前書き
初めまして、Laplaceと申します。
今回はTwitterで垂れ流した妄想を僭越ながらSSにさせていただきました。構成ぐちゃぐちゃですけど、妄想なので大目に見てください。タイミングがあればしっかりとしたものに直します…!
それでは、どうぞ!
「ね、たきな!回転寿司…って行ったことある?」
事の発端は私、井上たきなの相棒である錦木千束の一言だった。
喫茶リコリコの閉店作業中、店先の掃除をしている時。隣で退屈そうに空を見上げていた千束が急に此方を向いて質問を投げかけてきた。
回転寿司…と聞くと世間一般で提供される寿司、それに回転をつけ足したもの。残念ながら、理解が及ばない。
寿司自体は見たことがあるし、食べたこともある。ある人の奢りで…だが。いや、あれは寿司というより海鮮丼だろうか…。いや、今そんなことは関係ない。目の前の問題に対して回答を告げるべきだ。
「いえ、行った事はありませんね。そもそも寿司に回転って何なんです?」
「ほぉ~、行った事が無いとな?ふむふむ…なるほど…」
そういうと千束は腕を組んで うんうん 唸り始めた。恐らく何か考えているんだろう。左右にゆらゆら揺れながら唸る謎めいた生物が目の前にはいた。正直なところ、千束が話題に出してくるものはそのどれもが私の知らないものばかり。一般的な娯楽の知識に疎い私からしたら、すべてが新鮮で、発見の連続だった。というか、なぜ寿司に回転とは何か?の疑問が華麗に流されているのだろうか。…考えるだけ野暮か。
「よぉし!たきな、今週末の土曜日、予定空けといて!」
「土曜…ですか?その日なら特に予定もありませんし、問題無いかと」
「決まり!…あ、前出掛けた時と同じ、制服は無しだからな!私服だぞ!」
「え、私服ですか?特に任務とかではなく…?」
「折角の休日なんだから、ぱーっとはしゃごうぜい!」
…いつもこの人の考える事は分からない。予定を聞いてきたと思えば即決で行動するし、先回りされて「この日に予約しといたから!」なんてこともあった。
今更そんな事を思っても、この人と長くいたことで感化された私の心は「いつものことか…」なんて軽く流してしまった。実際もう慣れたものである。千束の出鱈目な動きに着いて行くように、考え方も千束寄りになってしまったのかもしれない。
「はぁ…。分かりました。私服で、何処に集合する…とか決まってるんですか?」
「んえ?何も決めてない!後でメッセージ送っとくから、それ確認しといて~!」
…突飛な行動をするが故に、こんな無計画さもざらにある。少しは直してほしいものだ。
「…」
「あぁん、そんな目で見なくてもぉ~…」
「集合場所すら決まっていないことに少し驚いただけです。別に嫌ってこの視線を向けてるわけではありません」
「げふん!それはそれとして、集合場所と時間はあとでメッセージ送るから、それを確認するように!OK?」
「さっきも聞きましたよ、ソレ」
「黙らっしゃい!確認する為にもう一回言ったの!」
「はいはい、分かってますよ」
「本当に分かってるのか貴様ぁ!」
………なんて言い合いをしながら店先の掃除を継続。まるで威嚇でもしているんじゃないか…なんて勘違いするような唸り声をあげる相棒を先程されたようにスルーして店内へ。大まかな閉店作業は終わっており、あとは着替えて帰るだけ。
後ろを着いてきた千束が「無視するなぁ~!」なんて言っているが、今はとりあえず退店を優先しよう。会話なら更衣室でも出来る。
「千束、会話なら着替えながらでも出来ますし、早く着替えて帰りましょう」
「たきなのいけずぅ~…」
「いけずじゃありません」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…………なんてのが、先日の話。そして迎えた土曜日―――。
あの後、メッセージはしっかり届いた。予定日の前日だったが「リコリコ前に10時集合!よろよろ~」なんて、実に千束らしいものだった。的確に重要な箇所だけを伝えてくる。もしかしたらただ単に長いメッセージのやり取りが面倒くさいだけなのかもしれないが…。
さて、現在時刻は午前10時10分――。
私の相棒は絶賛寝坊中…なのだろうか。10分の遅刻までなら多少の共用範囲内だが、20分が過ぎてしまうと流石の私も心配になってくる。寝坊…体調不良、襲撃…色々と嫌な考えが重なって、すかさず携帯を手に取り「チサト」と表示されている箇所をタップ。
相棒間の決まり事として、電話に3コール以内で出ること を約束としていて、理由は簡単。何時かの日、千束が真島に襲われ、一定時間音信不通の状態があったからだ。あの時は本当に驚いた。クルミが位置を特定し、リコリコの残りメンバーで駆け付けたところ、真島から一方的なまでに殴られる千束を見てしまったのだ。相棒として捨て置けないだろう。
そんなことがあったから、3コール以内の応答を心がける様に。と決まり事をつけたのだ。ちなみに3コール以外で応答がなければ次の3コール、のちにワン切りで千束の家に行くようにしている。
呼び出し音3回――、応答なし。もう一度。呼び出し音3回――。…やはり応答なし。
最後の1回――。”ザッ…”という音と共に画面に表示される『通話中』の文字。どうやら最後のタイミングで電話に出たようだ。これで一応の身の安全は確認できた。次にすることは…
「おはようございます、千束。もう予定の時刻を10分過ぎていますけど、なにかありましたか?」
『……へ?』
何とも間抜けな声が電話口の向こうから聞こえてきた。あの声から察するに寝起きだろう。3コール×2、計6コールで目が覚めたのかもしれない。間抜けな声から数秒、”ゴソゴソ…”と布の擦れ合う音が聞こえ、さらにその数秒後。
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』
鼓膜を破られるんじゃないか、と思えるような叫び声が聞こえてきた。よく朝一番にそんな大声を出せるなぁ…なんて感心していると今度は”ドタバタ”と、騒がしい音が聞こえてきた。
「…千束、言わなくても大体何が起きたか察したので、早めに準備をお願いします」
『ごめん!ごめん!!ほんっっっっっっとにごめん!!』
『すぐ準備するからあと少しだけ待ってて!』
「はいはい、分かりました。予定通り、リコリコの前にいるので」
「それでは」と言い残し、電話を切る。恐らく千束は前日、気になった映画を夜通し観続けて途中で寝落ちしたんだろう。これくらい察しが付くほど付き合いは長い。そこも実に千束らしいと言えるが…。しかし何にしても、約束の前日にそんな事をするのはやめてほしいものではあるけれど、多分千束にそれを言っても通じないだろう。
なにせ、やりたい事最優先。が彼女の心情であり、貫くべきものでもあるからだ。
「まったく···いつも振り回してばかり、なんですから」
そんな所もあるが、不思議と嫌な気持ちは感じない。何というか、振り回される事に若干の心地良さを感じてしまっているのかもしれない。
なぜそんな思考になってしまったのか、今は理解出来ない。だけどいつか、千束と過ごしていつの日か 分かる時が来るんだろうか。この気持ちの正体が。
なんて考えていれば 遠くの方から足音が聞こえてくる。ちら、 と目を向ければ 日に照らされ、最早白いのではないかと錯覚するような綺麗な白金色の髪。そこにワンポイント、赤いリボンで左側頭部の髪を少し結っている。そしてルビーの様な輝きの紅い瞳。
遅刻常習犯である相棒、錦木千束がそこにいた。そこにいた、というよりは全速力でこちらに向かって走ってきている。準備を終えるのに差程時間は掛からなかったようだ。千束は気付いてからの行動が早いので、こういう所は助かっている。
「集合予定時刻より10分の遅刻、ですね」
「いやぁ、ほんっとにゴメン!昨日滅茶苦茶面白い映画見つけてさ、シリーズ一気見しちゃってぇ…」
「だと思いました。別に遅れる事に関しては いつも通りなので怒ることはありませんが、大事な約束の前日には しっかりと早めの休息をとってください。翌日のコンディションにも影響しますし、何より脳のパフォーマンスが…」
「あぁ〜!分かった分かった!つまり早く寝なさい!ってことね?」
「…ま、まぁ、掻い摘んで話せばそういうことにはなりますけど…」
「おーけーおーけー!しっっかり理解した!今度から気を付ける!」
「………本当ですか?」
「ほんとほんと!そんなことよりほら、たきな!早く行こ?」
……本当に自由な人だ。遅れて来たかと思えば、早く行こう…なんて。我儘も良い所……だが、そうか。この人はこういう人だった。恐らく早く寝る ということに関してはしっかり気を付けるはずだろうが、その話はまた後で。いまはお出掛けを優先したんだろう。
やりたい事最優先、本当に厄介なモットーだ。
「はぁ……分かりました。早く目的地へ向かいましょう。それで、場所は?」
「目的地はねぇ〜……、ここ!」
千束がスマホの画面に写したのは とある飲食店の情報だった。画面には大きく “回転寿司“ と書かれ、その店の在り方を主張している。
お寿司全品100+税 なんて表記もあり、値段設定は庶民的。経済的にも優しい価格だ。ネタの数も豊富で、フェアやキャンペーンも定期的に行われているらしい。寿司以外にも麺類や天ぷら、お味噌汁、揚げ物、デザート、ドリンクなどの 高めの寿司屋では出てこない、ファミレス等で提供している料理も多々存在している。
「これが、回転寿司…ですか。やはり回転の要素はどこにも…」
「のんのん、たきなさん。回転の要素は行ってからのお楽しみ!もう暫くお待ちくださぁい!」
なんて言葉を発すると、ぐいぐい と私の手を引っ張って連れて行こうとする。回転寿司について詳細を聞いていないのに、とりあえず見れば分かると言わんばかりの力の強さ。
仕方なくそれに従い、半ば引き摺られるように街の方へ向かうことにする。
さて、回転寿司とやらは一体どんなものなのか。私を驚かせる要素は幾らあるものだろうか。未だ全容の掴めぬ「回転寿司」の正体。
…道中は特に語ることなく、千束と何ら変わらない世間話をして、当該の回転寿司店まで移動する事になった訳だが……。
「千束、千束っ!」
「はいは~い?」
「見てください!お寿司が…お寿司が回ってますよ!」
「んふふ、そうだねぇ。お寿司回ってるね~?」
「これはどういう意味があるんですか…?お寿司を回転させることに意味を見出せませんが、一体…」
「まぁまぁ、そんな細かいことは良いからさ。ほら、せっかく来たんだし食べよ?今日は私が遅刻しちゃったから、奢りだぁ!たんとお食べ!」
ものの見事に私は「回転寿司」というものに惹かれていた。まぁ未だ回転寿司の「回転」という部分の真意は掴めていないが、今は千束の言う通り、良しとしよう。店舗の経営形態、低価格な理由、業績…そんな事は一旦省いておいて、この回転寿司を楽しもうじゃないか。
―――「あ、たきなストップ!食べた後のお皿は戻しちゃだめだよ!?」
あとがき
というわけで、ちさたき回転寿司妄想でした。
井ノ上…、食べ終えた皿はレーンに戻しちゃだめだし、お湯出るところで手を洗うのもいけないからな…。
それでは、またどこかでお会いしましょう。次は短めにしよ……
コメント
3件
すごっい前の投稿みたいなのですが、 コメント失礼します! おすすめにでてきて、りこりこ好きなので読ませて頂きました!文章が細かくて、2人が会話してる様子とかが、想像できて、とっても面白かったです!
文章力が凄い……めっちゃ最高でしたッ!!!