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まなこ〜友
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#ますしき
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みぅです🤍 読んできました…! 玲くんの「好きでしょ」に動揺してぐるぐるしちゃう夏帆ちゃん、すごくわかりみでした。あの「今あんたと一緒にいたくない」って強がり、でも雅さんには全部お見通しな感じがもどかしくて甘い…!クズなのに有無を言わさず連れて帰るところ、最強ですね。続きも読みにきますね🌙
少し落ち着いたタイミングで、ずっと気になっていたことを問いかけた。
「てか、合鍵どうしたの?」
「え? 持ってるけど」
雅は平然と言い放ち、咥えた煙草に火を点けた。
……まあ、そんなことだろうとは思った。
この男に「返しておいて」と言って、素直に従うはずがないことはわかっていた。こんな男に鍵を預けた私が馬鹿だったと、小さく溜息を吐き出す。
「これで仕事終わりとかにでも好きに行けるし」
「いや、来ないでよ」
「彼氏に吐くセリフじゃねぇな」
雅の指先が、私の額を結構な強さで弾いた。
思わず「痛っ」と両手で額を押さえる。
そんな私たちのやり取りを、玲くんが眺めて笑っていた。
「二人、付き合っても変わんないね」
「割り切った関係ならいいよって言ったからかしらね」
痛む額をさすりながら、差し出されたお酒に口を付ける。
悔しいけれど、今日も完璧な味だった。これを飲むだけで、その日にあった嫌なことをすべて洗い流してくれる。雅の腕が確かなのはもちろんだけれど、私のために作られた一杯だと思うと、余計に気分が良い。
ふと視線を感じて顔を上げると、煙草を燻らせる雅がこちらをじっと見つめていた。
「何」
「ううん、今日も顔が良い」
「わかりきってる事言わなくて良いって」
「あんた、本当喋らなくて良いわよ」
イケメンゆえのナルシスト発言も、まあ、この顔なら許せるけれど、出来ればその喋れば無駄になる口を閉じておいてほしい。
喋らなければ完璧なのに、とそんなことを思いながら、私はまた目の前のカクテルを煽った。
「思うんだけど、今までと二人のことって何が違うくなるの?」
「うーん、そうね…⋯」
玲くんの素朴な疑問に、私は少しだけ考え込んだ。
関係性に名前がついたことで、今まで許せていたことが許せなくなる、なんてそんな変化はあるかもしれないけれど、それ以外は特に思いつかなかった。
そもそも変わらないと思ったから、交際を決めたわけだし。
「浮気は嫌かな、好きって迫って来といて他の女にもって考えると腹立つし、それこそ付き合わなくてよくない? ってなる」
「なるほどね」
「あ、これまでと違って普通に会うことに抵抗無くなるから、合鍵持たれてるのも問題ないし、旅行もまどろっこしい理由がなくても行けるようになるわね」
「いや、別に付き合ってなくてもするけど。お前とは」
「あんたと私じゃ違うのよ、クズ」
彼氏に向ける言葉遣いではない、と言われればその通りだけれど、この遠慮のない接し方も、お互いの生活を邪魔しない距離感も、変えたくない部分だった。
あくまで仕事を優先して生きたい私を理解してくれるなら、という条件での交際だから、急に”恋人ごっこ”を始める必要なんてない。
雅だってそれを了承したはずだから、これから何かが劇的に変わるなんてことは、きっと起こらない。というか、この男とは、良くも悪くもこれ以上は変わりたくなかった。
今は十分、心地いい関係を築けている。これ以上深く踏み込んで、取り返しがつかなくなってしまったら、いつか離れる時に、きっとしんどくなってしまうから。
数年前に一度、この男と終わった時の記憶が脳裏を掠めたが、それを振り払うように、私は残っていたアルコールを喉の奥へ流し込み、とん、と硬い音を立ててグラスを置いた。
「さ、程々に飲んだし帰ろうかな」
「そっか、雅。送ってってあげなよ。夜道危ないし」
玲くんの提案に、私は即座に首を横に振った。
まだ閉店前だし、雅が抜ければ店に迷惑がかかる。
何より、私のためにそこまでさせるのは気が引けた。
「いや、いいよ。最悪タクシー使うし」
「俺上がりでいい? このまんま」
「いいよ」
「ねぇ、私の話聞いてる?」
「ちょっとまってて、着替えてくる」
「聞いてよ」
誰一人として私の話を聞いてくれやしない。
雅は聞く耳を持たず、笑ってカウンターの外へ出た。バックヤードへ向かう際、すれ違いざまに私の頭をポン、と軽く叩くように撫でていく。
付き合い始めたせいなのか、こうした自然なスキンシップが確実に増えていた。今更、触れられるのが嫌なわけではないけれど、久しく忘れていた感覚に、どうにも調子が狂う。
「なんだ、夏帆ちゃん。雅の事好きでしょ、実は」
「え?」
不意に投げかけられた玲くんの言葉に、少しだけ驚いた。
私が、雅を好き? 一体どこを見てそんなことを言うの。
態度に出しているつもりなんて微塵もなかったし、自分の中に好きという感情が居座っている自覚も、今の私にはない。
「…⋯何で?」
「今の照れくさそうな顔、雅に見せてあげたいくらい乙女の顔してた」
玲くんが面白そうに目を細めていた。
だけど、私にはその言葉の意味がさっぱり分からなかった。乙女の顔だなんて、そんなガラじゃないことくらい自分が一番よく知っている。
好きかどうかなんてこともわからない。ただなんとなく、心地いいから一緒にいるだけで。
そう自分に言い聞かせても、あいつのふとした仕草にときめいてしまう瞬間があるのは事実だった。反論しようにも、自分の中に説得力が欠けているのを感じて言葉が詰まる。
「⋯…友達として気楽な関係ならいいと思っているけど、好きかどうかはわかってない」
「夏帆ちゃんは意地になって、好きって認めたくないのかなって」
「どうしてそう思うの?」
「なんとなく。勘だけどね」
玲くんの言葉は、最近の私には理解が及ばなかった。
当事者である私自身が自分の心を見失っているのに、なぜ彼が先回りして気づいているのか。自分が雅に対してどんな表情を浮かべ、どんな感情を抱いているのか、なんて考えても何も見えてこない。
ただ一つ、断言できるのは嫌いじゃないということ。かつての私は、女遊びに耽り、女性に不誠実な態度をとる雅が大嫌いだった。けれどそれも、ただの友人という距離に逃げ込めばどうでもいいことだと割り切れた。
────じゃあ、もし今、遊び飽きた雅に捨てられたとしたら?
再会したばかりの私なら、そこまでダメージも無かったと思う。お互い気楽な関係なんだから、離れたってかまわない。そう迷いなく言い切れたはず。
だけど今は、もしそうなったらまた深く傷つくのかもしれない、とそんな弱気な思考が胸を掠めた。
好きかどうか、そんな名前はまだ付けられないけれど、少なくとも今は、私の方が雅を手放したくないと思っているのかもしれない。
そうぐるぐると考え事をしていると、バックヤードから私服に着替えた雅が戻ってきた。
今の私の中は、ぐちゃぐちゃで整理なんてこれっぽっちもついていない。こんな時にまで傍に居られたら、本当に自分がどうにかなってしまいそうになる。
「お待たせ、帰んぞ」
「…⋯今あんたと一緒にいたくない」
「は? ふざけんな。急に意味わかんねぇ事言いやがって」
雅は露骨に顔を顰めると、カウンターに現金をポンと置いた。
そのまま私の腕を掴み、有無を言わさぬ力で立ち上がらせる。あまりに強引な引きに、足元がふらついたけれど転ぶより先に、私の体はあっさりと雅の腕の中に受け止められていた。
「じゃあ、後よろしく」
「ちょっと!?」
私はまだ、雅と帰ることに許可なんて出していない。このまま一緒に過ごす心の準備だってできていない。それなのに、雅は私の言い分をすべて無視して、強引に出口へと歩き始めてしまった。
助けを求めるように玲くんの方へ振り返ると、彼はとびきりの笑顔でひらひらと手を振っている。
だめだ、この人たちは私の話なんてこれっぽっちも聞いてくれない。ここには味方なんて一人もいないのだと、私は悟った。
「離せ~~~~~~~! この最低ゴミクズ男~~~~~~~~~~!」
「仮にも彼氏にそんな言葉吐くなよ。黙らせんぞ」
……あんたが言うと嘘に聞こえないんですけどと、本気で身の危険を感じて、私は不覚にもおとなしく従う羽目になってしまった。