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【irxs】医者パロ

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【irxs】医者パロ

27 - 第26話 ファントムペイン②

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2025年03月18日

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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります

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ご本人様方とは一切関係ありません


小児科医青×天才外科医桃

のお話です


桃視点





「幻肢痛…ねぇ」


その日の夜、一連の話を聞いたまろが小さく呟いた。


「足を切断した人によく出る症状ではあるけどさ…本人は辛いよなぁ」


そう返す俺のすぐ傍で、まろはソファの端に座っている。

手には英語の分厚い論文。

最近では暇さえあれば読書…ではなく論文を読んでいる気がする。

多分まろも、仕事外の時間は勉強しなくてはいけないことが山積みなんだろう。


「珍しい症状ではないって言うけどさ、実際はどうなん?体感的にどれくらいの割合で出るもんなん?」


そんな問いを投げ返してくるまろに寄りかかり、俺はソファに横向きに乗り上げた。

足は肘置きの上に置き、ソファの外側にだらんと垂らす。

手元には、真面目なまろとは大違いの単なる娯楽雑誌。


「どうだろ、症状の強さは人それぞれだけど、小さいのも入れたら7~8割の人に出るんじゃないかな」

「へぇ」

「さすがに医療用麻薬使って鎮痛させなきゃいけないほどの人はあんまりいないけど…あ、そうだ、ミラーセラピーなんてのもあるわ」

「片麻痺の患者さんとかにもやるやつやろ?」


返ってきた問いに、俺は「そうそう」と頷く。


身体の正中線上に鏡を置いて、切断された足は見えないように健常な足を鏡に映す。

鏡に映った足が正常に動くのを見せることで、ないはずの足も無傷で動いていると脳に「錯覚」させる。

そうして痛みを軽減させるやり方も、リハビリでは用いられることがあるんだ。

もちろんそれも、全ての人に効くわけではないけれど。


「脳と人体って不思議よなぁ」


論文に赤ペンでラインを引きながら、まろは感心したように言う。

俺と会話しながらも、大事なところに線を引けるぐらい論文も読みこんでるんだろうか?


こいつの頭、一体どうなってんの?

俺との話と論文は全く関連性すらないテーマのものなはずなのに。

まろの脳みそこそ、覗いてみたい気持ちに駆られる。



「目隠しした人にさ、嫌いな食べ物をスプーン一匙分食べさせたら、意外に自分の嫌いなものやって気づかん人多いらしいわ」

「…ふぅん?」

「普段は脳が思い込んどるんやろうな、『自分はこれが嫌い』って。視覚で捉えるからこそ苦手意識が出るんかも。目に映りさえせんかったら…味だけやったら分からんもんなんかもな」

「俺、目瞑っててもトマトだったら絶対吐き出すけど」

「んはは、今度一回やってみようかな」



絶対やめてくれ、と言わんばかりに顔を歪めると、まろはおかしそうに笑う。

そんなまろに更に全力でもたれかかって、俺は言葉を継いだ。


「それで思い出した。かき氷の話も有名じゃん」

「かき氷?」

「かき氷のシロップって全部同じ味なんだって。違うのは色と香料だけ。味は一緒なのに、見た目の色と香りに騙されるんだよ。味覚じゃなくて視覚と嗅覚が、その人にとっての味を決めてんの」


そう思うと、脳はどこまで人間を騙せるんだろう。

…いや、「人間を」じゃない。「自分を」だ。

自分でも無意識のうちに、人は自分自身を騙して偽っているのかもしれない。



……もしかしたら、感情……ですらも……?



「それはないよ」


何も言ってないのに、まろが俺の考えを否定するような言葉を返してきた。

黙り込んだわずか一瞬のせいで、思考を全て読まれたのかもしれない。

その証拠に、あいつは論文をテーブルの上にぱさりと放るとその手をそのまま俺の頭に伸ばした。


「感情はもっと手前やん。頭で考えるよりも先に動いとるやろ。脳が認識するよりも、もっと衝動的なもんやって」


俺の肩の辺りから頭までを掻き抱くような形で、まろはぐいと引き寄せる。


「『あれ、俺もしかしてないこのこと好きなんかな』『いや違うかも』『いややっぱり好きやな』なんてぐるぐる考えたことないし。頭でそんなこと考えるよりも先に、自分で認識させられる瞬間っていうんがあるんよ。もっと当たり前に、『あぁ好きやな』って思う瞬間が」

「……」


こいつ本当に、よくそういう恥ずかしいセリフを臆面もなくさらりと口にできるよな。

いつもなら赤面でもして照れ隠しに「おっまえ、よくそういうこと素面で言えるよな」なんて抗議するところだ。

そうしたらまろはきっと、また楽しそうに俺をからかうみたいにして笑うんだろう。



…でも、毎回毎回同じ展開になると思うなよ。



そう思って俺は、ぐいとまろの手を押しのける。

もたれかかっていた態勢を立て直し、上体を起こした。そのままくるりと振り返る。


手にしていた雑誌は、さっきのまろのようにローテーブルの上に投げた。

論文の上に重なるように置かれたそれには見向きもせず、まろの首に腕を伸ばす。



膝を曲げた右足であいつの両足を割り、ぐいと差し入れた。

首に絡めた腕はそのまま、至近距離で青い瞳を覗き込む。口元にはできるだけ艶やかな笑みを浮かべて。



「うん、そうかもな。俺今、頭で考えるよりえっちしたい衝動に駆られてるわ。感情は脳に支配されない証拠かも」

「…んなわけあるか」


無理矢理なごり押し理論に呆れたように、まろは苦笑いを漏らした。

それでもその手は俺の腰に回され、言葉とは裏腹に優しく抱きしめ返してくる。


こつん、とまろの額に自分のそれを合わせと、触れ合ったかと思った瞬間、すぐに離された代わりに唇に優しいキスが降ってきた。










あれから数か月たった頃、俺は院内で久しぶりに槇原さんの姿を見かけることになる。

その頃には彼女はもちろん退院していて、定期的な通院に切り替わっていた。

その左足には義足が装着されている。



「ないこ先生!」



少し離れた場所だったので、会話ができるほどの距離ではない。

だけど彼女は、大きな声で俺を呼んでぶんぶんと手を振ってくれた。

あの幻肢痛に悩まされていたのが嘘のように、その笑顔はもう元の快活な彼女らしいものだった。



「……」


にこりと笑って、俺も手を振り返す。



…いや、幻肢痛じゃないか。

あの頃本当に彼女を悩ませていたのは、ろくでもない彼氏の方だった。




彼女の隣では、そんなことを考えていた俺に向けて、あの日オレンジ色の花を持っていた青年が笑顔でぺこりと頭を下げた。




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