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ご本人様方とは一切関係ありません
事務所を出ても、まっすぐ家に帰る気にはならなかった。
苛立ちが胸を締め付ける。
でもその怒りの向かう先は自分でも分かっていた。
それはりうらでもなく、ないこでもなくて…。
ないこを諭したり話を聞いてやったりする余裕もなく、手を振り払うことしかできなかった俺自身にだ。
「あれ? まろ?」
家の最寄駅に着いたはいいけれど、帰る気にはなれず夜道をさまよっていた。
そこで声をかけられて俺はゆっくりと振り返る。
「あにき…」
「どないしたん、お前んち逆方向やん」
コンビニにでも行っていたのか、ビニール袋を提げたあにきがそこにいた。
「ちょっと…帰る気せんくて」
あの家に帰ったら、ないこのことを思い出すに決まってる。
あの部屋で…あのベッドで、何回抱いたか分からない。
その時の記憶が蘇ってきたら、さっきのないこの言葉まで思い出して今度こそ胸が押しつぶされそうだ。
「なんかようわからんけど…時間あるんやったら付き合う?」
ビニール袋の中から取り出したコーヒーを俺に投げて寄越して、あにきはすぐそこにある公園を指差す。
「え、そこは酒ちゃうん」
「しゃーないやん、酒買うてないもん」
肩を竦めて言うあにきに、俺は少しだけ笑い返せた気がした。
「で、ないこと何があったん」
近くの公園に入ると、あにきはベンチではなくブランコの前に備え付けられた柵に腰かけた。
ペットボトルの蓋を開けながらのそんな言葉に、俺は「え」と目を見開く。
「何で…?」
「え? だってまろ怖い顔しとるやん。子ども組がなんかしでかしたんやったらお前は説教はするかもしれんけど、そんな風に怒れへんやろ」
「……」
「で、年上の俺にはそんな顔せぇへんやろうし、ないこしかおらんやん。お前がそんな顔で対等にケンカするやつ」
…対等…。そうだろうか。
ないこの言葉に傷つきたくなくて遠ざけた俺には、対等でいられる資格もないと思う。
「まぁお前らがケンカするとしたら、9対1くらいでないこが悪いと思うけど」
「…ふ、何で?」
「だってないこは突っ走り系で、まろはブレーキ係やん、前から。ケンカするとしたらほぼほぼ原因はないこやろ」
茶化しているのかと思ったけれど大真面目な顔で言うものだから、おかしくなって少しだけ笑ってしまった。
「まぁそれでもえぇヤツやからさ、謝ってきたら許したれよ」
「…俺は謝って欲しいわけではないよ」
柵に座るあにきの前に立って、俺はぽつりとそう返す。
「もうなんか…ないこの話を聞くのが怖い。ないこが何を考えとるんかさっぱり分からん」
最初の約束を守ろうとして関係を終わらせる話をしたときは、あんなにすんなり受け入れたくせに。
きれいに笑って受け入れて、少しでも引き止めてくれるかもなんていうバカな俺の期待を打ち砕いたくせに。
それで、今度は俺の好きな人には黙っておくからセフレを続行しろ?
ないこが何を考えてるのか全然分からない。
そもそもお前には好きな相手がいるんじゃなかったのか。そっちはどうするんだ、とさえ思う。
「んー、まぁそれでもなぁ」
俺の顔を見上げるあにきの目を、見つめ返すことはできなかった。
「話聞いてやらんかったら、相手が結局何考えとるんかいつまでたっても分からんやん?」
「……」
ぐうの音も出ない正論。
言葉に詰まった俺が、ペットボトルを持つ手に力を込めたその時だった。
「? ちょっとごめん」
あにきのスマホが鳴り、「もしもーし」と応対する。
その間にもらったコーヒーを一口飲むと、今の自分の気持ちを表したかのような苦味が口内いっぱいに広がった。
「え? 今から? あー別にえぇけど…」
少し驚いたような声で電話の相手に応じるあにき。
「え、なんかマジで大事な話なん? 今まろと一緒におるんやけど。2人じゃないとあかん話?」
あにきがそう話しているのを聞いたから、俺はジェスチャーで「帰る」と示した。
「あー、まろ帰るって。じゃあ家で待っとるわ。気をつけて来いよ、りうら」
…りうらか。
さっきの事務所でのやり取りを思い出して、あにきにも聞こえない程度の小さな舌打ちをする。
俺のためかないこのためか…判然とはしなかったけれど、あいつがこちらを挑発してきたことは間違いない。
あんな見え見えの下手くそな煽りに乗るわけないだろ。
本当にあいつはああいうところがくそ生意気。
それが憎めないところでもあるけれど。
通話を終わらせたあにきが、「ごめんな」と謝る。
「何であにきが謝るん。なんか話があるって言われたんやろ?」
「なー。りうらがそんなん言うてくるん珍しいよなぁ」
首を捻るあにきとはそのまま別れ、公園の出口でお互いに反対方向に歩き出した。
帰る気はまだ湧かない。
かと言ってしょにだやほとけのところに行く気にもならない。
リア友に連絡を取る気分でもなく、仕方がなく俺はそのまま一人でも入れそうな居酒屋に向かった。
バーなんてシャレた店に行くと、雰囲気に飲まれて余計自分がかわいそうに思える気がした。
だから選んだのは会社帰りのサラリーマンが一人でも行けるような店だった。
サワーと甘めのカクテルを何杯呷ったか分からないけれど、今日は大して酔える気もしなかった。
飲んでいる最中、一度だけスマホが鳴った。
テーブルの上に投げっぱなしだったそれが細かい振動を伝える。
その画面に目をやって、そこに浮かび上がった名前に一瞬目を瞠った。
(ないこ…)
さっきまでの胸の痛みがぶり返してくる。
この電話に出たらどうなるんだろう?
謝られるのか、弁解されるのか…それとも全く予想してないようなことを言われるのか。
『話聞いてやらんかったら、相手が何を考えとるんかいつまでたっても分からんやん?』
先刻のあにきの言葉が脳裏をよぎったけれど、だからと言ってさっきの今でないこと話ができるとは思えなかった。
長いコールの後、諦めたのか振動が途切れる。
「……」
スマホを見ないで済むように鞄の中に突っ込んで、俺はもう何杯目か分からない酒を飲み干した。
店主に嫌な顔をされなかったのをいいことに、結局そのまま数時間は居座ってしまった。
帰る気にならないのは相変わらずだったけれど、それでもいつまでもこうしていられないのも分かってる。
重い腰を上げてようやく帰路に着いたのは、もう日付が変わって大分経ってからだった。
途中のコンビニでヨーグルトと飲み物だけ買う。
「さむ…」
ビニール袋を提げてマンションに向かう間、あまりの冬の冷気に思わず眉を顰めてしまった。
帰ったら暖房つけて、風呂…は今日はもういいか。
シャワーだけ浴びてさっさと寝てしまおう。
酒のせいか幾分高揚してはいたけれど、シラフだったらきっとまた余計なことを考えて眠れなかったに違いない。
そんなことを考えているうちにマンションのエレベーターは目的階に到達する。
下りて、一番奥まで歩いていると深夜のせいかコツコツといつもより靴音が響いた。
俺の部屋は廊下より少し奥まったところに玄関ドアがある。
長い廊下の行き止まりまで行って、そこを曲がったそのときだった。
「……」
ドアの前に蹲って、顔を伏せているピンク色が視界に映る。
俺がこれ以上ないくらいに目を大きく見開くのと、ピンク髪を揺らしてないこが顔を上げるのが同時だった。
「まろ…」
「っ…」
「まろ、まろ…っ」
勢いよく立ち上がったないこは、そう必死に俺を呼ぶ。
いつからそこにいたのか…寒さのせいなのか。
その顔面は驚くほど真っ白だった。
「…何で…こんなとこおるん」
声を絞り出すように、それだけ言うのが精一杯だ。
「…ちょっとだけでいいから、話させて」
「俺はもうないこと話すことはないよ」
かぶせるように言って、ないこの横をすり抜ける。
玄関ドアの鍵穴に鍵を差し込んで回した。
カチャンといつも通りの音がしただけのはずなのに、静寂のせいか今日はやけに響いて聞こえた。
「……」
即答した俺の言葉に、ないこが傷ついたような顔をする。
勘弁してくれ、…泣きたいのは俺の方だ。
「ちょっとだけでいいから。会話するのが無理なら、俺が言うこと聞いてくれるだけでもいいから!」
「……」
あにきが言っていたのは正論で、俺が間違ってるって分かってる。
本当はないこの話を聞いてやるべきなんだと思う。
(でも…まだ無理やって)
ないこがそもそも誰を想ってて、どんなつもりで今まで俺と関係を持ってたのか。
その関係を終わらせたいのか終わらせたくないのか…全部冷静に聞ける自信がなかった。
誰だって、傷つくと分かっててそこに飛び込みたいやつはいないだろ。
「まろ!」
中に入って、そのままドアを閉めてしまえればどれだけ良かっただろう。
それでも深夜に大きな声を出されるのも居座られるのも近所迷惑になりそうで、俺は仕方なくないこを玄関に入れた。
「まろ、俺…」
それほど広くない玄関内に入り、ないこの後ろでドアがパタンと音を立てて閉まる。
それを待たずに話を始めようとしたないこに、俺は小さく頭を振った。
「ごめん。冷静に聞ける自信ない」
言った瞬間、ないこがひゅっと息を飲んだのが分かる。
「できればこのまま帰ってほしい」
…そんなに傷ついた顔するなよ。
眉を落として泣きそうに揺れるピンクの瞳を直視できない。
ないこのことが好きな俺は結局ないこの傷つく顔を見たくなくて、すぐにでもこの手を伸ばしてしまいそうになる。
抱きしめてしまえれば、どんなにいいか。
頭を撫でて、大丈夫だって言ってやりたいけれど。
それでも今ここでそれをやったら全てが振りだしに戻るだけだ。
「…ごめん」
ないこが、ぽつりと言う。
「まろがそう言うのは…当たり前だと思う。でも…せめて謝らせてほしくて。さっきひどいこと言ってごめん」
「俺は謝って欲しいわけではないよ」
「うん…」
手を伸ばしたい衝動を堪えながら、俺は体の横でぐっと拳を握った。
「でも無神経なこと言ったし…いやそれ以前に、無神経なことしてたし」
体の関係だけ持っていたことをだろうか。
ないこはそう言いながら苦しそうに眉を寄せる。
「…もうえぇよ。お互い忘れよ。明日から普通にメンバー同士に戻ったらええだけの話やん」
言いながら、握った拳により力を込める。
手のひらに爪がくいこみそうなくらい。
「…それは…無理」
譲歩するように言ったはずの俺の言葉を、ないこはそう言って拒否した。
「普通のメンバー同士には戻れない。俺は」
ないこの言葉に、俺は本気で呆れそうだった。
「はぁ」と盛大なため息をついて、後頭部の辺りをがしがしと掻く。
「なにお前、まだセフレ続行とかふざけたことぬかすん?」
さっきまで傷ついて泣きそうな顔をしていたくせに。
今目の前のないこは、涙で濡れそうな瞳をそれでもまっすぐこちらに向けていた。
凛としたその光には一点の曇りもない。
「違う。そういうのはもうやめる。まろにもう迷惑かけたくない」
じゃあなんなん、言いかけた言葉を声に乗せるよりも早くないこが続けた。
「まろが誰を好きでもいいよ。最初はその人を忘れてくれないかって思う気持ちもあったけど、もう今はうまくいってもいいとさえ思ってる。俺もできるだけ応援する」
「……」
「でも、想うだけなら…許されないかな」
ないこが必死な声でそう続けるものだから、俺は息をするのも忘れるほど無言でその目を見つめ返すしかなかった。
「まろの邪魔は絶対しないから、せめて俺がまろのことを想い続けるのだけは許してもらえないかな」
「……え?」
「好き、なんだよ」
目を見開いた俺に、ないこはいつもより早口で続ける。
「好きなんだよまろのことが! ずっと前から………!」
ないこが、そう言い終わらないうちに。
俺は自分でも無意識の中、それまで衝動を抑えていたはずの左手を前に伸ばしていた。
この作品はいかがでしたか?
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コメント
2件
ついに言いましたねっ!(。•ㅅ•。)♡ もうワクワクドキドキでヤバかったですけど、今回も最高でした😭👏✨ 本当にこういうのって泣けてきちゃいますよね…🥹💖 私話が更新される度に振り回されてますね( ˙꒳˙ ) どうなるのかどうなるのか、って楽しみでしかないです🥰 更新ありがとうございます🙇♀️ 更新される度に走って言ってます🚗 ³₃表現、展開、そういうのが全て好きすぎてついつい魅入ってしまいます
黒さんの9:1で桃さんが原因だと言ってるのが思わず笑いそうになってしまいましたꉂ🤭︎💕 赤さんと黒さんの行方も気になるところですが、ついに桃さん言ってしまいましたか、!!!✨✨ もう大興奮です…😖💓 展開にドキドキしていましたけどもやもやが晴れた気分です…✨ 毎日のように楽しませてもらって感謝でしかないです…🫶🏻💗 ̖́-