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臣桜
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上野文
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ディナーはレストランに移動してとる事になり、私は軽くメイクをし、ワンピース姿で向かった。
レストランと言っても、ゲストごとの対応になった完全個室制だ。
大きな窓の向こうには英虞湾を望めるけれど、残念ながら時間が遅くなってしまったので、ほぼ真っ暗と言っていい。
室内はウッド調で整えられ、正確には何色というのか分からないけれど、光の当たり方によって色を変えるベージュ系のテーブルクロスに、同じような色の椅子が並んでいた。
テーブルの中央には銀色のアンティークな燭台があり、長いキャンドルに火が灯っている。
それぞれの席の前には白いウェルカムプレートとパン皿、食前酒のためのグラス、カトラリーが配されていた。
ウェルカムプレートの上には、花束のような形に丸められた白いナプキンがあり、木製のナプキンリングで留められてある。
お客さんに優しいなと思うのは、ナプキンの上に斜めに掛けるように、木製のお箸も用意されている事だ。
フレンチというと、テーブルマナーを守らないと怒られる……みたいなイメージが強いけれど、昨今はお客さんが窮屈な思いをしなくてもいいよう、こういう柔軟な対応をしている所も増えているようだ。
ナプキンを膝の上に置いたあと、ナプキンリングは箸置きとして使えるようになっている。
私たちは運転手さんがいるので気兼ねなくシャンパンを頼み、全員で乾杯する。
そのあと、ワゴンの上にどっさりと食材が載せられた物が運ばれてきて、主に女性陣が歓声を上げた。
「すごーい!」
「お魚でっかい! 鮑えっぐ!」
「黒き至宝! その名もトリュフ!」
そんな声が漏れてしまうぐらい、ワゴンの上には贅沢な食材が並んでいる。
地産地消を主軸としているらしく、夏が旬のスズキ、大きな鮑、残念ながら伊勢エビは旬ではないけれど、その代わり宝彩海老とも呼ばれる、立派な車海老がある。
帆立みたいな食感の緋扇貝、そしてとても稀少なホラ貝。
小さな木の箱の中にはお米が敷き詰められ、お宝のように黒トリュフが置かれてある。
加えてまだ皮を剥く前の野菜たちもどっさりあり、まるで気分はお供え物をされた神様みたいだ。
シェフは食材を紹介しつつ、コースメニューの確認をし、私たちは最初の一品目が出るまで、お喋りをして待つ事にした。
「ひらまるさんには東京でもお世話になっているけれど、やっぱり素敵な所ね」
百合さんが言い、お宿をセレクトした大地さんは嬉しそうだ。
「疲れていませんか?」
尊さんが将馬さん、百合さんに尋ねると、二人はおかしそうに笑った。
「いい運動になったわ。明日は筋肉痛になってそうだけど」
「でも僕らは歳と共に衰えるのを承知していて、日々二人でランニングもしているから、体力はあるほうなんだ」
「そうなんですね! 健康的!」
私はパチパチと軽く拍手する。
すると弥生さんがやれやれ、というように言った。
「我が家は音楽家系だけど、『音楽をやるなら体力もつけろ』っていう教えなのよね。お祖母ちゃんからお母さんへ、そして私へと、ピアノをやりながらもゴリッゴリに体力つけさせられてるから……、もう修行僧みたいなもんよ。熊野の山伏もびっくり」
今日行った場所のネタをぶっ込んでくるので、それを聞いて全員がドッと笑う。
「私なんて、学生時代に〝ピアノゴリラ〟ってあだ名つけられたのよ? もー」
弥生さんは嫌そうに言いながらも、ムンッと力こぶを作ってみせる。
「大地さんも鍛えていそうな体をしてますよね」
私が話しかけると、彼はニコッと笑う。
「俺は学生時代まで音楽をやって、今は趣味程度だけど、やっぱり家族総出で体力作りしていたし、その流れで今も走ったりジムに行ったりしてるかな」
その時、弥生さんがボソッと言った。
「お姉ちゃん、調子に乗った時にお店で料理しながらお酒飲んで、お客さんと腕相撲してんのよ」
「あっ、弥生っ! それは言わない約束……っ」
小牧さんが慌てると、ちえりさんが「ふぅん……」と頷く。
彼女がタラタラと冷や汗を流している中、ちえりさんが言った。
「上手くやれてるならいいけど、調子にのってお店の評判を落とすんじゃありませんよ。私たちはそこまでカバーできませんからね」
「はぁい……」
ガックリと項垂れた小牧さんを見て、また全員が笑った。
コメント
1件
読了しました〜🌙 個室レストランの雰囲気、すごく丁寧に描かれてて、まるでその場にいるみたいでした。特に「お供え物をされた神様みたい」な感覚、わかる気がします(笑) 弥生さんの「ピアノゴリラ」ネタには思わず笑っちゃいました😂 あと小牧さんが腕相撲の話で焦るシーン、みんなの関係性がほのぼのしてて好きです。