう。勿論いれいすの活動は死んだらできないし、いつまたこの発作が起こるかわからない。正直、まろの前で吐くことだって考えられる。まろにこのことが伝わればまろは優しいから「一緒にいよう」って言ってくれる、きっと。でもそれはまろの幸せじゃなくて、俺がまろをそうしているだけ。まろの優しさを利用して俺のそばにいさせてるだけになってしまう。だから俺はこの想いを諦めて、1人で死ぬ。すこし無責任だな、と独りごちた。死んだらラヴィはあにきに育ててもらおうかな。ラヴィのことを思うと胸が痛むが、そうするしかないのだ。
「……ごめんな、ラヴィ」
心配してくれているであろうラヴィの頭を撫で、ベットに座り込んだ。
3月に入ったばかりだった。