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慣れ親しんだ初めての音

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慣れ親しんだ初めての音

1 - 慣れ親しんだ初めての音

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2024年05月19日

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あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。

スクショ、無断転載、晒し行為等はおやめください。



カチン、カチン。コツン、コツン。コツ、コツ。

金属と金属が触れ合う音。陶器と金属が触れ合う音。木と金属が触れ合う音。

聞き馴染みのあるその音を普段は気にも止めないが、今日ばかりはどうも意識してしまっていた。グラスを手に取ったときにカチン。テーブルに手を置いたときにコツン。こんなにも気になるのは初めて身につけたときくらいじゃないだろうか。もう今となっちゃあ耳に入ってくることもないのに。気にしたことのなかった日常の音が、こんなにも特別で愛おしいものになるなんて少し前の俺は想像もできなかっただろうな。普段はあまり付ける事はないけれど、気の向く時はすぐ側に付けていたものだ。それなのに俺が持ってるどれよりもシンプルなたった一つのそれが気になって仕方がなくて、音が鳴るたびに視線が吸い寄せられる。頬が緩んでいるのが自分でも分かった。だって嬉しいんだ。

こんな幸せの象徴みたいな。

法で繋がれたわけじゃない。誰に認められたわけでもない。それでも、左手に嵌った10グラムも満たない小さな輪っかがアイツとの繋がりを証明してくれる。

俺はゴールドでアイツはシルバー。お揃いにしようと考えていたけどずっと着けるなら似合うものにしたかったから。内側に埋め込まれたアメジストとイエローダイヤはお揃いで仲良く並んでる。初めはイメージカラーとか、内側に宝石とかダサくない?なんて2人で言ったりもしたけど、アイツが「宝石なのに隠れてるなんて俺たちみたいやな」と呟いたのが決め手だった。どうせ誰にも見せないんだ。ダサくても恥ずかしくても構いやしない。認められなくたってずっと隣で寄り添っていたい。

「ニキ?どうしたん、えらいご機嫌やな」

ひとりで笑っているのがバレたのだろうか。いつの間にかボビーが側にやってきていた。俺の顔を覗き込むためにテーブルに左手を置いて、コツンとまた音がした。

愛の象徴のような場所から生まれた幸せの音だ。

「んふっ」

「なんや?」

別になんでも。なんだか恥ずかしくてそっけなく答えれば「そうか?」なんて不思議そうな顔をしながらソファーに戻り、またテレビを見始めた。

いつかこの音も、慣れて気にならなくなるのだろう。でもそれまでは、どうか少しでも長くこの音を、幸せを、噛み締めたい。

「ボビー」

どんなにテレビに夢中でも、真剣に作業をしていてもお前は俺の言葉を聞き逃さない。そして否定しない。

「ん?」

すぐさま振り返ったボビーにやっぱりね、と心の中で笑う。

「しあわせだね」

「?、そうやな。…え、なに?怖いんやけど」

なんにも理解できてない癖に、すぐに受け入れて言葉を返してくれる。僕はアイツのそんなところが好きなんだろうな。

彼がマグカップを手に取り、コーヒーを飲んだ。

カチン

幸せの音がした。

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