テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夕暮れの街崩れたビルの残骸が煙を上げる中、その中心で二人の異能者が対峙していた。
一人は、世界に未登録の異能者として存在する少女・エデンワイス
一人は防衛隊・特異異能部隊に所属する炎の能力者・フィア・クリムゾン
瓦礫の上で、熱気と風が交差した。
「……あんた、攻撃的すぎでしょ。こっちはただ魔物退治してただけなんだけど」
軽口を叩きながらも、エデンの表情は引き締まっていた。目の前の男フィアから放たれる気配は、明らかに本物だ。
「防衛隊は、市街地での無許可異能行使を取り締まる。それが俺の仕事だ」
「ふーん。じゃあ、わたしが悪者ってこと?」
「未登録異能者が市民に被害を出す可能性十分な理由だろう?」
フィアの言葉に、エデンはふっと肩をすくめた。
「じゃあ、こっちも防衛しないとね。自分の身を」
その瞬間、足元の空気が歪み、風が渦を巻く。フィアは即座に構え、右手に炎を灯した。
「やる気か」
「誤解されて、捕まって、研究所送りとかゴメンだから」
互いの眼差しが交差する。次の瞬間、エデンが駆けた。
風を纏い、空間を斬るような疾走。フィアは片足を軸に旋回し、炎を掌から放つ。
「紅蓮衝波!」
赤い炎の波が地面を這うようにエデンへ向かうが、彼女は一瞬で横へ跳躍。風の壁を生成して弾き返す。
「風と……衝撃波か? いや、違う……」
フィアが眉をひそめる。
この少女の能力は、単なる風属性ではない。瞬間的に重力を操作したかのような動き。そして放たれた刃は、空気そのものを刃と化していた。
「未分類異能……か」
「未分類? そっちこそ、わたしを分類なんかしようとしないでよ。めんどくさいなぁ」
そう言いながら、エデンの背後に風が集まり始める。
空気が震え、音が消える。まるで何かが彼女の中で無限のエネルギーが蠢いていた。
(また来る……この感じ……)
胸の奥、みぞおちのあたり。
そこから広がる熱とも光とも違う異物感。
でも、それが何かをエデン自身も知らなかった。
(何度か感じた……けど、名前も正体もわからない)
ただ一つ確かなのは、「今…これ以上使えば、自分が壊れる気がする…」その本能的な恐れだけ。
しかし、エデンの足は止まらなかった。
「行くよ、たたきつぶしてあげる!……重空破!」
空気が弾け、重力をねじったような圧がフィアを襲う。
「っ、させるか!」
フィアの手が炎をまとい、渦を巻いて炸裂する。
「炎槍・逆鱗!」
衝撃がぶつかり合い、瓦礫の街に爆音が鳴り響いた。
煙の中から飛び出すように、エデンが息を荒げて出てくる。
彼女の左腕には火傷のような痕が浮かび、視界が少し揺れていた。
「技名だけは一丁前にかっこいいね…」
「普通じゃない。どこの訓練機関にもいない。まして登録記録もなし」
「……何?」
「お前のその力、どこで手に入れた」
その問いに、エデンはふっと笑った。
「目が覚めたら、もう持ってたんだよね。気づいたらいろんな力が、自然に使えるようになってた」
「嘘だ。そんなことが……」
「わたしにも、よくわかんないの。ねえ……もし、誰かがこんな力を持ってたら怖い?」
ふいに向けられた問いに、フィアの表情が動く。
「……危険だとは思う。だが、それだけだ」
「そっか。なら、わたしはまだ……大丈夫かな」
次の瞬間だった。
エデンの身体が震え、金色の光が一瞬だけ身体を包んだ。
「やべっ…」
その刹那、風が暴走し、空気がねじれる。
視界の端が歪み、彼女の背中から、影のような“腕”が伸びかける。
皮膚がわずかに透け、神聖にも似た模様が浮かんだ。
だがそれを知る者は、この世界にただ一人。
エデン自身でさえ、それが何であるのか、まだ知らない。
フィアが動いた。
「止まれ!」
炎を凝縮した手刀がエデンの首筋へ打ち込まれた。
光が弾け、そして――エデンの意識は暗転した。
倒れ込んだ少女を、フィアはそっと受け止める。
「……危険、か。それだけじゃないな」
ビルの屋上。
風に黒い外套を揺らす男が、眼下の戦場を見下ろしていた。
「未分類。属性混合……いや、それだけではない。……これは、何だ?」
隣に立つ異形の参謀が、機械式のスコープを畳む。
「分類不能。記録照合不能。だが、異能因子は検出済み」
「今はまだ動くな。奴は未完成。あの状態に自分で耐えられていない…いや…今はまだ耐えられる器ではないか…監視を続けろ」
「承知した。監視を継続する」
二人は夜の帳に紛れるように姿を消した。
夜
防衛隊第7分署・仮眠室。
エデンはベッドの上で静かに目を覚ました。
「……んー?……」
「気がついたか」
椅子に座っていたフィアが、立ち上がる。
「ここは防衛隊の医療室。お前は重度の異能過負荷状態だった」
「また……やっちゃったか」
「お前の異能……あれは一体何だ。風だけでも炎だけでもない。あれは、何種類ある?」
「さあ? 自分でもわかんない。思った通りに力が出るだけ。使えるって気づいた時には、もう遅かったって感じ」
「それを使いこなす気はあるのか」
問いかけるフィアの目は、もはや敵意ではなく試すような、探るような色を帯びていた。
「あるよ。……でも、それには助けが要る。暴走して誰かを傷つけるくらいなら、止めてくれる人がいてほしい」
エデンは、ゆっくりと立ち上がる。
「だから探してるんだ。止めてくれる仲間を」
「……理由としては、悪くないな」
フィアは腕を組み、ため息をついた。
「登録はしないのか」
「うーん、防衛隊って、堅苦しそうだしなぁ……」
「だが、勝手に暴れられると困る」
「なら、半分だけ味方になってくれる?」
「勝手な理屈だが……嫌いじゃない」
フィアは立ち上がり、扉に手をかける。
「フィアって呼んでいい?」
「馴れ馴れしくないか?そんであんたは?」
「エデンワイス。よろしく、フィ〜ア」
二人の誤解から始まった出会いは、いつしか小さな絆に変わっていた。
まだ名も知らぬ力を抱えたまま、少女はこれから数多の戦いへと歩き出す。