【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
麻酔科医赤さん
小児科の看護師水さん
集中治療医黒さん
のお話です
赤視点
「休憩ってなったら俺の部屋来るん、なんなん?お前ら」
言葉ほど不満そうではない口調でそう言ったまろは、この院内にある個室の主であるはずなのに客用の椅子に座っていた。
ちょうどかなり遅めの昼食をとろうとしていたところらしく、お湯を入れたカップ麺を前に行儀よく手を合わせている。
「『お前ら』?」
まろの言葉を復唱して首を捻る。
今ここにはりうらしかいないし、「お前ら」が何を指すのか曖昧だ。
本来はまろのものであるはずのレザーの椅子に座ってくるくる自分ごと回して遊んでいると、まろはずずっと麺をすすりながら頷いた。
「ないことほとけはしょっちゅう来るやろ。そんで昨日はあにき、一昨日はしょにだ」
立ち上る湯気がまろの眼鏡を曇らせる。
それが不快だったのか、まろはぽいとテーブルの上に投げた。
確か伊達眼鏡のはずだから、視界が困ることはないんだろう。
「まぁ俺らの中で個室もらってるのまろだけだしね。皆集まりたくもなるよね。っていうか個室もらえるって、本当に小児科ずるくない?」
小児科のように、常勤医師にそれぞれ個室が割り振られている科はもちろん複数ある。
それでもそれが許されていない科もまだ多いのが現実だ。
あと何年先になるか分からないような病院棟建て替えの話が実現するまでは、夢のまた夢なんだろう。
今、まろ以外に俺たち6人の中で個室を与えられている者はいない。
…まぁもっとも、いむに関しては看護師だから個室なんてありえないけれど。
「ずるないよ。むしろ外科とか忙しすぎて個室なんかいらんやろ」
どうせゆっくりする時間も、腰を据えて仕事をする時間もろくに取れないんだから。
言外にそう言って、まろはスープに口をつける。
醤油の香りが湯気と共にほわりと室内に舞った。
「忙しいと言えばさ、ないくん珍しく今日早く上がれるんだって?」
「…やけに詳しいやん」
「朝会ったときテンション高かったから何事かと思った」
「ふーん」
興味なさそうな素振りで、まろは曖昧な返事を寄越す。
そのまま麺をすする作業に戻ろうとするものだから、にやっと笑って言葉を継いでやった。
「で、まろも今日早めに上がれるんでしょ?2人共明日休みだし、温泉行くんだって?」
「……そんなことまで喋ったん?ないこ」
「テンション高かったもん。ないくんにしては珍しく分かりやすかった」
ないくんが多忙なのはいつものことだけど、最近はまろも何らかの論文だか研究だかで忙しそうだった。
そんな2人がようやく落ち着いて1泊旅行に行こうなんて思えるようになったことは、素直に喜ばしいことなのかもしれない。
「今日の夜から車で行くんでしょ? 露天風呂貸し切りとかあんの?」
「部屋についとる」
「うわー、テレビでよく見るやつね。いいじゃん」
箸をカップの上に並べて置いたまろは、取り出したスマホをすいと操作するとこちらに向けた。
その画面に映った画像は、どうやら今日泊まる予定の旅館のようだ。
ドラマか何かに出てきそうな高級感溢れるおしゃれな室内と、ガラス越しに備え付けられた露天風呂。
「まじ?高そう」
「たまの贅沢やし」
ないくんのように分かりやすく声を弾ませたり嬉しそうにしているわけではないけれど、きっとまろも楽しみなんだろう。
話を振ったのがこちらだとは言え、本来のまろならこんな風に画像を見せてくるとは思えない。
それだけ内心では浮き足立っているのかもしれない。
「いいねぇ、なんか優雅で医者っぽい休日」
「お前も医者やん」
「んー…こっちは一緒に出掛けるって言ってもいっつもカラオケかカフェくらいだし」
「高校生か!」
からかうように声を立てて笑うまろ。
背もたれに深く座ったまま、俺は尚もくるくると椅子を回す。
「デートっぽいって言ったら、せいぜい服買いに行くくらいかな」
付き合い方なんて人それぞれなはずだから、別にそれが不満なわけでもない。
優雅に温泉だって自分も行こうと思えば行ける。
ただ、まろとないくんの空気感は人には真似できないような大人っぽい何かがあって、それを少し羨ましいとはずっと前から思っている。
「…それでさ」
言葉を継いで会話を続けようとしたその時、ワイシャツの胸ポケットに突っ込んでいたPHSが鳴った。
休憩中とは言っても、そんなことはこの界隈では考慮してもらえない。
取り出したそれに視線を落とすと、スマホよりも遥かに小さな画面には、通話をかけてきた相手の名前が表示されている。
その白黒の色気もない文字を見やって俺は目を丸くした。
「ないくんだ」
「え?」
ぽつりと呟いたこちらの言葉に、まろが小さく反応する。
それには答えずに、俺はそのままPHSの通話ボタンを押した。
繋がったそれに向かって「もしもし? おつかれー」と挨拶をする。
ないくんは基本的に仕事中は早口な方だ。
効率厨だし、時間が1分1秒でも惜しいんだろう。今日はそれに拍車がかかっている気がした。
「え、パソコン?」
聞き返した瞬間、まろが動く方が早かった。
くるくる回していた椅子を徐々に減速させるりうらの方まで歩み寄ってきたかと思うと、目の前の端末をスリープモードから立ち上げ直す。
画面が開くと、備え付けの機械に掲げていたログイン用の職員ICカードを外した。
代わりに机の上に投げていたりうらのカードをそこにセットしてくれる。
「ちょっと待って、今カルテ開く」
まろに無言で促されるまま、そこにパスワードを入力する。
立ち上がった電子カルテに、電話の向こうのないくんが口早に告げる患者IDを打ち込んだ。
『この前手術して、今入院中の患者さんなんだけど』
PHSから漏れてくるハスキーな声を耳に取り込みながら、目ではざっとカルテ記述を追う。
どんどん更新されていく情報。
今まさに複数部署からリアルタイムで書き込みが行われている。
『痛みと呼吸苦の訴えがあってさ。CT検査したら術後出血と肺塞栓症で』
「緊急オペ?」
『頼める?』
「当たり前でしょ」
この部屋に来たときに脱いで椅子にかけていた白衣を手に取る。
それに袖を通す間、まろがPHSを持って俺の耳に当ててくれた。
おかげで準備をしながら会話を続けることができる。
「この患者さん、入院中なら昼食食べてるよね?」
『うん』
「誤嚥リスクあるから、フルストマック対応で麻酔導入ね」
『術後はICU(集中治療室)管理になると思う』
「うん、あにきに連絡しとく」
『俺今から患者さんの家族に電話で手術の同意とるわ』
「了解。俺もすぐそっちに向かう」
てきぱきと互いに必要なことだけを告げ、通話を終わらせる。
切ったその電話でそのままあにきに繋ぎ、今の現状を報告しておいた。
これでICUのベッドは確保しておいてくれるだろう。
「まろ、ごめん。パソコンありがとう」
ひとまずの連絡を終えると、俺はそこでまろを振り返って礼を言った。
さっきセットしたICカードを首から提げ直し、白衣の裾を翻す。
「がんばって」も「大変だな」も、この場合かける言葉としてふさわしくない。
そう思ったのか、まろは一つ頷いて返しただけだった。
だけど最後に、思い出したように言う。
「りうら、ないこに伝えといて」
部屋を出ようとしたところで、俺はぴたりと足を止めてもう一度そちらを振り返った。
「『分かっとるから、俺には連絡せんでえぇよ』って」
「……うん」
この後の手術に何時間かかるかなんて誰も分からない。
誰のせいでもないし、まろだってないくんを責めるつもりなんてないはずだから。
それでも、さっきまで少し嬉しそうだったまろを思い浮かべては、まるで自分のことのように胸が痛んだ気がした。
(続)
コメント
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度々起こってしまうのお医者さんならではですよね…🤔 あおば様は実際に医者なのですかってくらい知識が深くて尊敬です…✨✨ お互い楽しみだったのに…どうなってしまうのでしょう😣💓 今回も楽しく読ませて頂きました!!😸 投稿ありがとうございます!!
医者ってこういうのも度々あるの 辛いですよね、、、ꌩ ̫ ꌩ よし、やっと念願の楽しみがッ… まできて無理になったって お互いに悲しすぎるよね😭 書き方が上手すぎるからこそ 本当に自分の事ぐらい悲しくなりますね…2人ともすっごい楽しみにしてたんだろうなぁ~…医者って残酷ですよね。