テラーノベル
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※捏造多々※女主がブルーロックに参戦しております。
※チーム捏造等選手の数など細かいことは考えておりません。
何故なのか、選んだやつは何を考えているのか、天才的な発想の訓練施設を打ち出した割にバカなのか、考えたくは無いが、間違えられたのか。グルグルと回る思考が纏まる間もなく、私の前には無情にも道が開かれる。ブルーロック、日本を世界一に押し上げる為にストライカーのみを集めて競わせる、まるで蠱毒のようなシステムの訓練施設。あんな強化選手に選ばれましたと書かれた紙一枚では分かるはずがないのそこは、どうやら大多数を男子選手で構成されているようだった。いや馬鹿。サッカーをすると思っていたから、最近買った高めのスポーツブラと最近短めに切った髪が功を奏した。
周りを見ても勿論男の子ばかりで、女子の中では高い方である身長も、この集団の中では埋もれ気味である。あ、あの選手知ってる。そわっとしてしまった気持ちを抑え、ここの職員の人を探すが見当たらない。そうこうしているうちに誰かが喋り始めた。いや何も入ってこないって私一応女子だぞ?それとも見えないところに女子もいるのだろうか。ぐるぐると頭を回る疑問が解消されることもなく、前のステージに立つ長細い男の説明は続いていく。え、共同生活って言った?
「最後に残る1人の人間は、世界一のストライカーになれる」
その言葉に、胸の奥がひりつくのを確かに感じた。高校生になると、男女の体格差が著しくなってくる。大体のスポーツが男女に分けられるのは中学生、12歳以上で、小学生の時一緒に競っていたライバルは総じて男子サッカー部へと入った。男と女なんて全く気にしていなかったのに急に分けられて、納得も行かぬままそういうものだと思わさせられる。わかっている、私と彼らには埋めようにも埋められるはずがない性差があるのも。努力と根性ではぶち抜けない差があることは分かっているし納得している、これは差別ではなく、区別だ、知っている。でも、頭では理解出来てはいても、幼いころにあいつにつけられた炎はくすぶり続けたままでいるのに、あいつを超える機会さえも失った私は、
「常識を捨てろ、ピッチの上では、お前が主役だ」
誰もそんな事言ってくれなかった。当たり前だろう、実際女と男の身体の差だ何て知ってる、わかってる、常識だ。どれだけ頑張っても同じ舞台には立てない。実際にここに選ばれた強化選手たちは男子ばかりだ。男は長い腕を大げさに使い説明を白熱させていく。グルグルととぐろを巻き、腹の中に必死で抑えていた私の感情を焚きつけるように言葉を紡ぐ。
「己のゴールを何よりの喜びとし、その瞬間のためだけに生きろ」
埋まらない溝を必死で埋めようとする様に練習に明け暮れても、その間にあいつも私もどんどん成長し、溝は埋まらず開いていくだけだ。いつからか、女子サッカーで敵無しだ何て賞賛されるほどになっていた。だけど違う、もちろんうれしくもあったけれど、私の目指すべきところはそこではない。心のどこかで不満げに吐き出す、同じ舞台に立てないからなんだ、あいつを抜くことをあきらめるのか?無理だ、だってあいつは男で、私は、
「それが、❛ストライカー❜だろ?」
そうだ、私は、
動いた足は完全に無意識で、自分に強化選手の案内が来たことが何かの間違いじゃないか、男子しかいないのではないか、そんな小さな不安は絵心さんの言葉で掻き消えていた。私はストライカーだ、幼いころ、あいつを、糸師冴を超える事だけ考えてボールを追い回した、男とか女とか関係ない、ただのストライカーなのだ。
「301名、全員参加っと。彼女も無事参加したみたいだ」
「…これでもう後戻りはできない、これから私はあなたの言うとおりに動きますので。日本サッカーとあの301人の未来、よろしくお願いします」
「…多分、299人、それと適応できないならもう1人の人生はグチャグチャになる…そして1人のエゴイストが誕生する。それが“ブルーロック”だ」
「…はい…彼女には、私の方から追加で説明をしておきます」
「うん、頼むよ、説明を聞いて帰るならそれでもかまわない。さて、始めようかアンリちゃん…世界で一番、フットボールの熱い場所を」
「特例?」
「はい、あちらで別説明がありますので」
バスに乗りたどり着いた先で、案内役らしいお姉さんがそう言いほかの子たちとは違う部屋へと連れ出した。やっぱり、女である私が呼ばれたのは何かの間違いだったのだろうか、何ておなかの奥が冷えていく感覚がした。私は、一生糸師冴に勝てないのか。
「覚悟がないなら帰れ、あるなら残れ。部屋は用意してある」
「残ります」
連れ出された先にいた絵心さんの問いに対し食い気味で返答すれば、横で見ていた帝襟さんがきょとんと目を丸くした。絵心さんは先ほどまで私にここでの生活やシステム、女子として気を付ける点と他の選手たちと違う点を懇切丁寧に説明してくれた。その上で、私に残るか残らないか選択肢を与えてくれる。だが絵心さんも人が悪い、自身で見極めた原石の一粒が、そんな事で折れる訳がないだろう。
「私は、ただ1人を跪かせる為にサッカーをしています。彼に届くにはこのままじゃだめだ。ここで、私は唯一のストライカーになる」
「良い答えだ」
おら、と投げられたユニフォームを受け取れば、絵心さんは初めてゆがんだ笑顔を見せた。
「見せてみろ、泡沫うたかた焔ほむら、お前のエゴを」
「上等です」
にやりと微笑み返せば、安心したように帝襟さんも微笑んだ。簡単に言えば、私が女であることは勿論ブルーロック側は周知しているようで、他選手にも特に隠すことはしないらしい。共に生活を送る点において隠しきれるはずがないからだ。共同生活とはいえ部屋は別で鍵がかかるようになっており、お風呂もそこについている。自主練習ができるトレーニングルームも簡易的なものは整っている様で、他選手と顔を合わせるのはテスト、選別、食堂使用、作戦会議の時のみらしい。学校のようなものだな、とあたりを付けていれば、追加で帝襟さんの連絡先を教えてくれる。女性同士であるから、絵心さんに相談しにくいことは帝襟さんへ、との配慮のようだ。
「ありがとうございました」
「本当に、いつでも連絡してください。男子選手ばかりの中で大変だと思うので」
微笑む帝襟さんは本当に可愛らしくて思わずまぶしいものを見るような表情になってしまった。ユニフォームを胸元で握りこみ、もう一度深く頭を下げて指定の部屋へと向かう。ここから、私のストライカー人生がはじまるかもしれない期待を抱えこんで。
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「よっわ」
ペナルティエリアを模したと言われた空間のど真ん中、こちらを見下す唯一の女子選手と、当てられたボールが無情にも転がっていくのを眺めながら、無機質な音と共に自身のサッカー人生が終わったことを自覚する。ブルーロック唯一の女子選手が同じチームとなることを絵心甚八と名乗るブルーロック主催者に聞いた時は、正直勝ったと思った。女子なんかに負けるはずがない、何しに来たんだよ何て感想が正直なところだった。実際に少し遅れて到着した泡沫と名乗った女子選手は、女子の中であれば高い身長だろうがここでは埋もれる程度の体格、体つきも多少鍛えてはいるようだが細い中性的な印象の女の子。妙に鋭く射抜くような瞳は威圧的ではあるが、圧倒的にここでは弱者に映った。
「女子が来るとこじゃねぇだろ」
「どうせ話題作りとかじゃない?」
「弱そ」
彼女には悪いが、からかいの声に思わず同意の言葉を返す。鬼ごっこの説明を受けた後も、一番に狙われたのは勿論彼女で、死角を狙われたはずなのに容易くボールをトラップした事は素直に関心したが、あとは逃げ回るだけだな、何て余裕がちらつき、油断した。トラップしたボールをどうするのか、多少は警戒しながらも見ていたはずなのに、一瞬で彼女の姿が視界から消える。姿を捉えられないうちに聞こえたのは、先ほどまで俺の横で彼女を揶揄っていた奴にボールが当たる音だった。
「1人」
初動、早、油断していたからか目で追えなかった動き、崩れた余裕を立て直す暇もなく、当たったボールを再び器用に操った彼女は、俺の後ろにいた奴にもボールをぶち込む。どん、と強めに打ち込まれたそれに驚愕する。大き目の体格であるそいつは容易く倒れ、そこには俺だけが呆然と立っている。2人、と感情のこもらない彼女の声がやけに耳にへばりつく。切り裂かれる程鋭い視線は、俺を捉えて離さない。やば、
「3人」
正面から打ち込まれる、そう思って咄嗟に半身を翻せば、衝撃はいつまでたっても来ない。助かっ、ポン、と、緩やかに頭にきた衝撃と、無常に転がっていく見慣れた白と黒のボール。ヒール、リフト…?理解したと同時に、これまた聞きなれた音とともに、俺のサッカー人生の幕引きが決定したのだ。冒頭のセリフを吐いた彼女、泡沫焔は、何の感情も乗らない目で俺を見下ろす。ああ、俺も夢を持ってサッカーを始めた。彼女も何か譲れないものを持ってここに挑んでいるのに、男子の中一人だけでここにいるのに、弱そうだなんて、軽率だった、今更後悔しても泡沫さんには何も響かないだろう。絵心さんのネタバラシを聞き終えて、暗い廊下へ歩き出す。
「泡沫さん、ごめんね。頑張って」
謝罪の言葉は俺の小さなエゴで、俺が出ていく扉の近くにいた泡沫さんは予想外という風に目を見開いた。
「ありがとう、貴方も。弱いなんて言ってごめんなさい。私の動きに反応出来たの貴方だけだった」
鬼ごっこの時には想像もつかないほど、花が咲くように笑った泡沫さんは穏やかな声でそう言う。だよな、日本代表だけがサッカーのゴールじゃない。諦めなければ、何処でだって活躍できるはずだ、簡単では無いけれど。決意を胸に歩き出したその先で、敗者復活の扉を見つけることとなる。
糸師凛は自他ともに認めるストイックの化け物である。興味はサッカーと、その先にある兄を潰すこと、少しのホラー要素のみ。それ以外は有象無象、勉強だって最低限で、休日だってホラー映画を観るかホラーゲームをするかだ。それだけ、で、それだけのはずだった。
目の前に君臨するのはブルーロック唯一の女子選手。見方によっては男にも見える長さの黒く美しい髪を邪魔にならないようハーフアップにしてある。小さいながらも合理的に鍛えられた体格、何よりも、自身を抜き去った際に見せた心に突き刺さるほど鋭い目つき、力強い眼光。基本的な技術は完璧だが他を圧倒するほどのものではない。驚くほどの初動スピードも、慣れてしまえば容易くとはいかないがブロックできる。その証拠に、凛が所属するチームは彼女が所属するチームを降した。
圧倒的な力を見せつける凛の前に、彼女のチームメイトたちは早々に打ちひしがれ動きは鈍くなる一方だった。彼女以外。前半は凛による蹂躙。後半はもはや彼女と凛の一騎打ちと言っても過言ではない試合運びになり、彼女のチームメイトは全員、唯一エゴをむき出していた彼女の指示を聞く駒となる。
唯一の女子選手、と聞いた時、凛はどうでも良いとすぐに切り捨てていた。女子選手がいようがいまいが自身の目標は変わらない。兄を倒すという目標は絶対的に揺るがないものだ。周りが色めき立つのも、嘲笑交じりの雑談を交わしているのも全く気にしない。実際目の前に立った彼女を見ても特に何を思うこともなく、目の前の選手たちが自身とどれほど渡り合えるのか、ただそれだけを考えていた。
前半ですでに3点入れた試合結果何て目に見えている。だが、ここから彼女は凛の予想を凌駕することとなる。最後まであきらめずに食らいついた彼女は、凛からボールを奪い挙句油断していたキーパーから2点奪取したのだ。いくら急ごしらえのゴールキーパーとはいえ、瞬発力や体格から選んだ男子選手である、そう簡単には点を取られないはず。自陣へ戻る彼女と目が合う、横目でまだまだこれからだと言わんばかりに挑発的に笑った表情に、心臓が変な音を立てる。卓越した技術を持っているわけではない、体格からして妥当なシュート力だが、コースを捉えるのが妙にうまい。そして厄介なのが、女性特有のしなやかさで繰り出される、通常では考えられない体制から打ち出されるシュートだ。ブルーロックにきてはじめて、凛の心臓は高揚感で熱を上げていく。
「お前、名前は、」
「…名乗るなら自分からでしょう」
生意気なやつ、いや、そうではない。そんな失礼なことを言ってしまえば自分の第一印象は最悪になってしまう。だが凛はこういうときどういう態度を取って良いのか全く分からなかった。大人びてはいるが糸師凛は16歳の思春期真っ只中男子高校生である。
「俺、は、糸師凛」
ばしり、と音が聞こえた気がする程長いまつ毛の奥、意思を宿した力強い瞳はしっかりと凛を捉えていた。
「泡沫焔《うたかたほむら》です。楽しい試合でした、ありがとうございます」
ばちん、と凛の中で何かがはじける音がする。花が綻ぶ様な微笑みを正面から受け、凛はその場に縫い付けられたような心地で彼女と握手を何とか交わした。艶やかな黒髪、気品の漂う顔立ちが綻べば、世界が自分を祝福した様な妙な高揚感に襲われ頬や頭が熱くなる。サッカーをしている時とはまた違った心持に、凛は理解が追い付かなかった。去っていく彼女の背中をいつまでも見つめながら、はじけた何かが胸をじわじわ満たしていくのを心地よく感じる。
糸師凛16歳、初恋であった。
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