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『お邪魔しまーす…』
「どーぞ。勇斗、飯食った?」
『うん、軽く』
もう相談しに何回も来てるのに、今日の勇斗はなんだかソワソワしている
今日はなんの相談なのだろうか
「あ、ソファ座っていいよ」
『おう、サンキュ』
「なんか飲む?」
『あー、今は水で』
自分用と勇斗用、それぞれに水を注ぐ
初めて家に来た時から決まってこのコップを使わせている
飲むかもしれないと思いテーブルの上に予め並べておいた缶ビールは無視して、水の入ったコップを置く
その音は沈黙の中で不気味なくらい響いた
俺はソファに沈み込む勇斗の隣に腰掛けた
「で、話って」
無言を切り裂いたのは俺だった
『あぁ…うん』
何から話そうか整理しているのだろうか
眉間に皺を寄せて、少し俯いた
また流れる沈黙
もう夜だし、俺の家だし、遅くなっても問題はない
急かすこともせず、ただ勇斗の言葉を待った
『んー、最近、ずっとしんどい状態が続いてるっつーか…。』
「うん」
『相談したいとは言ったけど、特に大きな悩みはなくて。逆にここ一年はグループとしても俺としてもだいぶ躍進したから、嬉しいことばっか……のはずなのに、なんだろ、たまに自分が何を目指してるのか分からなくなっちゃう時があって』
さっきの沈黙が嘘みたいに、次々と言葉を紡ぎ始めた
でも、勇斗の声は言葉を重ねるごとに震えていった
『もちろんドーム行きたいとか、国民的になりたいとか…そういう夢はあるし、叶えたい気持ちも全く変わってない。でもふとした時に目の前が真っ暗になんの。俺、なにしてるんだろうって。そうなったらもう止まんなくて……、ミス連発するわ、迷惑かけるわで散々で』
「それで余計落ちちゃうってことね」
勇斗は無言で頷いた
今にでも泣き出しそうな声
かける言葉を探していた俺より早く、また話し始めた
『このままじゃグループにも支障きたすかもしれない、し、みんなの期待に応えなきゃ、いけなくて、だから、お、俺もっと、頑張らなきゃ…っ』
「…勇斗?」
急に様子がおかしくなった
だんだん途切れ途切れになっていく言葉たち
『俺、ほんと、だめだめで、っ、』
次第に乱れていく呼吸と歪められていく表情
これ、過呼吸?
瞳からはずっと堪えていたであろう涙をぼろぼろと流し
両手で胸を抑えて浅い呼吸を繰り返している
こんな状態の勇斗を見るのは初めてだった
肩を大きく上下して酸素を必死に求めるその姿はとても苦しそうで
『ぁ、ひゅ…、っ、は、あ、ごめん、ごめ、っ』
思わず抱きしめた
拙い呼吸の中でごめん、ごめんとずっと伝え続けている。謝る必要なんて全くないのに
こんな状況でも、俺に迷惑をかけることに罪悪感を感じてるようだ
どこまでも優しい彼が心の底から愛おしかった
「大丈夫、勇斗は充分頑張ってるよ」
『う…、あ”、…っ、は、ぁ、ッは…』
「俺はちゃんと分かってるから」
なんて言って優しく頭を撫でてやる
今はただ、めいっぱい甘い言葉を浴びて俺に溺れていればいい
それが毒だったと、貴方が気づく日は来るのだろうか
『じん、と、ッ…ごめ、…っ』
「謝らなくていい。俺がずっとそばにいるから」
『っ、は、あ、…、っ、』
「俺には全部教えて」
そう、そう。もっと溺れて
この言葉は嘘でもなんでもなくて、全部本心だから
呼吸が整う様子は一向になくて
ずっとこの状況に興奮していたかったがここで今までの積み重ねを崩す訳にはいかない
俺は安心できる存在、と強く認識させないと
そう思い両頬に手を当て勇斗の顔をすくい上げた
でもその瞬間、何かが崩れ落ちた
落ち着いて。俺がついてる。って、そう口にしたいのに
今までの調子で甘い言葉をかければいいだけ、なのに
目の前の勇斗から目を離すことができなかった
涙で濡れた睫毛、震える唇
何度も近くで見てきた顔のはずなのに、全部全部初めてのものだった
ずっとずっと見たいと思ってた表情
それが目の前にあって
勇斗を溺れさせるための言葉も全部どこかへ消えてしまった
何か言わなきゃいけないのに何も浮かばない
ただ勇斗を見つめることしか出来なかった
それまで伏せられていた瞳がゆっくりと持ち上がっていく
ずっと焦点の合わなかった瞳が俺を捉えた
俺を、捕らえた
「綺麗…」
勇斗に聞こえないくらいの声で口から漏れた本音
一度そう考えてしまえばもう止まらなかった
今すぐにでも俺のものにしたい、俺にしかその顔を見せないで欲しい
もっと乱れて、もっと俺に依存して!
『ぁ…?、ッ…、ぅ”…』
色んな感情が頭の中を駆け巡って、気づいた時には口付けていた
勇斗との初めてのキスは蜜のように甘くて
早く離さないとって、信頼が崩れちゃうって分かってるのに今この快楽を手放すことができない
だって目の前には酸素を求めて必死な勇斗。こんなの見せられたらもっと酷くしたくなるじゃない
『っ、…、ッは、ぁ、…、ぁ、』
苦しい、苦しいね
今この状況を飲み込めなくて、余計混乱しちゃってる?
酸素奪われてどんな気分かな。なーんて
左手で胸を押し返しすなどの抵抗も、とても弱々しくてまるで猫みたい
ずっと夢見ていたものが目の前に広がっていて
勇斗の呼吸すらも俺の支配下にあることがすごく嬉しかった
裾を掴む力が弱まってきたところでようやく我に返った
慌てて口を離す
しまった。
目の前には信じられないという表情をした勇斗が、先程より更に肩を上下させてこちらを見つめた
ここで崩れるなんてもったいない
頭をフル回転させ、なんとかこの場が好転するように仕向ける
「…っごめん、勇斗。急に怖かったよな、俺、傷つけるようなこと…」
眉尻を下げ、勇斗の手を握って申し訳なさそうにそう言う
勇斗にこの嘘は見抜けない。優しいから、こうすれば俺を許してくれるはず
こんな優しさにつけこむようなこと最低だ。でも今はこうするしかない
「俺のこと嫌いに、なった?」
自分でも性格が悪いなと思う
こんな聞き方されれば、拒絶なんて出来ないはずだ
そして予想は見事的中。勇斗はすぐ首を横に振り、俺の手を握り返した
整わない呼吸と苦しそうな表情の中で、勇斗は俺を許してくれた
ほら、やっぱり勇斗の隣は、俺だけ。
めっちゃ迷走してます
1、2話と比べ倍の長さです、読んでくださりありがとうございます
ここで終わりでも良いのですが、続き書く予定です
ここからは(も)完全なる自分好みになりますが、読み進めてくださる方、お付き合い下さい🙏🙏🙏
ゆき
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