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「あ、やっぱりそうなった?」
バーを訪れ、玲くんに雅とのことを報告すると、彼はすべてを見透かしていたような顔で楽しそうに笑った。
「やっぱり」という言葉に、すとんと腑に落ちるものがあった。どこかでこうなることを計算して、彼は私と雅を掌の上で転がされていたことを悟る。
「中々焦れったかったからちょっと発破かけちゃった、驚いたでしょ?ごめんね」
「⋯…いや、そう言われた方が納得出来るわ」
玲くんが私に見せていた思わせぶりな態度は、すべて雅を焚きつけるための餌だった。
距離が近いクセに一向に動かない二人に痺れを切らした、なんて勝手な言い分のおかげで、今、私と雅の関係はややこしいことになっている。
恋人になった、と言われればそうなのかもしれない。けれど、元々その気のなかった私の中に、実感はまだなかった。
「でもさ、何で付き合ったの? 雅が動き出すのはともかく、夏帆ちゃんが受け入れるかどうかは分かってなかったから気になっちゃって」
「どうせ恋人作る気ないけど、私にも人肌恋しい時はあるし、雅以外と遊ぶ気もなかったし、それなら別に恋人でも変わんないかと思ったの」
「てことは、夏帆ちゃんからしたらセフレも恋人も変わらないから、恋人って名前で満足するならあげるよってこと? 」
「言い方悪いけど、大方そう」
玲くんの問いかけに肯定して、私は頬杖をつきながら重い溜息を吐き出した。
その彼氏(ということになっている)男はといえば、カウンターの端で見知らぬ女性客に愛想を振りまいている。人当たりの良さと、お酒を作る素早さに合わせ、あの顔。バーテンダーは、間違いなくあいつの天職だと思う。
「気になる? あのお客さん雅目当てで来るんだよ」
「別に? 浮気してもバレない様にしてくれたら何でもいいわ。付き合ってると思ったら浮気されるのは不愉快なのよね」
「しないと思うけど⋯…」
カクテルを飲み込んで、私は次の一杯を注文する。
それから手元のスマホに視線を落とすと、明日のことを考える。
明日は休みだし、一日中家で映画でも観て過ごそうか。それとも久しぶりに映画館まで足を運ぶか。
画面上の上映スケジュールをなぞりながら、明日の空白になっている予定を少しずつ脳内で埋めていく。
「ていうか、俺牽制されちゃった。告白したって雅にカミングアウトしたら、夏帆にちょっかい出したらお前でも殺すからなって」
おかしそうに肩を揺らす玲くんだけど、私には到底信じられなかった。彼が滅多に嘘を吐かないと知っていても、あの雅がそんな独占欲丸出しな発言をするように見えない。
そもそも、ただの友人だったはずの私に対して、なぜそこまで過度な独占欲を見せるのか、理解の範疇を超えているから、あまり現実味も湧かない。
「えー、あの雅が?」
「意外と独占欲強いよ、嫉妬も結構してるし」
学生時代、嫉妬が原因で何度か喧嘩をしたことはあるけれど、それは子供特有の幼稚な独占欲だと思っていた。自分のおもちゃを他人に貸したくない、という程度の。
むしろ、先日ナンパされた時なんて助けてくれるどころか、「こいつ気強いからやめときな、怖いよ」なんて男側に同情していたくらいだ。
……思い返すと、なんだか無性に腹が立ってきた。
「雅ほどわかりやすい奴も居ないと思うけど」
玲くんの言葉に誘われるように視線を移すと、不意に雅と目が合った。
何も反応もしないのも感じ悪いかと思い、ひらひらと手を振ってみる。すると、雅は相手をしていた女性客に「ごめん」と短いジェスチャーをして、こちらへ歩み寄ってきた。
「おい、声掛けろよ。無駄にニコニコした時間続いただろーが」
「はあ?仕事でしょ!てかなんて声掛けたらいいのよ」
「そこは彼女らしく可愛く「来ちゃった」とでも言えばいいんだよ」
語尾にピンク色のハートマークでも付きそうな勢い。
そんな台詞、死んでも私の口からは出てこない。
「バカじゃないの! 夢見てんじゃないわよ」
私がそんな可愛らしい女じゃないことくらい、雅が一番よく知っているはずだ。
「はあー、使えねぇ」
雅は心底がっかりしたように吐き捨てると、私が飲んでいたグラスを奪い、残っていたアルコールを一口で喉に流し込んだ。
女癖の悪さだけでは飽き足らず、こんなところまで手癖が悪い。
私は呆れ果てて、隣の玲くんに視線を向けた。
「玲くん、私別れてもいいかな? これ」
「多分別れてくれないと思うけどね」
「人の事これ呼ばわりかてめぇ」
雅のツッコミを溜息で受け流し、私は空になったグラスを眺めた。
次は何を飲もうかと思考を巡らせるうちに、一度やってみたかったセリフを思い出す。
「あ、これ言ってみたかったのよね。いつもの」
「お前バラけるから分かんねぇよ。どれだよ」
雅はぶっきらぼうに返しつつ、その手はすでに迷いなく動き出していた。
ボトルを手に取り、慣れた手つきで注いでいく。それは私がよく頼むオレンジのカクテルの材料だった。なんだかんだ文句を言いながら、ちゃんと把握していることに、少しだけ感心する。
「何だ、ちゃんと分かってんじゃない」
「それは良かった」
鮮やかな手際でシェイカーが振られ、透き通った液体がカクテルグラスに注がれる。雅はそれを、丁寧に私の前へと差し出した。
「本当絵になるわあ、一生黙ってお酒作ってて欲しい」
黙ってさえいれば、文句の付け所がないイケメンだ。口を開けばクズ発言の絶えない男だと分かっていても、その所作の美しさには、毒気を抜かれてつい見惚れてしまう。
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コメント
1件
うわあ、玲くんの策士っぷりがすげえな…!「発破かけちゃった」ってサラッと言うけど、完全に掌の上で転がされてた訳か。夏帆の「セフレも恋人も変わらないから」ってドライなスタンスと、雅の「お前でも♡♡♡からな」ってギャップ萌えがたまらん。黙って酒作ってる間は完璧なイケメンなのに口開けばクズってのがまた…続きが気になるわ🔥