テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
556
冷たい雨が降る夜だった。
古びた街灯の下、ひとりの青年が立っていた。彼の名前は「日本」。黒いコートに身を包み、静かに空を見上げている。その目には、どこか疲れと諦めが滲んでいた。
「また来たのか」
背後から低い声がした。振り返ると、そこには「アメリカ」がいた。ラフな格好のまま、ポケットに手を突っ込んでいる。
「別に。通りがかっただけだ」
日本は短く答える。
「嘘つけよ。この場所、昔のこと思い出すんだろ?」
一瞬、沈黙が落ちた。
雨音だけが、ふたりの間を埋める。
ここは、かつて彼らが衝突した場所だった。言葉では済まなかった、歴史の重みが残る場所。
日本はゆっくりと目を閉じる。
「忘れたくても、消えないものはある」
「そりゃそうだ」
アメリカは肩をすくめる。
「でもさ、それだけ抱えてたら、前に進めなくね?」
日本は少しだけ笑った。ほんのわずか、皮肉を含んだ笑みだった。
「前に進んでいるつもりだよ。ただ…足跡が消えないだけだ」
アメリカは何も言わなかった。ただ、隣に立つ。
やがて、雨は少しずつ弱くなっていく。
「なあ、日本」
「何だ」
「またさ、こうやって話せるなら——それでいいんじゃねえの?」
日本は少し驚いたように目を見開く。
そして、小さく頷いた。
「…そうかもしれないな」
雲の切れ間から、わずかに月の光が差し込む。
過去は消えない。
けれど、それでも彼らは同じ時代を生きている。
それが、今の「関係」だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!