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鷹槻れん

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鷹槻れん

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#恋愛
水無月 京
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#オフィスラブ
草原草原

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「私もバカでね、言われるがままに貸していたのよ。というか、返してもらってないから、貸していたんじゃなくて“渡していた”が正解かな」
「お金の用途は……?」
「仕事を辞めて就活中だから必要だって話だったけど、本当のところはわからない。ほかの女に貢いでたかもしれないよね」
当時の部長がどれだけ傷ついたかを想像したら、悲しくなって鼻の奥がツンとしてきた。
どんなに無心されても渡さないほうがいいと、部長も絶対に気付いていたはずだ。だけど断ったら恋人が離れていきそうで怖かったのかもしれない。
「ずっと不安でたまらなかった。この人と私は、お金だけで繋がっている関係なのかなって考えたりしてさ……」
ケースは違うけれど、見たくないものに蓋をして気付かないふりをしていたあの日の自分と重なった。
部長もこのとき、純粋な愛情だけで結ばれているわけではないと心のどこかできっとわかっていたのだ。でも認めたくなくて、信じたい気持ちが強かったのだと思う。
「悩んでるときに五十嵐くんに飲みに誘われたの」
「専務に……」
「そのときベロベロに酔って恋人の愚痴を言っちゃったのよ。私は都合のいいATMじゃないぞー、とか」
酒豪の部長が酔うなんて、どれだけの量のお酒を飲んだのか想像もつかない。そこまで精神的に追い詰められていたのだろうか。
「その発言がきっかけで、私がお金を渡してるって知った五十嵐くんが本気でキレちゃったのよ」
「え、本当ですか?」
専務はいつも快活なイメージだけれど、私は会社で見聞きする人柄しか知らないから、さすがにこれには驚いて目をむいた。専務が短気な性格だとは到底思えない。
「先輩なにやってるんですか! って怒られ、あきれられて……情けなかった。けどね、そこからが大変だったの」
「大変?」
「その日、五十嵐くんが家まで送ってくれたんだけど、お金を無心しに来た彼と玄関前で鉢合わせしちゃってね。五十嵐くん、彼の胸ぐらを掴んで放さなくて……」
部長の言葉通りだとすれば、修羅場になっているシーンしか思い浮かんでこない。
警察を呼ぶような事態になったのではないかと嫌な展開にまで考えが及んだ。
「今すぐ金を返せ、二度と彼女に近づくな、って凄みの効いた太い声で言ったら、彼は即座にうなずいて逃げ帰ったの。それから連絡が途絶えて音信不通」
「……うわぁ」
「私としては、好きだから別れないって彼が断言しなかったのがショックだった。それ以降待っていても連絡がないし、結局愛されてなかったんだって思い知って現実を受け入れたの」
話を聞いていたらつらい気持ちが伝染して、胸がいっぱいになった。
当時の部長は恋人から愛されていると信じていたい反面、冷静に考えれば考えるほど疑う気持ちが湧いてしまったのかもしれない。
そして、専務はグラグラとして不安定な部長を放っておけなかったのだろう。
恋は盲目と言うけれど、光が見えないどころか進む道さえ存在しないような恋愛はやめるように、専務が引導を渡して目を覚まさせたのだ。
「そんなことがあったんですね」
「ね? 笑っちゃうくらい全然ダメでしょ? だから未だに五十嵐くんには頭が上がらないの」
「ちなみに、貸したお金のほうは……?」
言葉にしたあとで余計な質問だったと気付き、部長に対してすみませんと軽く頭を下げる。すると部長は笑みをたたえながら小さく首を横に振った。
「当然戻ってこない。その件は五十嵐くんも気にしてたんだけど、お金を渡した私も悪いから。もういいの」
予想通りの答えが返ってきて、私にもつらい気持ちが痛いほど伝わった。
五年の月日が経っているとはいえ、部長の心は大丈夫だろうかと心配になってしまう。
「そのあとしばらくして、ジニアールに来ないかって誘われたのよ。先輩が変な男に引っかからないように俺が見張ります、だって」
専務はただ単にやさしいのではなくて、先輩後輩という関係以上に部長を大切に思っているのだ。
コメント
1件
部長の過去、読んでいて胸が苦しくなりました。お金だけで繋がっているのかも、と疑いながらそれでも信じたい気持ち、切ないですね。専務が本気で怒って玄関前に駆けつけた場面、頼もしさが滲んでいて、彼の想いの深さにじんときました。「見張ります」の一言も、やさしさと覚悟を感じます。