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第十話 はじめての約束
その日の夜。
サイトを開くと、
珍しく相手からのメッセージがなかった。
いつもなら、すぐに何か届く。
「今日は遅いのかな」
そう思いながら、しばらく画面を眺めていた。
すると、数分後。
『ごめん』
ようやく通知が届いた。
『今日はちょっと遅くなった』
『大丈夫?』
『うん』
短い返事。
少し気になったけれど、
今日は深く聞かないことにした。
『それならよかった』
『待ってた?』
『……ちょっとだけ』
『やっぱり』
『何(笑)』
『いや、なんでもない』
いつもの調子に戻って、彼女も少し笑った。
それからしばらく、二人は何でもない話をした。
学校であったこと。
最近気になっていること。
昨日見た動画。
くだらない話をしているうちに、
いつもの時間が過ぎていく。
ふと、相手からメッセージが届いた。
『そういえば』
『ん?』
『会う話』
彼女の手が止まった。
『うん』
『ちゃんと決めようか』
昨日までは、「いつか」だった。
けれど今日は違う。
少しだけ現実味のある言葉だった。
『いつがいい?』
『今月なら、休日は何日か空いてる』
『私も』
『じゃあ……』
そこで、二人とも少し黙った。
日付を決める。
それだけなのに、妙に緊張する。
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彼女はカレンダーを開いた。
いくつか予定を確認する。
『この日なら大丈夫』
送信する。
すぐには返事が来なかった。
少しして、
『俺も大丈夫』
と届く。
その瞬間。
まだ何も変わっていないはずなのに、
胸が少しだけ騒いだ。
本当に会うんだ。
そう思った。
『じゃあ、その日にしよう』
『うん』
『場所は?』
昨日出した候補の中から、二人で一つ選んだ。
駅から近くて、人が多い場所。
初めて会う二人にとって、
それくらいがちょうどよかった。
『時間どうする?』
『昼くらい?』
『いいね』
『じゃあ○時』
『了解』
メッセージが途切れる。
決まった。
たったそれだけのことなのに、
何度も画面を見てしまう。
『本当に決まったね』
彼女が送る。
『うん』
『なんか変な感じ』
『俺も』
『今までずっと画面だったのに』
『それがもうすぐ変わるんだね』
その言葉を読んで、彼女は少しだけ黙った。
楽しみ。
もちろん楽しみだった。
でも、ほんの少しだけ怖い。
今まで文字だけだったからこそ、
安心して話せた部分もある。
実際に会ったら、自分はちゃんと話せるだろうか。
相手はどんな人なんだろう。
想像しているのと違ったら?
そんな考えが次々に浮かぶ。
『緊張してきた』
正直に送った。
『俺も』
『そっちもなんだ(笑)』
『そりゃするよ』
『なんか安心した』
『なんで(笑)』
『私だけじゃないんだなって』
『大丈夫。たぶん俺も当日めっちゃ緊張してる』
『じゃあ二人とも何も話せなかったらどうする?』
『そのときは……』
少し間が空く。
『今みたいに話せばいいんじゃない?』
彼女はその言葉を見て、ふっと笑った。
そうだ。
今までだって、
最初は何を話せばいいか分からなかった。
それでも、いつの間にかこんなに話すようになった。
きっと大丈夫。
『それなら大丈夫かも』
『でしょ』
『でも、ひとつ問題がある』
『なに?』
『まだお互い本当の名前知らない』
『それは当日』
『忘れないでよ?』
『忘れない』
『絶対?』
『絶対』
彼女はその言葉を見て、
スマートフォンを胸元に置いた。
初めて会う日。
その日に、本当の名前を知る。
それは、二人にとって小さな約束だった。
その後も少しだけ話して、
いつものように「おやすみ」を送る。
画面を閉じたあと、彼女はカレンダーを開いた。
二人で決めた日付を眺める。
そこに、小さく予定を入れた。
――約束。
その文字を見て、彼女は少しだけ笑った。
コメント
4件
そうなんですよね、、 えー!?本当に嬉しいです!ありがとうございます!
ああ、もうこのエピソードすごくよかったです……!「会う」って決めた瞬間の、画面越しの緊張とときめきがじんわり伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。特に「まだ本当の名前知らない」ってやりとり、すごく好きです。今まで文字だけだった二人が、現実の約束に変わる瞬間の繊細な空気感、M.Sさんらしいなあって思いました。次の展開がすごく気になりますね…!