テラーノベル
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「3、2、1――オープン!」
ノエルが嬉しそうにカウントダウンしながら、スマホを宝箱へ向ける。
その声に合わせて、俺は蓋へ手をかけた。
ギィ、と重い音を立てて宝箱が開く。
中を覗き込んで、思わず息を呑んだ。
まず目に入ったのは、メロンサイズの魔石。
ごろり、と一つ入っているだけで存在感がすごい。
その隣には、金貨の袋が三つ。
袋の口から覗く金色の輝きには見覚えがある。
たぶん、前に回収したのと同じセントダリス金貨だろう。
そして最後に――
「お」
宝箱の奥に、鈍い銀色の武器が横たわっていた。
柄は片手で扱える長さ。
先端の頭部は、何枚もの金属片を放射状に組み合わせたような形をしている。
横から見ると、菱形にも四角にも見える。
角張った出っ張りがいくつも並んでいて、叩きつけた力を一点に食い込ませるための形だと分かる。
飾り気は少ない。
無骨で、重くて、いかにも“硬いものを砕くための武器”って感じがした。
「これは……メイスか」
俺はそれを持ち上げて、軽く重さを確かめた。
ずしり、と手にくる。
「メイスか。敵が石像とか、鎧が固い相手なら、“剣”より有効な場合があるかもしれないな」
ガーゴイルは剣で何とかなった。
でも、隠しボスが同じ系統の硬い敵だった場合、ダメージを通すのに苦労するかもしれない。
そう考えると、これはかなり悪くない。
俺はその場で、メイスだけ簡易鑑定することにした。
スマホを取り出して、武器を撮影する。
――ピコン。
表示が出た。
【分類:殴打武器】
【等級:希少級】
【銘:《破甲のメイス》(はこうのメイス)】
【予想価格:25,000,000円】
【攻撃+50】
【防御無効20%】
「希少級か」
要するに、レアアイテムだ。
「いいな、これ」
さすがに《キングはぐれミスリルドラゴンの剣》と比べると、“神話級”みたいなぶっ飛び感は薄い。
でも、十分すぎる性能だ。
敵によっては、普通に出番がある。
コメント欄もすぐに沸いた。
『レア武器きたあああ』
『メイス珍しいな』
『防御無効20%つっよ』
『2500万!?』
『普通に当たりだろこれ』
『シンゴのサブ武器増えたな』
『破甲のメイス、名前もかっこいい』
「よし」
俺は《破甲のメイス》を、リュックに縦向きで差し込んだ。
すぐ取り出せる位置だ。
そのときだった。
フィーネが、おずおずと口を開く。
「……あの……もしよかったら……この床に仕込まれている爆発鉱石を、持って帰りたいのですが……」
「危なくないのか?」
フィーネは少し安心したように頷く。
「……鉱石だけの状態では、何をしても爆発しません……安全です……」
「そうなのか?」
「……はい……ある魔法信号を受けると、爆発する仕組みです……」
なるほど。
単体で危ないわけじゃないのか。
フィーネはそのまま続けた。
「……これがあれば、新しい攻撃の武器が作れます……」
「……少しで大丈夫ですので……持って帰りたいのですが……」
珍しいな、と思った。
フィーネが、ここまで自分の意思で何かを欲しいと言うのは。
よほど必要なんだろう。
それに、“自分にできること”を増やそうとしているのも分かる。
「叩いても爆発しないんだな?」
「……はい……爆発しません……すいません……おねがいします……」
「『すいません』はいらないよ。パーティの役に立つものだし」
フィーネが小さく目を丸くした。
「……はい……」
「じゃあ早速、砕いていくか」
俺は手に入れたばかりの《破甲のメイス》を握り直した。
宝箱があった場所の下には、赤い宝石みたいな結晶が埋まっている。
おそらく、その周りの床の下にも同じように広がっているのだろう。
見れば狙う場所はすぐに分かった。
「いくぞ」
振りかぶって――叩き込む。
ゴイィィン!!
甲高い音が部屋に響いた。
赤い結晶が埋まった床がひび割れる。
「おお」
もう一発。
さらにもう一発。
ゴイン! ゴイン!
メイスの重さと、防御無効の効果が乗っているのか、思った以上によく割れる。
石の中に埋まっていた赤い結晶が、砕けて飛び散った。
俺はそれを拾って、予備で持ってきていたボストンバッグへ入れていく。
叩いては入れる。
砕いては入れる。
フィーネは割れた破片を見て、目をきらきらさせていた。
「……すごいです……きれいに取れています……」
「そりゃよかった」
ノエルは撮影しながら笑う。
「新武器の試し打ちとしては、かなり豪快ね」
「だいぶいい音してるよな」
コメント欄も妙な盛り上がりを見せていた。
『採掘始まったw』
『急に鉱夫配信になるな』
『メイス実験台が床なの草』
『ゴイィィン気持ちよすぎる』
『シンゴ採掘適性あるだろ』
『フィーネちゃん嬉しそうでかわいい』
『これ全部持って帰る気か?』
……まあ、そのつもりだ。
しばらく繰り返していると、フィーネが申し訳なさそうに言った。
「……もう、それくらいで大丈夫です……ありがとうございます……」
「いや。こんなチャンス、二度とないかもしれないし」
俺はメイスを肩に担いで言う。
「全部持って帰ろう」
「……全部!?」
「そう、全部」
フィーネが本気で驚いた顔になる。
でも、そのあと少しだけ嬉しそうになった。
「……はい……!」
途中で休憩を挟みながら、俺はひたすら床を砕き続けた。
ボストンバッグ一つ。
二つ。
さらにリュックにも詰める。
最終的に、爆発鉱石の破片は、ボストンバッグ二つとリュックにぎっしり収まった。
「……すいません……ありがとうございます……」
また謝ってる。
「大丈夫、大丈夫。美味しい物は頂いて帰ろう!」
少し大げさなくらい明るく言ってやると、フィーネはようやく小さく笑った。
「……はい……」
よし。
その顔が見たかった。
◆
「さて、運ぶか」
俺はリュックを背負い、パンパンになったボストンバッグを両肩に担ぎ上げる。
重い。
重いが、持てないほどじゃない。
「……あの……少し、お手伝いします……」
フィーネがボストンバッグへ手を伸ばした。
「ん?」
いったん床へ下ろす。
フィーネは真剣な顔で取っ手を握る。
「……えいっ……うーーー……はいっ……!」
気合いとともに持ち上げようとするが、ボストンバッグはぴくりとするだけだ。
かわいい。
でも無理だろ、それは。
俺はなるべくやさしく言った。
「適材適所があるからさ。荷物は俺が持つよ」
フィーネがしゅんとしそうになる前に、続ける。
「フィーネは、罠や回路の監視を頼めるか?」
その言葉に、フィーネの顔が少し上がった。
「……すいません……分かりました……」
「もー。仲間なんだから、謝るの禁止ね!」
ノエルが声高に言う。
「そうだよ。仲間なんだから、それぞれ助け合って、自分のできることをやっていこう」
フィーネは小さく頷いた。
「……はい!」
短い返事だった。
でも、その中に感謝も、受け取った覚悟も入っていた気がする。
いい子だな、と改めて思う。
◆
フレッシュゴーレムが入ってきた奥の扉を開ける。
先頭はフィーネ。
俺は二番目。
最後尾は撮影係のノエルだ。
藁のベッドみたいなものがいくつも並んでいる。
「待機場所か?」
「フレッシュゴーレムの寝床ってこと?」
「寝るのか、あいつら」
そんなことを言いながら進むと、更に奥にもう一枚扉があった。
フィーネがいつものように調べる。
「……罠はないと思います……」
「よし」
扉を開く。
その先にあったのは――下り階段だった。
「よしっ」
思わず心の中でガッツポーズする。
まだ続いている。
この隠し階層は、ここで終わりじゃない。
コメント欄も一気に沸いた。
『まだ下あるの!?』
『うおおおおおお』
『四階の隠し区画、まだ続いてた!』
『これ当たりどころじゃないだろ』
『深すぎるw』
『神回更新中』
◆
ずいぶん長い下り階段だった。
荷物が重いぶん、慎重に降りていく。
頭上ではウィル・オ・ウィスプが変わらず明かりをくれていた。
スマホの自動マップの階層表示が、ゆっくり切り替わっていく。
5F。
6F。
7F。
「まだ下るのか」
ノエルが感心したように言う。
「ずいぶん深いわね」
フィーネも前を見たまま、小さく頷く。
「……はい……」
そして――8F。
一番下まで降りきって、俺はようやく気づいた。
「……これは」
目の前に、巨大な空間が広がっていた。
8Fから6Fまで、ぶち抜きになっているのか。
見上げるほど高い壁が、まるで地下神殿みたいにそびえ立っている。
中央には、巨大な両開きの門がひとつ。
どう見ても、普通の部屋じゃない。
「これはでかいな……」
素直にそう漏れる。
ノエルが門を見上げて、にやっとした。
「いかにも、いそうね。大きい奴が」
フィーネは壁の高さに圧倒されたのか、見上げたまま小さく息を漏らしていた。
その巨大な門は、静かに俺たちを待っていた。
この先にいるのは、ただの強敵じゃない。
たぶん――この隠し階層そのものの“主”だ。
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