テラーノベル
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夕暮れの空に、火のような朱が滲んでいた。高層ビルの間から差し込むその光は、まるで血のように赤く、街の片隅に潜む異常を照らし出していた。
そこは、人通りの途絶えた商店街の裏手。使われなくなった倉庫が立ち並ぶ区域で、普通の人間なら決して足を踏み入れないような空気が漂っていた。
その中央に、少女は立っていた。
エデンワイス 肩までの白銀の髪と、蒼く澄んだ瞳を持つ異能者。
彼女は制服姿のまま、手に持った小型の探知機を見つめていた。針が震え、電子音が断続的に鳴り響く。
「……このあたりにも潜んでるのか…」
小さく呟くと、エデンは軽く首を回した。どこか退屈そうな表情。けれどその瞳には、戦う覚悟が確かに宿っていた。
その瞬間、右側の壁が爆発した。
「!」
反射的に飛び退く。爆煙と瓦礫の中から、異形の魔物が姿を現した。四足歩行の巨体、鋭利な顎、そして背中から生えた触手のようなもの。まるで人間の悪意が形を持ったかのような、混沌とした存在だった。
「うわ、やっぱりいた」
エデンはゆっくりと右手を掲げた。空気が震える。まるで世界が、彼女の手に反応しているかのように。
その瞬間、彼女の体を中心に金色の光が広がった。
それは「神の力」。すべての異能を扱う、唯一無二の存在。
だがまだ、完全には目覚めていない。エデン自身も、自分の力の全容を知らない。
「風刃。これで様子見ってとこかな」
彼女が唱えると、風がうねり、鋭利な刃となって魔物へと突き刺さる。数本の触手が斬り落とされ、魔物が苦悶の咆哮を上げた。
しかし、すぐに反撃。鋭い爪が地面を砕きながら迫る。
「うわ、しぶとい!」
エデンは後方に跳躍しつつ、次の術式を思考するその瞬間。
空から、火の柱が落ちた。
「……!?」
眩い閃光と爆発音が一帯を包む。魔物の巨体が火に包まれ、断末魔を上げながら崩れ落ちた。
エデンが思わず目を細めて見ると、煙の中から現れたのはひとりの少年だった。
真紅のロングコート、片目を前髪で隠し、鋭く冷たい眼差し。彼の周囲には、炎の残滓が浮かび上がっていた。
「退け。ここは防衛隊の管轄だ」
低い、よく通る声だった。
エデンは思わず眉をひそめる。
「防衛隊……? あなたが?」
「フィア・クリムゾン。対異能部隊所属。お前は?」
「……エデン。まあ、正規の隊員じゃないけど」
「なら、無許可での戦闘行為。拘束対象だな」
「ちょっと待ってよ。私はただ魔物を退治してあげただけだよ」
「その力、異常だ。お前、何者だ?」
フィアの右手が再び炎を灯す。その眼差しに容赦はなかった。
エデンはため息をついた。
「えぇ…せっかく魔物を見つけて退治してあげようとしたのに」
彼女は制服の裾を払って、静かに構えを取る。
「私に勝てると思ってる?」
風が吹く。次の瞬間、二人の間に雷のような衝撃が走った。
炎と風、力と力のぶつかり合い。
それは、世界の命運を変える出会いだった。
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