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翌朝。
登校の道を歩きながら、僕の心臓は昨日からずっと落ち着かない。
若井と顔を合わせるのが、
怖いような。
でも会いたいような——そんな矛盾した気持ちでいっぱいだった。
校門の近くで、いつものように声がした。
「よっ、元貴!」
笑顔の若井が手を振って駆け寄ってくる。
その姿に、胸が一瞬きゅっと詰まった。
何でもない顔をしようと必死に口角を上げる。
「……お、おはよ」
たったそれだけの挨拶が、どうしてこんなにぎこちないんだろう。
若井も一瞬だけ表情を曇らせたが、
すぐにいつもの調子を取り戻したように見えた。
「昨日のギター練習さ、めちゃくちゃ弦切れちまってさ。
帰り大変だったんだぜ」
「へ、へぇ……」
会話は続くけれど、どこかで互いに探り合っている。
目が合うとすぐに逸らしてしまう
自分に気づいて、余計に意識してしまう。
——藤澤さんの言葉が頭をよぎる。
『心が苦しいのは、嫌な意味だけじゃないんだろ?』
そうだ。
嫌じゃない。むしろ胸が熱くなる。
でも、それを認めてしまったら
僕たちの関係はもう“普通”には戻れない気がして……。
昼休み。
食堂で並んで座ったものの、ぎこちない沈黙が流れる。
箸を動かしながら、僕はちらりと若井を見た。
彼はわざと何でもない風を装っているけど、
指先が小さく震えているのが分かる。
——あぁ、僕と同じなんだ。
それに気づいた瞬間、胸がさらに締めつけられた。
友達なのに。
大事な幼馴染なのに。
それ以上を感じてしまっている自分が、どうしようもなく怖かった。